色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第48回 昔々……(30) ここから変わっていないモノ『花のあすか組!2 ロンリーキャッツ・バトルロイヤル』

4月も半ばを過ぎ、GWの影がちらほら。連休中しっかりお休みになっちゃう各方面の「GW進行」のまっただ中、今週は雑誌関係、DVDジャケット関係、様々な版権物の納品ラッシュです。

でも、肝心の原画が何点か上がってきません(苦笑)。

仕上げとしては「ない袖は振れぬ」なので、担当部署と納品スケジュール調整中(苦笑)。そんな初夏の陽気の今日この頃であります。

先日『聖闘士星矢 エリシオン編』スタッフで、ちょっと遅いお花見、っていうか、ちょっとした宴がありました。大泉スタジオの近く、監督御用達のおそば屋さん借り切って、現場のスタッフ中心に総勢20人ほど集まりました。「アンドロメダ瞬」役の三浦さんもたまたま参加できて楽しい会となりました。

で、その宴の前に『エリシオン編』最終6話の美術仕上げ打ち合わせが終了。そして最後のキャラクター設定である「アテナの聖衣」と「ハーデス冥衣姿」の色味の監督チェックも終了。こちらの方は原作者の車田先生のチェック待ちですね。

ああ、約20年かかって、いよいよ終わりが見えてきました『聖闘士星矢』。

さてさて。

ひととおり打ち合わせも終わり、やっとこさ動き出した『花のあすか組!2 ロンリーキャッツ・バトルロイヤル』。すでにカレンダーは11月も半ばでありました。とりあえずメインのキャラクターたちのノーマル時の色味はできましたが、さぁ、夜のシーンとか、イメージシーンの色味をどうするか。

時は1989年。まだ仕上げはバリバリにセル絵の具とセル画彩色の時代です。背景にあわせて細かく微妙にセルの色を調整できる現代のデジタル彩色とは違い、わずか200色ほどの不完全なグラデーションの絵の具で色味を作っていくわけです。

基本になるノーマル時の色味を少ない色数で四苦八苦しながら作り上げていっぱいいっぱい。さらにその色味から「ちょっと暗く」とか「ちょっと青み足して」などと特殊な色味を考えていくのですが、ここにいたって、圧倒的に色がないのです。

以前も書きましたが、東映動画(現・東映アニメーション)が使っていたSTACの絵の具は、東映動画の作品カラーそのままの子供向けのハッキリパッキリとした彩度のしっかりした絵の具群なのです。しかし、いま、この『花のあすか組!2』で欲しいのは彩度を落としたくすんだ中間色群だったのです。なので、夜の繁華街のネオンの中での色はギリギリ作れても、明かりの遠い小雪舞う河川敷の夜色は、自分が頭の中でイメージした色のようには、なかなか思うように色が作れないのでした。

でも「できない」とか言ってる場合じゃないのです。なんとかしなくてはなりません。延々カラーチャートの短冊で組み合わせを考えて、試し塗りを何度も繰り返して、最後は半ば強引に「これでOK!」と思いこむ(苦笑)、という荒技(!)でなんとか色味をひねり出していきました。

この頃の東映動画の仕上げ作業は、かなりの割合で海外発注が増えていました。特に単発のOVA作品や劇場用作品はなおさらです。スケジュールがあるうちはフィリピン・マニラのスタジオへ発注するのですが、いよいよ時間が切迫してくると韓国のプロダクションに原画で送って動画仕上げまで作業して戻してもらう「動仕発注」になるのです。そして、またもや絵の具問題。で、さらなる試練(苦笑)。

マニラのスタジオはSTAC絵の具なのですが、韓国のプロダクションは太陽色彩絵の具なのです。ああ、ここでまたSTAC→太陽色彩に換算です。なんかね、絶対的に太陽色彩絵の具の方こそ『あすか組!2』で使いたかった色なんですよね。「ああ、最初からこっちの絵の具で色味作りたかったなあ」と。複雑な気持ちで無理矢理STAC色で作った色指定の太陽色換算したのでした(苦笑)。

とにかく、一度決めたらおいそれとは変更の効かないセル仕上げです。当たり前のことですが、ひとつひとつの色指定は常に完成形じゃなくちゃなりません。小道具ひとつとっても、今では「仮色」で塗ってもらってあとから色を変えたりしますが、この頃はきっちり決め込んでの色指定です。

そしてお話の盛り上がり、テンションにあわせて、カットごとに影色の強弱を付けていきました。シーンとしての色指定は決め込んであるのですが、やっぱり台詞や作画の表情、作画の冴えを見て、色でも表情、芝居を付けていきたいと考えていたのです。ですので、自己満足かも知れないけれど、いろいろ細かい指定を試してみたのでした。それも失敗しちゃわないかと、色指定しつつ結構緊張、そしてラッシュの上がり見てさらに緊張(苦笑)。これって『聖闘士星矢』の劇場版でもやってきたことですが、やっぱりドラマと作画と色の組み合わせでキッチリ決まったいいシーンは気持ちがいいです。この作品で確信持っちゃった僕は、以来ずっと今もこのスタイルで色指定です(笑)。

時間はまさに飛ぶように流れて、あっという間に年末でありました。しかしどうにも作画作業が追いつかず年内納品は崩れ、年明けになだれ込むことに。年末ギリギリ、仕事納めが終わったあとに色指定した原画が韓国に送られて、日本がお正月の間に韓国のプロダクションが動仕作業を進めてくれました。

大晦日、守衛さん以外ちらほらとしか人のいない大泉スタジオに、色指定の問い合わせのFAXに対応しに出勤。いくつか来ていた問い合わせの返事を送信して帰宅したのは、「紅白」が始まる少し前でありました。年明け、上がってきたセルをそのまま撮影に入れて無理矢理OKだして原板組んで納品しました。たしか、満足に初号すらできなかったような気がします。

そんなこんなで出来上がった『あすか組!2』。心配していた背景とセルの明るさのマッチング、撮影されたフィルム見たら結構いい感じに馴染んでくれてて一安心でありました(笑)。

でも……、やっぱり「うわっ!(汗)」って失敗も三つ四つ……。これは次回への戒めであります(苦笑)。

そんな僕的OVA第1弾のお仕事でした。

そしてOVAの波はさらに続いていきます。『あすか組!2』から半年ほど経った夏の終わり、再びOVA作品の仕事が廻ってきました。

『ヴァンパイヤー戦争』。笠井潔原作の小説のアニメ化であります。

■第49回へ続く

(08.04.22)