色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第182回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その9

4月1日から放送の始まる新番組TVシリーズ『聖闘士星矢Ω』。その作業やら、まだ発表になってない短編作品やら、もうひとつ別の短い尺のTVシリーズやら、そんなこんなでいっぱいいっぱいになりつつあって、そのせいもあって原稿をまた落とし気味。どうもゴメンナサイ。
で、その『聖闘士星矢Ω』、放送開始直前の今月末に映画館でオールナイトでイベントやることに。なんとまあワールドプレミアとかって、そんな大きな話になってます(汗)。日本国内だけではなく、海外でも人気の高い『聖闘士星矢』ですからね。それにしてもビックリです! 東映作品で放送始まる前にこんなイベントやるのって、いままでなかったですよね? ……ちょい緊張。
それにしても、ああもう今月もホントにあとわずか! もうすぐ皆さんに見ていただけるとこまで来ちゃいました(汗)。みなさん、『聖闘士星矢Ω』、どうぞよろしくお願いいたします!

さてさて。

第7話 タマホマレする女 絵コンテ/松本淳 演出/市村徹夫 色指定/辻田邦夫

多蕗に誘われて出かけた観劇のそのステージの中心にいたのはあの女・ゆりであった。そしてまさかの婚約発表。打ちひしがれつつも、多蕗を自分のモノにするための強引な作戦を考える苹果。その策略に付き合わされる晶馬。晶馬の背中にはタマホマレガエル。そんな7話。

7話も僕が色指定も担当でした。7話はちょうどシリーズの放送開始前後に制作していました。先にも書きましたが、今回『輪るピングドラム』では色指定は3人体制。スケジュール的にまだちょっと余裕のあったこの時期は、僕もローテーションに入って各話の色指定もやってました。でもこのあと9話を最後に、シリーズ終盤までは色指定から外れてます。というのも、放送が始まって週1本の納品という密なスケジュールになっていった時、僕が色指定も参加していると本来の設計作業に遅れが出たりしてしまうのです。しかも今作品で僕は、演出打ち合わせから納品直前のリテイクの最終チェックまでキッチリ立ち会っていたので、さすがに各話の色指定までは担当していられなくなっていたのです。でもやっぱり実際の作画を手にして対峙していく各話の色指定は楽しいんで、この7話も楽しく作業しておりました。

この7話から、本編の撮影もグラフィニカさんでお願いすることになりました。
本編の撮影は、画面全体の質感や作画素材の主線のスムージングなど、画面の持つフンイキが6話までと大きく変わることのないようにあわせて画面を作ってくれました。ただ、あわせも多いのですが、同時に新しくさらに進化させた画面にもなっていきました。
まずはサンシャニー歌劇団のステージのシーン。このシーン、ステージ上のゆりの衣装にキラキラと撮影処理が施されております。これは撮影監督の荻原氏のアイデアです。作画での衣装も確かにステキな仕上がりではあったんですが、色遣いだけではもうひとつ足りない。なにかもうひとつ「華」が欲しいと、監督も僕も考えていたところだったのです。なので、ちょうど並行してサンジゲンさんで作業していたオープニングのゆりのカットにもコレを使いたいということになって、オープニングのうち、あのゆりの全面キラキラドレスカットは、荻原氏が作画(彩色)に処理を乗せて連番でかきだした素材を使って、サンジゲンで撮影というコラボカットでありました。

ピクトグラムの取り扱いが進化を始めたのもこの7話から。ゆりに押し寄せるファンのピクトさんたちや、高級レストランでのお客さんピクトやガーデンパーティでの招待客やボーイさんピクトなど、ピクトさんのいろんなバリエーションが登場し始めたのはこの7話であります。「ここのピクトさんは新規に作らないとダメか」とか「やっぱりここではピクトさん服装ゴージャスの方がいいよね」などと演出打ち合わせの際に続々と。それをできるだけシンプルにまとめて、助監督の山崎さんがデザイナーの越阪部さんに発注していきました。
で、このピクトさん、イラストレーターのデータで上げていただいたものを撮影さんに渡して、演出の撮影指示にあわせて撮影さんが画面上に配していきます。ピクトさん自体は1枚ずつ固定のデザインものなので、作画のように動画で歩いたりしないため、すべて撮影さんの方で動きを作ってもらいます。横方向縦方向の動きは画面上でスライドさせるだけなのでそれほど大変ではないのですが、手前から奥へ、とかの奥行き移動が結構難しいようで、7話ではゆりと結城に向かって押し寄せていくファンのピクトさんの動きがなかなか大変なようでした。そのスピード感と作画とのサイズのバランスがビミョウなようで、とりわけ後ろから押し寄せてきたピクトさんに苹果がド突かれるカットは何度もリテイク再撮に。それにしても、ぴょんぴょん跳ねるファンのピクトさんは可愛かった。僕のお気に入りピクトさんのベスト5に入ってます(笑)。

