色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第51回 特別編 もう一度だけ『墓場鬼太郎』色彩設計おぼえがき的各話解説!

昨日『墓場鬼太郎』DVD第4巻に封入されるブックレットの取材がありました。地岡監督、山室作監に続いて、倉橋美監、森田CG監、そして僕の3人まとめてのインタビュー。インタビュアーとしていらっしゃったのは「リスト制作委員会」の原口さん。おおっ! 初めてお会いしました。

で、なごやかにインタビュー始まったワケなんですが、いやあ、実はもういろいろ忘れかけてまして(苦笑)。これは僕だけじゃなくって、倉橋さんも森田さんもそう。聞けば、地岡監督も山室さんもそうだったみたい。いやはや(苦笑)。前の作品はどんどん忘れていかないと、次に差し支えたりってこともあったりするので、僕らって割とそういう傾向あるのです。

でも、原口さんに導かれるままに話してたら、僕ら3人、だんだんいろいろ思い出してきまして、約2時間の取材が終わる頃には、だいぶ当時の記憶がはっきりしてきたのでありました(笑)。

ちょうど同じ日にDVD第3巻第4巻のジャケットの画の仮組みチェックも終了。これで『墓場鬼太郎』ともお別れかな? なので、この取材は、僕らにとっても、いい区切りになった感じです。

さてさて。

原口さんのインタビュー受けてたら、なんか話し足りなくなりまして(笑)、と同時に、忘れていっちゃういろんなこと、どこかに書き残しておいた方がいいかな? って思いました。で、唐突ですが、今回は『墓場鬼太郎』の色彩設計的各話解説であります。

■第1話 鬼太郎誕生 絵コンテ/地岡公俊 演出/波多野浩平 色指定/辻田

第1話は僕が色指定も担当してます。僕が設計を任されてるシリーズ作品では、制作的支障がない限り、第1話は僕が色指定させてもらえるようにお願いしてます。というのも、やっぱり自分で色指定やってみないと分からないことって多いのです。まして新しく始まる作品はなおさらのこと。設計段階で想定していたことを越えて、いろいろ問題点、注意点が出てくるのですね。

で、第1話。なんと言っても悔しかったのは、冒頭の夜のシーン、寝間着姿の水木のシーン。もうね、出ないんですよ、色が(苦笑)。あのシーンは青基調の夜色で行く予定でそのように設計して色指定したんですが、撮影してみたら見事に青みが押さえ込まれてしまって、ほとんどグレーのモノトーンっぽくなってしまいました。撮影さんに無理を言って2度3度と撮り直していただいたんですが、やっぱりダメ。「そういうクセモノなのね? このフィルターは!」と、「墓場フィルター」の謎の特性を呪ったモノでした(苦笑)。

■第2話 夜叉対ドラキュラ四世 絵コンテ・演出/角銅博之 色指定/秋元由紀

この話の制作はかなりギリギリで、年末年始と年を跨いでの難産でありました。撮影がとんでもなく大変で時間がかかりすぎる、って話で暗雲が立ちこめ始めたのもこの2話です。ましてや夜叉がすべてCG処理というおまけつき(苦笑)。でもね、できあがりは見事なバランスに仕上がったのでした。

夜叉の色は、CGのモデルをPhotoshopデータで1枚出してもらい、それに僕の方で色をつけて監督、演出にチェックしてもらいました。

『墓場鬼太郎』では、色指定のもろもろチェック用に、撮影で使うフィルター&テクスチャー(「墓場フィルター」とここでは呼びます)から色指定用の「簡易変換フィルター」を作り、それをセルに乗せながら色指定を進めていきます。この簡易フィルター、Photoshopのヴァージョンが古いと使えないのです。なので、色指定の秋元さんのマシンに急遽最新のヴァージョン入れてもらって対応してもらいました。聞けばマシンもついでに新しくしてもらったとのこと。『墓場鬼太郎』のおかげですな(笑)。

■第3話 吸血木 絵コンテ・演出/うえだひでひと 色指定/児島明宏

『墓場鬼太郎』では第3話と第9話を制作会社A-LINEさんにグロス制作をお願いしていました。なので実はとっても適正にスケジュールが動いてたのが、この第3話でした。しかし前の話の撮影が押しまくってしまい、ずいぶん待ってもらっちゃった感じでありました。

1話、2話では、場の明るさに応じて細かく特殊彩色を組んでたのですが、第3話の設計やってるときに「ああ『墓場鬼太郎』って、実は細かいことやり過ぎちゃいけないんだ」と気づき、一気にいわゆる「ノーマル」な色指定のシーンを増やしたのでした。以降の話数も基本はそうしました。

そのかわり、劇場内で重井が「変身」するシーンなんかは、色指定さんに「お任せで!」と(笑)。でも児島さん、完璧にツボを押さえて作り込んでくれました。感謝です!

