色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第181回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その8

先日三鷹のスタジオから残ってた機材・荷物を全部引き上げてきました。まだちょこちょこ『輪るピングドラム』の残務処理とか残ってはいますが、僕がいたスタッフルームはすでに別のタイトルの作業が佳境(4月新番だそうです)。なのでお邪魔になるので撤収してきたというわけ。
自分の機材を片づけたあとの席って、なんとも寂しいモノだったりしますね。東日本大震災からちょうど1年。先だってここでも書きましたが、ちょうど1年前は三鷹でその大地震に遭遇したわけです。そのときのいろんな記憶とか、そのあと1年頑張って、最後の追い込みの日々の思い出とか、いろんなものが心の中を去来します。
またいつか、ここで仕事をさせていただける日は来るのかな? 最後に常葉プロデューサーがこう言ってくださいました。
「また今度、わたしが『オシャレ』な作品やるときには、必ず辻田さんに来てもらいます!」
ありがとうございます、常葉さん、嬉しいです。でも、なんかどうやら常葉さんの中で僕は「オシャレ」な作品、「セレブ」な作品をやる人というコトになってるようで……。ん? あれ? この『輪るピングドラム』ってオシャレな作品だったんでしょうか? そのヘンが謎です(笑)。

第6話 Mでつながる私とあなた 絵コンテ・演出/山﨑みつえ 色指定/秋元由紀

「高倉冠葉被害者の会」の3人、入院中の九宝阿佐美は冠葉のことをまるで憶えておらず、残りの2人も何者かに謎の赤い玉に撃たれて記憶が失われてしまう。一方苹果は晶馬に手伝わせて多蕗のアパートの床下に愛の巣を作り、多蕗との「初夜」をもくろむ。この話で苹果の姉・桃果と「運命日記」、多蕗と苹果の関係が明らかになり始め、そして苹果の家族が崩壊していってしまったその理由も明らかに。徐々に謎が明らかになり、そしてそれ以上に謎が増えていく、そんな6話。

「苹果と多蕗にちょっと深い話させるのに、東高円寺駅近くでなにかいい場所ないですかねえ?」と演出の山崎さんから絵コンテ作業に入る前に相談を受けました。もともと中野生まれ中野育ちの僕にとって中野=杉並の区界にあたるこの東高円寺周辺は、高校時代に友人宅があったりしたエリアなので、なんとなく土地鑑のある地域であったのです。で、カメラ担いで場所探し、ロケハンに行きました。2010年の12月のことです。あ、東高円寺は苹果の住むマンションがあるコトになってます。なので苹果の家を訪れたあと、多蕗と苹果が話をするなら、この駅の近くかな? ということになったのです。ちなみに4話で登場させた和田塚公園の入り口のモデルは、この東高円寺駅のすぐ近く、青梅街道沿いにある「蚕糸の森公園」です。
で、自転車に乗って1人ロケハン。ちょっとした神社とか、ちょっとよさげな路地ウラとか、いろいろ写真撮ってきたわけですが、その中で山崎さんの琴線に触れたのが、あの「かえる公園」でありました。あのベンチ並びの謎のカエルの置物が気に入ったようで(笑)。本編カットのいくつかは僕が撮ってきた参考写真まんまのレイアウトだったりしています。また本編では黒い猫たちが登場していましたが、実際僕が行ったときにもネコが(笑)。また、苹果と多蕗が歩く壁から多数の配水管が突き出てる道も小学校だかの校庭脇の実在の道です。
また、冠葉に呼び出された2人の女の子たちが「赤い玉」で狙撃されるデパートの屋上は、荻窪駅北口にあるタウンセブンの屋上が元ネタです。実際あのなにやら形のよく分からない黄色いオブジェ(っていうか、実際には子供用の遊具なんですね)もそのまんま。池袋のサンシャイン水族館もそうですが、こんな感じで『輪るピングドラム』では結構密かに実在の場所をさりげなく元ネタにさせてもらっております。

