色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第54回 昔々……(35)入院! 手術! それが初めての「色彩設計」へ! 『天上編 宇宙皇子』その3

先週末、母の十七回忌の法事がありまして、すっげえ久しぶりにスーツを着ました。あ、喪服(礼服)も、まあスーツって言えば、まあスーツでしたね(苦笑)。礼服は4月に着てるんですが、普通のスーツ(←ややこしい)は実に1年ぶり以上だったんですよ。で、ちょっと体型的に不安が頭をよぎったんですが、おかげさまでそっちはダイジョウブでした(笑)。

スーツって言えば必ずついてくるのはネクタイですね。このネクタイってやつ、これね、日頃されてる方には何でもないものなんでしょうが、僕らのような「非スーツ派」にとっては意外に強敵です。

もうね、長さがうまく揃いません!(爆)

幅の広い方と狭い方の長さのバランスが絶対的に合わないんですよ(泣)。往々にして幅の狭い方が下から「だら〜ん」とだらしなくご登場になってしまい、で、やり直すと、今度は広い方が股間めがけて「だら〜ん」と。で、もう一度やってもまた……みたいな。もうお約束ですね(苦笑)。

で、まあ、なんとか3回で事態は収拾できたのですが、毎度ながら「社会人としていかがなものか?」と、ちょっとばかり落ち込みます。

ああ、やっぱり、時々はスーツ着なくちゃなあ。でも、僕らの業界、下手にスーツなんか着てスタジオ行くと「辻田さん、会社辞めるんですか?」と真顔で訊かれて閉口です(苦笑)。

さてさて。

なんとか滑り出した『天上編 宇宙皇子』。第1話「皇子よ!今こそ旅立て」(演出/今沢哲男)、第2話「無惨!阿修羅王」(演出/梅澤淳稔)、第3話「再会!戯女市の女」(演出/吉沢孝男)と、3話までで演出陣、作画陣がひと回り。第4話からローテーションふた回り目に入りました。

3話までで、各スタッフそれぞれがだいたいこの作品のフンイキや手触りを確かめたっていう感じ。演出さんによってそれぞれに「味」が違ってて、その違いがまたうまくそれぞれのお話のテイストに不思議とマッチしてて、三者三様、楽しんで仕事ができました。

東映動画の大泉スタジオには試写室があって、すべての作品のラッシュチェックと初号の試写がそこで行われます。ラッシュチェックは原則その話数の担当スタッフだけで観るのですが、完成した作品の初号試写には他の話数担当のスタッフたちも観にきます。

TVシリーズ作品と違い、毎週1本納品という詰まったスケジュールではないので、今観た初号の次の話数担当のスタッフはまだ作業に入ったばっかり、という状況が多かったのです。なので、その初号に触発されたり刺激受けて、今作業中の内容にちょっとひとさじ味つけが足されたり、とそんな感じでスタッフ間でもちょっとした競い合いがあって、だんだん出来が高まって行きました。そのうち、ラッシュチェックにも他の話のスタッフが見にくるようになってくるのでした。

『天上編 宇宙皇子』では、演出と作画陣はローテーションでしたが、美術と色指定はずっと担当者が同じだったので、打ち合わせの際に「前の話の○○よりももっと△△な感じで……」的に回を追って段々と演出の要求のレベルが上がっていくのがとっても楽しくてなりませんでした(笑)。そしてお話自体も、より大きく深いところへ進んで行きます。

そんな気分で4話からのローテーションに入っていくのですが、ここで僕がやっかいな状況に陥っていきます。身体的な問題です。前々から痛めていた左肘の状態がかなり悪化。痛みとペンを持つのもやっかいなほど痺れちゃうという症状に襲われていました。

左肘部管症候群。よく肘をぶつけたりすると「び〜〜ん」ってすごく痺れちゃったりしますよね? ちょうどその部分を通ってる神経の炎症が原因なのでした。病院に通いつつ、消炎剤と痛み止めでなんとか堪えてきていたのですが、やはり限界。で、外科的手術ということになってしまいました。約2週間半の入院です。

いやあ、参りました(汗)。お話は、皇子と帝釈天が各務という女性を巡って対決していくという、ますます面白くなる展開です。しかも、荒ぶる帝釈天、持国天・増長天・広目天・多聞天の四天王らを取り巻く「三十三天」という、文字どおり大人数の神々が登場する話が続いていきます。それらの色味の設定も作らなきゃならないし……。

しかしながら、こんな状況では満足な仕事ができるはずもなく、また、僕の入院・手術、そしてそのあとの回復期含めての1ヶ月以上、いくらスケジュールがある、と言っても、作業を止めて僕ごときを待っててくれるなんてワケも当然ありません(笑)。

結局、「三十三天」をはじめ、登場キャラクターのカラーデザインはなんとか僕がやりきってから入院ということにして、第4話、第5話の色指定はそれぞれ、森田さん酒井さんという大先輩にお願いすることになってしまいました。

あ〜、全話、全部を自分でやりきれるはずだったのに、う〜む、残念!

でもまあ仕方ないので、いろいろ考え巡らせました。「とにかく、特殊彩色とかの色指定は僕が決めて、あとは細かく打ち合わせしてお願いしよう」と。

思えば、これが「色彩設計」として他の色指定さんと仕事をする、僕にとって初めてのケースとなったのです。

たしかにそれまでもTVシリーズではキャラクターの色を作ってきたのですが、基本あくまでもその話ごとに演出さんと色指定さんが打ち合わせて作業を進めていく、というやり方で、各話の内容や色指定さんの仕事に、僕の方から積極的に濃く関わるというスタンスではなかったのです。

『天上編 宇宙皇子』のこの2本では、演出さん美術さんとの打ち合わせのあと、あらためて僕と担当色指定さんとで個別に打ち合わせを組んで、事細かに打ち合わせしました。たしか、色指定香盤表も作って渡した記憶が。

手術が決まって、でもベッドの空き待ちで入院時期が確定するまでの間、あわただしくバタバタと作業をすすめていたのでした。で、予想より早くベッドが空いて、予定よりだいぶ早く入院することに。なので、一部作業が間に合わなくて、結局僕は設定を病室に持ち込み、病棟の休憩室で間に合わなかった作業を片づけたのでありました。

ちょうど1990年の梅雨の頃のことでありました(笑)。

■第55回へ続く

(08.06.04)