■第4話 寝子 絵コンテ・演出/中村哲治 色指定/佐久間ヨシ子

「猫」と言ったらこの人、という色指定の佐久間さんです(笑)。東映の場合、ひとつのシリーズに何人もの色指定さんを配して回す、というのを制作が嫌う傾向があるんですね。でもごり押しして、佐久間さんに参加してもらったのです。これで、秋元=佐久間=グロス制作話数という3班体制に。じゃないと、こういう重たい作品をひとりで毎週UP抱えて、なんて無理ですから。

で、4話。もうね「メロロン」ですね(笑)。製作中、あのメロディがず〜っと頭の中でエンドレス・リピート(笑)。いや、決して嫌いじゃないですよ。かなりお気に入りでありました。

寝子のスカートと舞台衣装ですが、これは「墓場フィルター」の上からもう一度赤い部分の色を乗せ直して撮ってもらっています。そうしないと印象的な赤が出ないのでした。同様な処理は、2話のドラキュラの目なんかでもやってもらってました。

この話は、劇場内とかモブが多くて大変で、しかも特殊彩色。みんな佐久間さんに助けていただきました。

『墓場鬼太郎』でのモブキャラに関する注意としては「茶髪系はNG」ということでした。時代考証的にも昭和30年代なので、一般人にまず茶髪はいないだろう、と(笑)。茶髪にすると「外人さん」にしか見えないので、それは外してもらいました。当然、緑や紫の髪もNGです(笑)。

後半の橋の上でのシーン、実は設計段階で寝子の夕景色のバランスをミスってしまいました。オンエア版では微妙なまんまでしたが、DVDでは修正させていただいてます。

■第5話 ニセ鬼太郎 絵コンテ/地岡公俊 演出/波多野浩平 色指定/秋元由紀

地獄に行った寝子は、原作でも白抜きなビジュアルになってますが、さらにちょっと異質な、というか「あっち」へ行きかけてるフンイキを狙って柔らかくしたくて、影の境界線を彩色ソフトPaintmanのブラシ処理でぼかしてみました。これはなかなかよかったんではないか、と自画自賛(笑)。

ちなみに、ニセ鬼太郎が寝子に出会ったときの寝子の顔のアップ、まばたきのあと瞳にニセ鬼太郎が映り込むカット、映った瞬間、寝子が青っぽい彩色にぽんっ! と変わりますが、実はあれ撮影のミスで、あそこだけセルに「墓場フィルター」がかかってないのです。でも、偶然がとってもいい効果生んでたので「OK!」になりました。ってことで、あの白い寝子は彩色時にはああいう青い寝子だったのでした。

この話が「寝子編」そして、『墓場鬼太郎』前半戦の最後になります。生まれてきた鬼太郎がいろんな体験経て一皮むけていく、そんな節目でありました。このあとの鬼太郎は「生きる」ということにどん欲になっていき、どんどん人間世界に馴染んでいくのです。

ここまで終えたとき「ああ、もう大丈夫」という、なんか不思議な安堵感がありましたね。手探りで進めてきた『墓場鬼太郎』の世界観がなんかうまく自分にはまった、そんな感じでしょうか。

■第6話 水神様 絵コンテ・演出/石黒育 色指定/真壁源太

6話は動画工房さん制作のお話です。このお話から、だんだんオムニバスな感じになっていきます。なんか「ぽか〜ん」と抜けちゃった感じの鬼太郎。ヴィジュアル的にも画面のフィルターを白ベースのものに差しかえてあって、5話までと空気感を変えてあります。

ただし、色指定のデータを変えてるのか? というと、全然1話からのものと同じものを使ってます。とっても明るく見えるとしたら、それは6話の持ってる演出上の気分、なのかなあ、と。

銀座(?)の上空に出現する水神様の球体は、色味のフンイキだけ僕の方で出させてもらって、あとは撮影監督の入部さんのワザであります。戦車とか戦闘機とか大洪水とか、『墓場鬼太郎』最大のスペクタクル話。作業的にも大変な話でありました。とにかく、キャラ設定のないキャラ出まくりのお話で、そんなモブたちをうまくまとめてくださった色指定さんに、ひたすら感謝です。

■第7話 人狼と幽霊列車 絵コンテ・演出/芝田浩樹 色指定/佐久間ヨシ子

有名なエピソード「幽霊列車」であります。これもほとんど僕はノータッチ(笑)。佐久間さんにお任せしちゃったのでした(笑)。

幽霊列車の車内ですが、作画になってるカットが多かったので、先に僕の方で色味を作らせていただいて、美術さんに合わせていただきました。

ただ、やっぱり難しかったのが照り返し系の色指定。水神様を焼き払うシーンでの炎の照り返しは、やはり「墓場フィルター」とぶつかって、うまく色を作れませんでした。それがちょっと残念(苦笑)。5話での夕景色もそうでしたが、オレンジ系に色を振ろうとするとうまく反映されない、それが「墓場フィルター」の特徴のひとつだったのです。

