色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第71回 番外編 ついに完成! 『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』

皆さんはエレベーターって何階以上なら使いますか?

僕が住んでいるのは6F建てマンションの4Fなのですが、1Fから自宅への上り下り、ついついエレベーターに乗っちゃいます。ま、部屋のドアのすぐのところにエレベーターがあるってのも、ついつい乗っちゃう大きな理由なんですが(苦笑)。

なんとなくね「3Fまでなら階段、4F以上ならエレベーター」っていうのが、どうやらルールとして自分の中にあるみたいなんですよね。なんでだろう?

子供の頃に僕が通ってた小中学校って3F建てだったんですよ。毎日通ってた学校が3Fまで当然階段なわけで、なので、知らず知らず「3Fまでは階段」ってのができ上がっちゃったのかなあ? と。

どうなんでしょうね?

あれ? 高校は4F建てだったなあ……(汗)。

ちなみに、東映アニメーション大泉スタジオは基本3F建てであります。なんかね、会社っていうよりも学校っぽいかなあ? で、僕の机は2Fにあって、ラッシュチェックのたびに3Fの試写室まで上がるワケなんですけど……ちょっぴりエスカレーターが欲しいかもです(苦笑)。

さてさて。

今月(12月20日)公開の劇場用作品『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』の宣伝番外編第3弾であります(笑)。

前回書いたとおり、すでにあるTV版のキャラクターたちの色味を修正して作ったレギュラーのキャラクターたちの色と劇場オリジナルのキャラクターたち、今度はそれらとシーンごとの背景美術とを合わせて、シーンごとの色味の確認作業をしていきます。

気張って「劇場用作品」とか考えちゃうと、僕はついついやりすぎちゃうんですが、今回は古賀監督やプロデューサーとの申し合わせで、「TVシリーズとかけ離れないように」とのこと。それを念頭においてシーンの整理を始めたので、割とノーマルっぽい画面を目指してあります。それでも、劇場版なのですから、それに見合うダイナミックな画面も目指していくわけで、そのあたりが苦心のしどころ。

ざっくり言うと、昼間の屋外シーンにイチバンの基本であるいわゆる「ノーマル」の色指定を据えています。

何ヶ所かある夕景のシーンは、それぞれの夕景の深さに合わせて都合8種類の夕景色指定を作りました。

同様に、夜の色指定も4種類です。それと、妖怪横町や某洞窟内、えんま様がいらっしゃる地獄界、いろんな回想イメージのシーンといった特殊な場所、時制での色味もかなり作りましたね。

あとは戦闘時の光芝居やら照り返しの芝居やら、そういった色味はほとんどカットごとの決め込み対応でありました。あ、あと、TV版でおなじみのBANKカットなども、当然今回の劇中の使い方に合わせて色味も調整してあります。

クライマックスのシーンが夜になってしまったので、セルはやはり夜っぽい色味を作っていったのですが、ここでも「あまり暗くしない、キャラクターのノーマルの色味を感じさせるような色味で」という監督からのオーダーもあって、結構スッキリとした夜色を作ってみました。

鬼太郎の家の中や華の屋敷の中の昼間は、一応「ノーマル」の色指定で彩色してもらっておいて、セル検査の時点で調整してます。そのカットの背景にセルを乗せてみて、若干明るさを調整しています。

そうそう、今回は全編、色指定と最終のセル検査を僕が1人で担当していたので(彩色検査については、僕がチェックさせてもらう前に海外からの彩色上がりを数名のスタッフが粗検査してくれる、というシステムでした)、撮影に渡す前に背景とのマッチングでセル色に調整をかける、という作業をやっていきました。

あらかじめ決めたシーンの色指定をもとに、それぞれ色指定していくわけなのですが、それでもやっぱりカットによっては、作画の影の分量だとか、背景の暗さ明るさの表情、あえてそのカットでやりたい芝居内容など、いろんな要素があるわけで、単純に「このシーンの色味はこの色指定で塗ってあればOK」とはいかないことも多いのです。

なので、背景の上に実際セルを置いてみて、そのカットそのカットでちゃんと意図した画面のバランスになるように、少しずつ明るさや色味の調整をしていくのです。

作品によっては、そういう調整作業とかはAfterEffect遣いの別の専門スタッフ置いてたりというところもあるようですが、この『鬼太郎』に関しては、かなりの画面を僕のところで作り込みさせてもらいました。

そして、忘れてはならないのが特殊効果のお仕事ですね。ほとんどの質感的処理加工は特殊効果班の作業です。手描きのアニメには、彼らのセクションの仕事は外せませんよ! 今回もいろんな処理手法を考えつつ、膨大な量の作業をやり抜いてくれました。前述の決め込み調整の際にも、「あ、やっぱここ、ブラシ追加で……」というような僕のワガママなオーダーをしっかり受け止めてくれました(笑)。

アニメーションの制作工程は流れ作業であります。原画が終わって作監作業が終わって、最後のカットが僕のところにきてからの実質7日間、これが最後の攻防になっていきます。この7日間で全部終わらせなくてはならない。一気に完成に向かって加速するのです。この「炎の7日間」(笑)に突入するまでに、いかに多くのカットをラッシュOKもらえるか、というのが、劇場作品制作の追い込みにおけるひとつ大きな鍵となるのですね(笑)。

今回は各セクションの連携もうまくいき、大きな混乱とかもなく、なんとか切り抜けられました。いやあ、よかった! この歯車が狂っちゃうと、最後に残ってしまった大きなリテイクを泣く泣くあきらめなくてはならない、なんて状況にもなりかねないのですね。でも今回はスタッフがしっかり納得できるできあがりに仕上げられました。

そんなこんなで、この原稿書いてる12時間ほど前になんとか全カットOK出しました。あとは現像所での0号試写を待つばかりであります。

短編『ゲゲゲまつりだ! 五大鬼太郎』そして『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』、皆さんに観ていただけるまであと2週ちょっと(あ、来週末に先行上映らしいですが)。乞うご期待であります!

■第72回へ続く

(08.12.02)