色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第152回 昔々……91 1995年その11 原作者の「掟」な6月

我が家の僕の仕事部屋は、数台のコンピューターと周辺機器、ブロードバンド・インターネット、家庭内サーバーなどなど、ちょっとした電脳デジタルな部屋になっておるのですが、そのサーバーが、なんといきなりお亡くなりになりました。合掌。
このサーバーマシン、実はかの『キャシャーンSins』の制作の際、制作のメインのサーバーとは別にスタッフルーム内での設定のやりとりや画像データの管理用に買った1TBのサーバーマシンでありまして、制作終了後、お金出してた僕が引き取って自宅で使っていたのであります。
で、そいつが何の前触れもなくお亡くなりに。どうやら4基内蔵のHDDのどれかが壊れた模様。幸いデータの整理移行中だったのでそれほどのデータは残っていなかったのと、大半はCDやDVDのディスクか別のハードディスクにコピーがあったので事なきを得てます。ふぅ〜。
昔の「紙」の時代と違って、デジタルは怖いです。デジタルデータであることで、いろんなものと連携したりして何でもできたりするんですけど、反面、ちょっとしたことでデータ自体をロストしちゃうのですよ。なのでほんと、バックアップが不可欠です。
あ、時々「ハードディスクにバックアップがある」って言われる方も多いですが、ハードディスクってアテにならないですよ! 動的ディスクはいつ壊れるか。やっぱりデータはDVDとかCDとかの静的ディスクにバックアップ保存するのが肝心ですよ!

さてさて。
矢沢先生の仕事場にもお邪魔して、徐々にエンジンがかかってきた『ご近所物語』でありますが、あっという間に時間は過ぎていきます。放送開始が9月初旬、気がつけばもうあと3ヶ月半ほど。思ったほど余裕はなくなってしまっていました。
僕はといえばこの頃並行して劇場版『DRAGON BALL Z 龍拳爆発!!悟空がやらねば誰がやる』の制作の真っ最中、とにかくこの劇場作品をねじ伏せてしまわなければなりません。かといって、『ご近所物語』の準備も止められません。9月放送の本編よりもかなり前もって雑誌やTV局に宣伝用の画像や映像を作って渡さなければならないのです。まずは宣材用スチール、ポスターの作成。いや、その前に本編用のキャラクターの基本の色の作業をやらなくては。
肌や髪、瞳といったキャラクターの基本の色を決める作業は、本編用のキャラクター設定から作る色見本と、先行して出さなければならないスチール画の作画の両方を使って決め込んでいきました。幸いこの作品はマンガ原作なので、それぞれの大まかなベースは原作のカラーページを参考にできました。しかしいろいろ問題が。そう、キャラクターたちの服装のカラーです。
実はスチール画については、ある程度原作の扉画などを参考にさせてもらっていたので、絵柄や服装によっては原作にあった着彩したものをそのまま参考にできたのですが、問題はアニメ版オリジナルのレイアウトのスチール。当然原作にはないもので、しかも色の参考のない服装が出たりすると、一応自分なりに乏しい知識振り絞って考えるのですが、果たしてこれで大丈夫なのか?と。

と、そんな最中に矢沢先生から約束のブツが届きました。送ってくださったのは、A4のクリアファイルにまとめられたカラーの資料でありました。「『ご近所』ファッションカタログ」、そう、通称「『掟』の書」です。

これは一番最初に顔合わせで矢沢先生にお会いした時に、それぞれのキャラクターごとのファッションの方向性について、矢沢先生の方から資料のようなものをまとめたものを送ります、と言ってくださってたのでした。
『ご近所物語』には、主人公・実果子と、彼女と同じデザイン学校に通うの友人たち、ツトム、リサ、ピーちゃん、勇介、ジロー、そしてバディ子という7人が登場するのですが、さすが服飾デザイン学校生、みんなファッションの傾向が違っているのです。正直、僕らにはお手上げな分野。それでも番組にする以上は、頑張って勉強して、理解できるだけの知識を持たなくてはいけないんですが、さすがに僕らの努力だけでは追いつけません。で、この「『掟』の書」なのです。

例えば、実果子はビビッドなキャンディカラーをベースに、実果子の好きな色「黄色」を配色して、チビTシャツとかミニスカートとか身体にピタッとした服を着る。ツトムは渋い色、茶とかグレーとか黒とかをベースにポイントに赤とか黄緑とかの派手な色を入れて、ブカブカなものは着せずぴったり系とか。バディ子は基本ハデな色でまとめて黒でしめて、アクセサリーは金、そして高級ブランド系のスーツな感じで、などなど。
とまあこんな感じに、キャラクターごとの「掟」を先生直筆のメモ書きとファッション雑誌からの切り抜きとを合わせて丁寧にまとめてくださっておりました。もうこれは一目瞭然! まさに「神」の1冊!
そしてこの「『掟』の書」を紐解いたところ、僕の考えた色たちはどうやらこの「掟」から外れてはいなかったのでありました。ああ、よかったよ! この「掟」に従って、あとは自分で流行を勉強してまとめていけば何とかなるはず。そう確信できたのでありました。

第153回へつづく

(11.01.18)