で、この屋上での狙撃や阿佐美の病室でも使われた「赤い玉」、撃ち出されて命中するまでは赤、命中して「しゅばばばばばばッ」と何かをそこから吸い出したあとは灰色、そして最後は真っ白な灰に。赤い玉の時のKIGAマークは撮影での素材貼り込みでありますが(のちの話数では玉ごと3DCGになってたりしてます)、灰になったところから焦げ目タッチな鉛筆描きです。これ、最初に作画上がってきたモノを僕がダメ出ししちゃいまして、設定に合わせて山﨑さんが動画を描き直してくれました。これがかなりイイ感じ。なので、できあがった本編画面のこの「焦げ素材」をこのあとの話数では貼り込み用の材料として使ってます。
それにしてもこの銃、レーザー照準なわりには、撃つのは手動なパチンコなんですよね(苦笑)。

この6話は一見コメディタッチでありながら、実は内容的にはかなりシリアスなシーン、サスペンスなシーンが多く、今後のお話の鍵になる会話が随所に盛り込まれております。色彩設計的には、ここまでの話数で最もリアルな色遣いを意識的にしています。苹果のマンションでの夕景シーンも夕陽が影に干渉してる色合いの微妙さをキッチリ組んでみたりと、かなり丁寧に積み上げました。また、病室のシーンや屋上のシーンでは、緊迫した演出にあわせて影を深く作り込んだり、影部分の境界線にグラデーションを施して怪しいフンイキを探ってみたり。コメディタッチな演出とのギャップ、コントラストをキッチリと作りたかったのであります。
また、かえる公園での苹果と多蕗の回想シーンでは、背景もピンク〜ムラサキにイメージっぽく夕景を作ってもらってますが、キャラは背景よりも少し強めにムラサキな色合いに作ってます。これは初めて桃果について苹果と多蕗が語るシーンだったので、現実なんだけど、ちょっと苹果の思い出の中のイメージが強く出てる、そんな画面が意味ありげでいいなあと考えてみました。

そうそう、このかえる公園のシーンの直前に苹果と多蕗と苹果母が食卓についてるシーンがありますが、これは3話でも登場したシーンです。でも本放送時、この3話と6話では苹果の服が違っております。実はこのシーン、当初は3人とも黒い礼服着てる、ということだったのです。ところがたしか3話制作の途中で、物語の時間的設定が変更になり、高校生多蕗は礼服ではなく制服を着せることになったのです。苹果も黒のワンピースに黒ストッキング。母も黒を着ています。
実は3話の時点で苹果も修正しておけばよかったんですが、ま、大丈夫かな? と。3話の時点で6話のシナリオは上がってたわけですから気がつけばよかったんですが、6話のコンテが上がってそのシーンに直面して「あっ!(汗)」と。で、それを6話ではこっそり修正。苹果の服をそのあとのかえる公園のシーンのものに修正しました。ちなみにその後3話の方はBlu-ray&DVD時にこっそり差し替えるつもりでいて……ああ、すみません、忘れました!(平謝り(汗))

かえる公園のような画面を作りつつ、一方では重要でシリアスな内容のシーンほど画面はギャグっぽく作っていく、という側面も、実はこの作品のパターンであります。なのでこの話では、苹果の回想の両親のケンカ(カッパとラッコ)のシーンは思いっきりシュールかつギャグっぽく作られてます。語られてる内容は苹果の状況を物語ってるかなり重要な回想でありますね。このシーン、設定の色を作ってる段階で「エスカレートしていったら、普通なにか投げつけたりするよね?」って話になり、「父(ラッコ)は貝を投げられるけど母(カッパ)は何もないなあ……あ! 皿!(爆)」ってことで、頭のお皿を取って投げつける、という芝居になりました(笑)。
ラストの多蕗のアパート床下の「初夜中」シーンのピンクな色味は、昭和のちょっと場末なラブホテルをイメージして作ってます(笑)。美術ボードの打ち合わせのときに僕からお願いしました。あ〜、こういうところからこの『輪るピングドラム』、一部で「昭和なアニメ」とか言われちゃってるのかもしれません(笑)。

第182回へつづく

(12.03.07)