ピクトさんは「色」の面でも結構取り扱いが難しかったです。特に今回はガーデンパーティのシーン。そもそもピクトさんはある意味「視覚的な省略」であり、その省略のために置いたアイコンです。なのである意味リアルな実体ではない。だからその意味合いでは割と目立っちゃってもいいんじゃないかと。
ところがこのシーン、夜の屋外であり、空間的にはライトが当たっている部分以外はあまり明るくありません。そんな中にピクトさんを配置していくわけですが、あの真っ白なピクトさんを暗い中にポンッ! と置いてしまうと、ピクトさんばかりが画面の中で光り輝いて要らぬ主張をしてしまって画面と演出が壊れてしまいます。で、当然画面の暗さにあわせてピクトさんも色を変える(落とす)ということになっていくんですが、空間の明暗にあわせて色を馴染ませていくと段々それは実体になってしまい、実際にそこに置かれた「ヒト型の板」になってくる。そうなっちゃうとそれはダメなんじゃないかな? と思うわけです。撮影さんから「例えば、地面方向から上へ向けてグラデーションの影入れるのはどうでしょう?」との提案もいただいたんだけど、それだともっと「板っぽい実体感」が出ちゃうので却下。
この7話ではそのリスクを承知の上で、あえてピクトさんの明度を背景にあわせてかなりリアルに落とし込んでみました。ギリギリの線を狙ってはみましたがどうでしょうね? 『輪るピングドラム』の画面スタイル上、これはアリなのかどうか。7話を観返すたびにどうしてもここは気になっちゃいます(笑)。ちなみにその後、終盤の「こどもブロイラー」内などでは、もう少し明るくピクトさんを置いてます。演出意図の違いもありますが、絶えず「これで大丈夫なのか?」と自問し続けたピクトさんたちの色(明るさ)でありました。

さて、『輪るピングドラム』で忘れてはいけないモノのひとつに「食べもの」があります。「食べものはキッチリと美味しそうに!」というのが『ピングドラム』の……というか僕のテーマだったりするので(笑)、食べものは作画から気合いを入れて描いていただいております。今回はなんと言ってもレストランの料理! これはもう見事と言うほかないできあがりであります。7話からの質感等の特殊効果はグラフィニカさんの山田さんが担当。あの柔らかそうなお肉とソースの照り感は最高でした。そしてこれ以降の話数、数々の特効マジックを披露していただくことに。あ、理科室での苹果のノートPCのモニター画面内もすべて山田さんが作成してます。
そんな理科室でのカエルのお話(笑)。あのカエル、デザインの元ネタは、たまたま僕が持ってた「ガチャガチャ」の「原色日本のカエル」とか何とかいうシリーズの一品。『ONEPIECE FILM STRONG WORLD』が終わったあとのある日、たまたま吉祥寺のヨドバシカメラの4階だったかのトイレの前にズラッと並んでたガチャガチャをナンの気なくやってみたら出てきたのがあのカエルでした。それがず〜っと『四畳半神話大系』の頃から自分のパソコンの前に置いてあって、そのままブレインズベースに運ばれてきておりました。で、カエルの資料何かない? みたいな話になった時、たまたま机に置いてあったそのカエルが脚光を浴びたのでした(笑)。そのちっちゃなフィギュア(っていうのか?)を見ながら柴田氏がキャラにまとめてくれました(笑)。
色は「とにかく派手に!」という幾原監督からのオーダー。それで作ってみたモノをみんなでチェックしながらいじっていって、ド派手なカラーリングにまとめてみました。でも、あれ? これはどこかで見た覚えが……と。なんと『エヴァ』の初号機カラーに激似になっちゃったんでありました。う〜む。どうする? 「まあいいかな」的に一旦はその場ではOKになったのでありますが、その夜遅く僕の携帯に監督から電話。「あれさあ、やっぱりもうちょっと何とかしたいんだけど……。自分たちの作品のパロディとかならまあいいかもだけど、やっぱり他の人の作品のパロディっぽく見えちゃうと、その人たちに対してもよくないんじゃないかなあって思うんだよね」ということで、再度調整。その結果があのタマホマレガエルでありました。

第183回へつづく

(12.03.21)