色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第78回 昔々……(49) ロケハン!

「アニメスタイルの連載、読んでます!」とか「『キャシャーン』観てます!」とか、最近いろんなところで若い同業の方から声をかけられることが多くなりました。

いやはや(汗)。

こう見えて僕は、実は結構照れ屋でありまして(苦笑)。何回かお会いした方とは別段特にどうということもなく至って余裕に普通に調子こいて楽しい会話とかもできるのですが、スタジオとか出先とかで、若い方、特に女性の方に声をかけられるとですね、もうね、結構ビックリドキドキでアタフタしちゃいます。

先日も某スタジオでお声をかけていただいたんですが、なんかもうアタフタしちゃいまして、どうもちゃんとした受け答えができなかったような気が……。

そのときは(っていうか、いつも大抵)考え事しながら歩いてて、非常に無防備なとこで声かけていただいちゃいまして、ビックリアタフタでありました(汗)。

せっかく声をかけていただいたんだから、なんか気の利いた受け答えのひとつもできたらなあ、とは思うんですがねえ。ごめんなさいです>あの時のあなた

いやはや……。

でもね、本人、実はかなり嬉しいです(笑)。みなさん、ありがとうございます。そういう反応をいただけると、すっごく励みになります(笑)。

なので、極力原稿は落とさないように……げほげほ……がんばります(大汗)。

さてさて。

とにかく、始まりはした『Coo 遠い海から来たクー』ではありますが、なにせシナリオ待ち、次いで絵コンテ待ちの日々であります。たしか、この時点での劇場公開の予定は翌年(1993年)夏、ってことになってて、なのでまだ1年以上も先でありました。

1年後!

それまで僕は、完成までのスケジュールがそんなにあるような作品、やったことがなかったのです。いつも「時間がない!」とか「納品まであとひと月!」とか、まあそんな感じのものばっかりだったんですね。TVシリーズは結果的に1年くらいやってたりしますが、それだって、毎週1本ずつ作っていっての1年間だったりなわけで、1本1本はいつも少ない時間で毎週いかに戦って勝つか、みたいな。そんな繰り返しでありました。

「『Coo 遠い海から来たクー』はちゃんとした制作期間をとって、東映本来の劇場用長編作品の作り方で作るのだ!」当時、『Coo』の制作の指揮を執っていた蕪木氏の言葉であります。

そう聞いて思い起こすに、僕が東映動画で最初に携わった劇場用作品はあの伝説の『オーディーン』で、あれなんかまさに時間が全然ない中で作ってなんとか終わらせちゃった作品だったし、お手伝いさせてもらった劇場版『北斗の拳』も『TRANS FORMERS THE MOVIE』(アメリカとの合作作品)も、規模は大きかったけど実作業は割と一気に駆け込みで作ってたし、僕がメインで担当した『聖闘士星矢』の劇場版たちや『ゲゲゲの鬼太郎』も、つまるところ「東映まんがまつり」の延長線上の製作規模でしかなかったわけで。

かつての『銀河鉄道999』なんかの頃すら知らない僕たちですから、「東映本来の劇場用長編作品の作り方で作る」という言葉に、ちょっと感激したのを覚えています。

なので、まずは絵コンテ、設定にちゃんと時間をかけて、土台作りをシッカリとやろう、とそういうスタンスであったように思います。

ということで、キャラデはキャラクターのデザイン、美監は美術設定、と、それそれ基本の設定作業を地味〜に進めておりました。その間、僕はといえば、上がってきたキャラクターデザインから色見本を作り始めながら、その年2本目の『DRAGON BALL Z』の劇場版と戦ってたり、ガンで母を亡くしたり(泣)。

「ロケハンに行きましょう!」

もうカレンダーは7月になろうという頃のこと、急遽そういう話が起こりました。

「え? ロケハン? 南太平洋?(期待)」

「ん、油壺」

「……あ、油壺?(汗)」

「クルーザーとかってね、やっぱり一度ちゃんとしたのを見ておかないと、ナマで。コンテ描くにも今ひとつわかんないんだよね」と今沢監督。まだまだコンテ作業中、設定作業中であったのですが、どうも行き詰まってたようなのです。

さらに……「イルカとかってね、やっぱり一度ちゃんとしたのを見ておかないと、ナマで。コンテ描くにも今ひとつわかんないんだよね」ということになったようで、いろいろあわせて、東京からほど近い神奈川県三浦半島の油壺へロケハン、ということになったのでした。

ロケハン! なんとも楽しい響きであります(笑)。思えばこれが初めてのロケハンだったような気が。白状しますが、この時の僕は正直半分遠足気分でありました(苦笑)。東京から車2台に分乗して油壺を目指してる間は、なんか訳もわからずフワフワとただただ「楽しい」という気持ちばかりだったのです。

まだよく理解していなかったのですね、ロケハンの持つ意味合いを。単純にクルーザーやイルカ見るのなら1人1人でバラバラに見に行ってもいいんですよ。でもね、スタッフみんなで同じもの見ながら話をする、設定やビジュアルの意見を言い合う。そういう場や時間を共有することが、みんなでひとつの作品作り上げていく上で重要なのです。

「ああ、こういうことなんだ、ロケハンって」

油壺のマリーナに繋がれた大型クルーザーの甲板の上で、今沢監督や山本二三さん、大倉さんたちと実際の物語本編のシーンを想定しながらの話をして、「なるほど、こういうことがロケハンなんだな」そう思ったのでした。

そのあと油壺マリンパークへ移動して、イルカやそのほかの水棲生物たちを見学。そこでもイルカの泳ぎを見つつみんな意見が飛び交います。いやあ、実にいい感じでありました。ロケハン、やっぱり重要なのです!

で、その油壺ロケハンの最後は、三崎港まで足を延ばしてみんなでご飯でありました。三崎港といえばマグロですよ!地元漁協の経営する食堂でおいしいマグロをいただきました。最後はみんなでおいしいご飯。これもロケハンの重要なポイントなのですね(笑)。

■第79回へ続く

(09.02.10)