色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第29回 番外編 劇場版『CLANNAD』公開記念 出崎監督との話 sono2

ワケあって、ここのところ『金田一少年の事件簿』のDVDを集中的に観てます。あ、アニメ版ですよ(笑)。以前に自分で色彩設計・色指定やってた作品ですよ。先だって発売されたDVD-BOXのパッケージの仕事をお手伝いさせていただいて、そのつてで強引にDVD-BOX頂いてしまいました!(すみません)

最初、セル=フィルム作品だった『金田一少年の事件簿』ですが、シリーズ途中からデジタル彩色に移行することになって、これも随分試行錯誤した作品です。

そうそう、最近ではケーブル系のチャンネルでも再放送やってたりして、夏前の一時期、結構はまって観ちゃったりしてたのでした。自分が設計やった作品をずいぶんあとからこうしてTVでじっくり見直すのは久しぶりだったのでかなり新鮮でした。いやあ、結構よくできてたんですね、『金田一〜』って(笑)。

ま、この『金田一少年の事件簿』の話はいずれここで書かせていただくつもりなので乞うご期待(笑)。

ところで最近、アニメやマンガの上を行くような殺人傷害事件が増えてますね。そんな影響もあって、地域によっては『School Days』最終回や『ひぐらしのなく頃に解』の放送が見送られたりしてるようですね。まあ、アニメで似たような描写があったからとかっていうコトではないんでしょうけどね、これらの事件は。でも、放送局的には大変なんだと思いますよ、いろいろ。

で、思い出したのが、ああ、なんか『金田一〜』やってた頃にも、現実でビックリしちゃうような事件がいくつも起きて、と。さすがに放送休止というようなことはありませんでしたが、脚本段階で断念したエピソードもいくつか。

だって「生首ごろごろ」とか「ミイラをばらばらにしてトリックに使う」みたいな話、地上波しかも午後7時台ぢゃむりですって(苦笑)。

さてさて。

劇場版『CLANNAD』公開記念の番外編、続きです。

だいたい10日から2週に1度、絵コンテの全体打ち合わせ。だいたいにおいて15分から20分、監督はいつもすこ〜し遅れて到着します。長身の監督が打ち合わせ室の戸口にふわっと現れると、瞬時にみんなキリッと打ち合わせモードです。監督は歩き方も話し方も割と「ふわっ」と柔らかいのですが、サングラスの奥の瞳は優しいながらもキリッと光って、僕らもキリッと緊張するのです(笑)。

毎回この打ち合わせに合わせて、それぞれの部門の設定のチェックを進めていきました。キャラクター設定、コスチューム設定、美術設定、美術ボード、などなど。キャラクターの色味チェックでは僕の隣に監督に座ってもらって、指示を受けたり意見言ったりしつつあれこれ調整をしていきました。「あれだな。こう光がさ、サーッと入ってね、こっち側に影がねキッチリさあ……」と、出崎監督。

しかし、キャラクターのビジュアルはあくまで原作のままと決まっていたので、基本の設計時点で、やたら影色のコントラストを強くするわけにもいきません。本編のシーンの中で、そのキャラたちをいかに料理していくかがキーになっていきました。

そもそもの原作のビジュアルが「やわらかくやわらかく、スッキリと、でもふんわり」って感じなので、ホントはもっと輪郭線(主線)の色味をうすく明るくしたいところだったのですが、実際にやってみると、止め画ではそこそこいいのですが、動く絵ではどうにも背景に溶けすぎたり浮きすぎたり。なので、ちょっとだけ柔らかくするにとどめました。当然、空間の明るさに応じて、キャラ色も主線も色味も濃さも合わせて調整していきます。

監督の絵コンテが進み、全体打ち合わせが回を重ねていくウチに、少しずつ絵コンテとシナリオが離れ始めました。「なんかさあ、そうなっちまったんだよな」と監督。あ、いや、当然僕らにはその理由を説明してくれましたよ(笑)。

その変更は劇場版『CLANNAD』という作品の中で大きな意味を持つものでした。そして「ああ、これが出崎監督なんだ」と。ま、さすがにプロデューサーのK氏はハラハラだったようですが(苦笑)。

そして絵コンテがすべて終了。全体打ち合わせも終了です。

「ああ、打ち合わせ終わっちゃった……」。なんとなく残念な、もっといっぱい打ち合わせをやっていたかった気持ちの僕でしたが、さすがにそういうわけにも行きません(苦笑)。このあとは、監督との打ち合わせをふまえて、演出以下、僕らが本編の作業をGO! です。まあ、相変わらず僕らの持ち時間は少なかったのですが(苦笑)。

この劇場版『CLANNAD』は基本的には僕が色彩設計と色指定の打ち込み、仕上げ上がりの最終チェックを1人でやってたんですが、僕は手がそれほど早くないのと、なにしろ1400カットもの量です。急遽、助手として秋元さんという若い女性の色指定さんをつけてもらって、こまごまとしたものたちのいろんな無理難題の処理をお願いしちゃいました。

それでも、当初のスケジュールを可能な限りうしろに下げて、編集、アフレコです。さらに画を埋めて形になったところで、監督以下全メインスタッフ参加で全編通してのチェックとリテイク出しです。

監督からの全体的な注意があって、さらに1カット1カット、細かく処理についてのチェックが入りました。数々の手直しの指示。正直、かなりのカット数の手直しになりました。撮影の処理をさらに加えて、段々と画面が厚くなっていきます。

リテイクを全カット処理して一応の完パケを出しました。僕らの作業はそこまで。あとは監督がもう「ひとさじ」を加えます。画が全編OKになった時点で、あらためてビデオ編集をやって、監督がそこで総合的にさらなる処理を加えていくコトになっていたのでした。

そして0号試写。

映画の場合、映画館で上映するためにネガを作ってポジフィルムを焼きます。「0号試写」とは、完成した映画全編を初めてプリントしたものを試写して、フィルム量産前の最終チェックをするのです。ここでプリントの焼き具合とか、色味の再調整とか、プリント作業で修正できる点を必要に応じて現像所のスタッフにお願いするのです。

ビデオ編集に立ち会っていたプロデューサー、演出、記録は監督が「ひとさじ」を加えた「完成版」を観て知ってるワケですが、僕らはこの0号で初めて「完成版」を観るわけです。試写室が暗くなり、上映が始まりました。ううむ、何とも言えぬ緊張感が……。

そして90分。上映終了。大きな安堵感。「う〜む、なるほど!」と僕。監督が加えられた「ひとさじ」によって、劇場版『CLANNAD』はさらに映画としてのメリハリ、立体感が大きく増していたのでした。

試写上映後の待合室、たばこを一服してた監督に「だいぶ足しましたねえ?(笑)」と僕。「まあ、あんな感じだよな」ニヤリと監督。かくして劇場版『CLANNAD』は完成となりました。

後日のこと。東映撮影所内の試写室での初号試写のあとの打ち上げの席。盛り上がった2次会の最後に、出崎監督とがっちりと優しく、でも力強く握手させてもらいました。「いやあ、ありがとうな。いろいろ助かったよ」と出崎監督。いやあ、もう感激。嬉しかったです! はたして監督とお仕事ご一緒できることがあるのかわからないですが、是非またいつかご一緒できることを夢見てがんばります!

■第30回へ続く

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