色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第21回 昔々……(16) 『聖闘士星矢』その3 スチール聖闘士

先週末、僕の愛機ノートPC、PowerBookG4が起動しなくなっちゃいました。原因はハードディスクの故障。購入して1年半。使用頻度考えれば、ああ、経験的にそろそろ不具合が起きる頃ですね(泣)。

さぁ、こまった。

コンピュータは自宅とか仕事先とか何台かあるのですが、その中心に位置するのがその故障したPowerBook。いろんなものを管理してるのは、そのPowerBookなのですよ。実はこの原稿も、PowerBookで書いてるのですね。

まあ、それを理由に「すみません、今週の連載、お休みに……」というワケにもいかないので(苦笑)、急遽自力でハードディスクを換装してなんとか暫定復活。やれやれ。こうしてちゃんと書いてますよ(笑)。

で、問題は逝っちゃったハードディスク。実はこの中には、とても大事な写真データが入ってたんですよ。いつも3ヶ月ごとに定期的にバックアップはしてて、6月も終わったこの週末にする予定だったのです。ああ、後悔先に立たず(号泣)。今度からもっとこまめにやろう。

というわけで、皆さんも大事なデータはこまめにバックアップ取りましょう(泣)。

さてさて。

なんとか始まった『聖闘士星矢』です。

当時、本放送で第1話を見た記憶がないのです。先だっての第1話初号あとの森下さんの一言じゃないですが、僕も正直そんなにヒットするなんて思ってもなかったのは確かでした。それと実は、進行さんの手違いで、第1話のエンドクレジットに僕の名前が載らなかったのです。

当時の東映動画作品のクレジットには「色指定」や「検査」はありませんでした。「仕上」というくくりの中に4人ほど名前を載せるのですが、色指定はその中に混ぜて(たいてい一番上)載せてもらっていたのです。それが、何でか僕の名前を載せ忘れられちゃったのです。

これは凹みましたよ。初号で見てガッカリです(苦笑)。こういうのって実はとっても大事なことなんですよ。クレジットされることでこの作品に関わった証になるし、TVなら親兄弟友達知り合いに見てもらえてちゃんと認知されるし、また本人のモチベーションも上がるのです。

なので、当時まだ若かった僕は、自分の名前がなかったことで、きっといくぶん「やる気」が落ちちゃって、それもあって本放送見なかったんじゃないかな? と(笑)。

しかも、第2話以降、基本的には僕の手から離れてしまいます。現在のように「色彩設計」がシリーズ全体に目を配るというシステムではなく、毎話数ごとの色指定、検査はすべて、その話数担当の仕上げプロダクションお任せになっていたのです。

前回も書きましたが、ゲストキャラクターの色指定もすべて美術デザイナーと美術課から直接、各仕上げプロダクションに廻っていましたし、前後の話数の色味のつながりなどは、演出助手、制作進行が中心になって管理していたのです。仕上課としてはカットの流れの管理はするんだけど、色味関係は僕らはノータッチ。そんな感じです。

また、何話かごとに、制作会社のライフワークが制作ローテーションに入っていました。『聖闘士星矢』でのライフワークの担当話数は、演出も含めて、作画、仕上げまで一貫してライフワークで制作する、というものでした。石崎すすむさん演出の回がそうです。

ライフワークは太陽色彩のセル絵の具による彩色でした。これも以前書きましたが、東映動画はSTACのセル絵の具を使用していましたが、当時東映動画以外の各社は、ほぼ大体において太陽色彩のセル絵の具だったのです。ですので東映動画で作った『聖闘士星矢』の色指定を基に、ライフワークの色指定さんがSTAC→太陽色彩の換算、変換をしてくれていました。

デジタル彩色になった今ではそんな問題は全くないんですが、当時はそういう手間が発生していました。発色のヌケのよいSTAC絵の具と渋めの発色の多い太陽色彩。なかなか全く同じに、というワケにはいきません。ですので、ライフワーク制作の話数では、多少星矢たちキャラクターの色味が違っているのです。ですが、担当してくださった色指定さんがセンスよくまとめてくださったおかげで、相当気をつけて見ないと、その違いはわからないです。

そんな感じで、『聖闘士星矢』のTVシリーズは、僕ヌキで制作が進んでおりました(笑)。立ち上がりバタついた制作状況も落ち着いて、だんだん人気も上がってきて、そんなこんなで半年ほど経ちました。

なにか困ったときは僕に話が回ってきます。で、その困ったことが起きました。

新しくメイン扱いのキャラクターが登場する、ということになりました。各話のゲストキャラはノータッチだったのですが、メイン扱いのキャラのように全体を通して登場するようなキャラは、僕が色指定書を作る、と、そういうことになっていました。

で、新キャラ。しかも原作にはない聖闘士を新たに作って登場させ活躍させよう、というのです。科学技術の粋を尽くして設計され作り上げられた聖衣(クロス)をまとった3人の聖闘士。その名も「スチール聖闘士」。

例によってスポンサーのおもちゃメーカーからデザインがきました。言っちゃなんですが、いかにも「おもちゃ」な感じのデザインと色味、そしてギミック。う〜む、これは……。

たしか、キャラの肌色とか髪とかは窪田さんから指定をいただいていたと思います。で、それらを合わせて色見本を作ります。そしてチェック。

この手のモノの大原則は「TVの番組で出てるモノと同じ形、同じ色のモノが、おもちゃ屋さんの店頭に並んでる」というものです。ですので、先に製品(おもちゃ)の色味、塗り分けが決まっちゃっている以上、本編劇中に登場させる方をおもちゃに合わせなければなりません。

「まあ、こうだろうなあ」というわけで、色味チェックもそんな感じでまんまOK。かくして「スチール聖闘士」はTVに登場したのですが……。

結局、ほんの数話に登場しただけで、何となく闇に葬られ、誰もその存在に触れなくなってしまったのでした。

■第22回へ続く

(07.07.03)