色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第46回 なぜか今週は「色」じゃなくて「口パク」のお話

桜満開の東京です。先週、一気に満開となりまして、自宅近所の公園でも、朝から朝まで(!)花見の宴が絶えません(笑)。公園の脇を通り抜けると、空気がビール臭いです(苦笑)。

最近はスタッフルーム単位でのお花見ってすっかり減っちゃった東映アニメーションです。そんな中、つい先週お誘い受けた「マイハム組」のお花見、スケジュールが合わず参加できませんでした(泣)。う〜む、残念。今年はお花見の宴はナシで終わっちゃうかなあ……。

前にも書いたかも知れないですが、まだ『聖闘士星矢』がTV放映されてた頃に『星矢』のスタッフでお花見がありました。石神井公園で夜桜見ながらの宴。その席でチーフ・ディレクターだった森下氏がビールでいい気分になりながらこう言いました。「桜なんてな1年に1回なんだよ。だからこうして花見できるのも、一生のうちせいぜい数十回。そんなもんなんだよ」

ああ、これ、なにげに名言だと思うんですよね。

あれから20年、それ以来、この時期になると森下氏のその言葉を思い出してちょっとしみじみ。そんなことを思いつつ、今年も近所の桜並木を夜桜見物したのでした。

さてさて。

4月は番組改編期であります。某民放の昼の海外ドラマ枠が僕の楽しみのひとつなんですが、『CSI:NY2』を観ようとTVをつけたら……あら? 『冬のソナタ』ぢゃん!(汗)

びっくりして調べたら、なんとまあ今週から放映枠が動いてました。週3本の放映が今週から週1本水曜のみに……(泣)。で、まあ、何年かぶりに「冬のソナタ」観ちゃいました(笑)。昨日が第1話。うむ、やっぱり名作ですな。

ところで、韓国ドラマって結構おもしろそうなんですけど、実はあんまり観てないのです。

理由は吹き替え。

韓国の人の顔立ちって基本僕らと顔そっくりじゃないですか? そのそっくりな人たちが「吹き替え」で日本語しゃべると口パクが合わない(笑)。そりゃそうですよ、もともと韓国語でしゃべってるんだから(笑)。それがものすごく違和感っていうか、気になっちゃって。同じ理由で中国ドラマの日本語吹き替えもダメです。これがね、アメリカやヨーロッパもののドラマの吹き替え版だったら、まったく気にならない。これって、小さな頃からの刷り込みなんでしょうかね?(苦笑)

そんなワケで、韓国もの観るときはできるだけ「字幕+オリジナル音声」で観るようにしてます。

でね、この「口パク」、仕事でもやたら気になっちゃうんです(苦笑)。

日本のたいていのTVアニメの場合、口パクって「閉じ口」「中口(少し口開けた状態)」「開き口」の3種類で、これをランダムに繰り返させて「しゃべらす」ワケです。本来の人間の口の動きから考えたら、横に開く口と縦に開く口がない時点でもう絶対的に足りないんだけど、不思議なもので、なんかそれなりに合ってるように見えちゃったりします。

ただ、印象の強いしゃべりとか、叫んだりした語尾とか、これが発音と画があってないともうダメです。たとえば「あーっ!」と叫んでるのに、口が「開き口」じゃなかったりとか、しゃべりの最後のパクの画が「閉じ口」だったりとか。

TV作品でも、必要なカットではちゃんと台詞の発音に合わせての作画をしていくわけなんですが、多くの場合は「閉じ口」「中口」「開き口」のパターンで作画されちゃいます。

ダビングが終わって音がついた時点で、必ず本編を頭から通して観て全体をチェックするという過程があるのですが、そこで音と画のズレもチェックしていくワケです。で、その時、どうしても気になる口パクもリテイク出させてもらって直せるモノは直していくのです。

僕はその場では色関係のチェックのために立ち会ってるんですけども、ついついその気になるズレを指摘させてもらっちゃってます。演出さんによっては「このままでいいですよ(笑)」って方もいらっしゃるし、そうなのかもしれないんですが……う〜む、だって気になるんですもの!(苦笑)

「スポッティング」と言って「何秒何コマから『開き口』」などと音や台詞と画とのタイミングを編集さんに出してもらって、それに合わせて撮り直しをしていくのですね。最近では編集もデジタル編集なので、撮影済みのラッシュデータ上でコマ単位で画の順番を入れ替えたりして修正できることもあったりしますが、まあ大抵は撮り直しです。特に『墓場鬼太郎』みたいな連続して画面処理があるモノは、必ず撮り直しになっちゃいます。

ちなみに、昔やってた「合作」という名のアメリカの下請け作品の時は、まず台詞を録ってしまって、それに合わせて画を作る「プレスコ」方式だったので、作画に入る前から「口パク」のタイミングがすべてタイムシートにつけられていて、しかも英語の母音に合わせて7種類くらい「口パク」のモデルが決められていて、その指示もすべてシートに書き込まれていたのでした。なのでバッチリ画と台詞が合うワケなのですね。

あ、日本でもプレスコは使うことがありますね。歌や演奏、ダンスなどのシーンでは「先に音」ですので、プレスコになることが多いですね。

そんなわけで、日々「口パク」が気になってるワケです。

今や日本のアニメ作品は世界中でその国々の言葉でしゃべってるワケなんですが、どうなんでしょう? 「閉じ口」「中口」「開き口」だけのパターンじゃ、合わない言葉っていっぱいあるんじゃないかな? そして日本語でズレが気になって作画合わせたカットも、吹き替えされちゃうと全然合わなくなっちゃいますよね(苦笑)。

(……あ、色の話がない……(汗))

■第47回へ続く

(08.04.01)