色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第26回 昔々……(21) 『聖闘士星矢』その8 「十二宮編」で燃えた話

暑かった夏もだいぶその勢いに陰りが見えてきましたが、いやあ、それでもまだ暑い8月最終週です。

学生の頃、この「8月最終週」が大ッきらいでね(笑)。夏休みの終わりのこの週は、「サザエさん」のエンディング、あるいは「日曜洋画劇場」のエンディング曲にも似て、なんとも切ない、哀愁たっぷりな感じで苦手でした。

こうしてまっとうな(?)オトナになった今でも、ニュースなんかで「夏休み最後の日曜日」なんてセリフ聞いちゃうと、なんだかとっても大事なことをやり残しちゃってるような気持ちに襲われて、どうにもそわそわしちゃうものです。

皆さんもそうですよね……?(汗)

ちなみに、まっとうなオトナになった今ではさすがに「夏休みの宿題」はありませんが、僕らアニメ稼業は毎週のように「夏休みの宿題」状態。いつもいつも最後の最後にドタバタ駆け込みです(泣)。

さてさて。

劇場版の話はちょっと置いておいて、TVの方の『聖闘士星矢』のお話。

劇場版作ってる間も、当然TVの放映は続いてます。ちょうど「神々の熱き戦い」を作ってる頃に、TVの方は舞台をサンクチュアリに移し、いわゆる「十二宮編」へと突入しておりました。

劇場の制作期間中はさすがにTVの方の各話の色指定は担当していませんでしたが、次々と登場する黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちの彩色設定を作ったり、「ワザ」などの特殊シーンについて演出さんたちからの相談に乗ったりと、TV本編の方の仕事もずっと続いていました。

特に用事がなくても撮出し部屋に顔を出して、演出さんや演出助手さん、進行さんたちと一緒にバカ話したり、撮出しで出たリテイクの直しを手伝ったりと、何をやっても楽しかったですね。スケジュールはそれなりに大変でしたが、とってもいい時期だったように思います。

放送開始から1年が過ぎ、いろんな意味で土台が安定してきた『聖闘士星矢』。加えて「十二宮編」は、限られた時間内にアテナを救う、という「『残り時間は?』の法則」(僕がいま命名)に則った筋立てで、これがね、燃えるんですよ。

毎回Bパートで盛り上げて盛り上げて、そしていいところで「次回へ続く!」という展開。この「次回へ続く!」というまさに黄金の“引き”が、物語が圧倒的に盛り上がっていく要因だったのですね。そしてそれに続く次の話数は、さらにその上を行こうと盛り上がる。

原作のコミックスでは、割とサラッと描かれちゃってる対決やワザの描写を、アニメーションならではの作画と画面効果、そして声優さんたちの演技の深さで、実に立体的に、スピード感と“間”の巧みな戦いを作り上げることに成功したんじゃないかなと思います。

特に「ワザ」の描写は、とにかくセンス勝負でした。作画で繰り出すいろんなアイデアを仕上げと撮影で作り上げていく。今みたいにコンピュータの画面上で何度でも試したり撮り直したり、なんてできない時代のお話です。多少の試し塗りとかはやって決め込みはできても、TVシリーズでの各話のテスト撮りはさすがにほとんどさせてもらえませんでした。

「どんな風に見せたいのか、どんな風に見えるのか」とにかくみんなで考える。浮かんだアイデア、イメージをふくらませながら、頭の中でかなり緻密にキッチリと決め込んで作り上げていく。そして実際に材料にしていく。ま、これはいまでも同じではありますが、ある意味、この頃の方がたくさん考えてたような気もします(苦笑)。撮影されて上がってきたものが想像通り、あるいはそれを越えていた時は、まさに快感のひと言でした。毎週、毎話数ごとにそんな体験をしていたのです。

そして「声」ですね。

この頃、生まれて初めてアフレコの現場を見学させてもらいました。たしか瞬とアフロディーテの闘ってる話でした。いやあ、なんかひたすら感激したのを憶えてます。僕らが作っていった画面に、まさに声を当ててる声優さんたちの姿。ああ、鳥肌!(笑) ホントに息が吹き込まれ、平面だったものが立体になっていく、そんな印象を受けたものです。たぶん役者さんたちも、ノリにのってた時期だったんだと思います。

毎週の初号試写が楽しみで、何より僕自身仕事を越えて『聖闘士星矢』の大ファンになってしまってた。そういうことなのでしょう。

いま「十二宮編」をあらためてDVDで見返してますが、いやあ、やっぱり燃えますね!(笑)

そして劇場版『真紅の少年伝説』の戦いは、この「十二宮」のあるサンクチュアリを舞台に展開していくのでした。

■第27回へ続く

(07.08.28)