■第8話 怪奇一番勝負 絵コンテ・演出/角銅博之 色指定/秋元由紀

この辺になってくると、大まかに僕が設定出す以外のものは、もうほとんど「色指定様よろしく!」って感じになってます(笑)。「は〜ひ〜ふ〜へ〜ほ〜」の幽霊さんたちとかは、みんな色指定さんに考えてもらっちゃいました。

冒頭の火の玉の照り返しは上手くいったなあ、とこれも自画自賛(笑)。7話の同様のシーンでは、野外ってこともあったので、特に照り返しの部分に色は足さないでおいたのですが、ここは室内の狭い空間なので、シッカリ目に青白緑系に振ってみました。

「案内人」のいる真っ暗な世界での村田と金丸の白い色味は、5話の白い寝子と色の組み立ては同じです。「案内人」のあの色は、地岡監督と山室さんの「ナマっぽいなにか」という言葉から考えました(笑)。それにしても「案内人」、造形といい動きといい最高ですね!(笑)

■第9話 霧の中のジョニー 絵コンテ・演出/うえだひでひと 色指定/児島明宏

首相とのカレーシーン。「墓場フィルター」のなせるワザで、実は美味しそうな色がなかなか出なかったようで、ずいぶん色指定さんが悩まれたとのこと。最終的には、撮影時、上からもう一度色味を乗せて撮ってもらったそうです。

溶かされた鬼太郎の処理は、基本、1話の鬼太郎父(包帯男)の死んだときの体液処理と同じです。最初、鬼太郎の骸骨は白っぽい普通の骨って考えて色味作ったのですが、「人じゃないなにかなフンイキでないですか?」という地岡監督のリクエストから、骨全体に虹色のグラデーションブラシかけてみたところ、「いい感じですねえ」。同じ考え方で、最終話の「怪奇オリンピック」のチケットも虹色グラデーションかけてあります。

このお話も夜が多いお話でした。『墓場鬼太郎』では、屋外の夜色→夜色1、屋内の光源がない夜色→夜色2、というくらいのバリエーションでほぼ全話乗り切っちゃってます。この9話も、打ち合わせ時に「このシーンは『夜1』で」とかっていう打ち合わせくらいで、それ以外は、もうほぼみんな色指定さんにお願いしちゃってました(笑)。

■第10話 ブリガドーン 絵コンテ/佐藤順一 演出/波多野浩平 色指定/佐久間ヨシ子

高視聴率記録しちゃったお話ですね(笑)。

当初、ブリガドーン内の白日夢的空間は、キャラも色を抜いちゃおうか? って考えてたのですが、実際のBGに乗せてみたら「あ、ノーマルでいいジャン!」と。なので、このお話では、ラスト近くのお寺のシーンくらいしか色変えはしませんでした。

様々な妖怪たちも、キャラデの山室さんと作監の袴田さんがていねいにキャラ設定作ってくれて、ほぼ全部ちゃんと決め込みができたので大変助かりました。なので実は、物量的には多かったですが、色指定的には比較的楽だったのかな? というお話でありました。

■第11話 アホな男 絵コンテ・演出/地岡公俊 色指定/秋元由紀

実はこの最終回、自分で色指定やるつもりだったんです、最初は。ですが、やっぱり何本か担当してくれてる秋元さんにお願いした方が上手くいくかな? と思ってお願いしました。もうね、大正解(笑)。ほんと、面白い画面ができました。

前半、落葉老人が食べ尽くすマグロ、ビフテキ、中華料理のシュールな画面は秋元さんの力作です(笑)。そのほか、細々としたいろいろもたくさんお願いしちゃいました。

「怪奇オリンピック」の「歩く巨大生物」や「島のような生物」「千年に一歩歩く鳥」は、ダミー彩色で上げてもらい、僕の方で監督とアイデア出し合いながら作り上げました。そう、あれってみんな作画+彩色だったんですよ。

それ以外はもう僕はラッシュ観てるだけ、みたいな(笑)。そんな感じでありましたね。

各話の解説、おぼえがきはこんなところでしょうか。

全11話という短期決戦逃げ切り型のシリーズだったので、まんべんなく全力投球のできた数少ない作品となりました。なかなかこんな作品は、後にも先にもそうそうないだろうな、と思います。こういう作品に参加できたのは、とっても幸運だったですし、いい結果も残せたし、いやあよかったです。

というところで『墓場鬼太郎』は終わりです(笑)。

■第52回へ続く

(08.05.13)