色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第140回 『四畳半神話大系』色彩設計おぼえがき 第1巻

体育の日の連休、この辺の日程で運動会だった学校もあったことと思います。小学校のころ、僕は運動会前日とかにやる、あの「予行演習」ってのが大ッ嫌いで、もうイヤでイヤでたまらなかったのですね。なんでいちいち練習するのか? そんなにちゃんとできることが重要なのか? 一発勝負でいいぢゃん! とか。
まあ、この歳になって振り返れば、そうだよね、本番イッパツでうまくいくハズがない(笑)。ただ走るだけじゃなくて、玉入れとか綱引きとか、そうそう、なんかのダンスとか、結構段取り必要な競技種目ってありましたモノね。僕が小学校の先生だったら、もうキリキリしちゃって、2度3度予行させたかも(笑)。
「そういえば中学生の体育祭の時のフォークダンス、なんであんなに男子と手をつなぐのイヤだったんだろうね?」いつだったかの同業女性陣たちとの呑み会でそんな話に。「そうそう、指先と指先でちょっとだけ触るくらいでね(笑)」いやあ、恥ずかしかったんですね、なんという思春期!
「いまだったらもう、ガッツリと手つないじゃうんだけどね!」という女性陣の力強いお言葉に大変納得した次第でございます(笑)。

さてさて。
前回に引き続き「『四畳半神話大系』色彩設計おぼえがき」。いよいよ各話のおぼえがきです。

■第1話 テニスサークル「キューピット」

 絵コンテ・演出:湯浅政明、作画監督:伊東伸高、色指定:辻田邦夫
いつものことですが、TVシリーズの第1話は僕が色指定もさせてもらうようにお願いしておりまして、今回も第1話は全部自分でやっております。

第1話の作業は、シリーズ中ずっと出てくるような場所がたくさん登場しますので、1話用というよりも、シリーズ全体のヴィジュアルの方針というか基盤を固めながらの作業でありました。たとえば、冒頭の猫ラーメンの屋台のシーンや木屋町の占い婆のシーンなどは、シリーズ全編を通して固定のイメージになるように決め込んでいきました。猫ラーメン屋台はノーマルのキャラに背景描きの黄色い照明に合わせて黄色味を足し、木屋町のお婆は、赤い背景の上で最初から作って行きました。
同じく舞台の中心になっていく四畳半は、監督と美術と相談して「昼間は薄暗く、そして夜、照明を点けたときがイチバン明るい」という考え方で進めることになりました。なので照明ありの夜の四畳半の中のキャラクターは基本の「ノーマル」色で設定しました。よって、Bパート後半のカステラを食い散らかすシーンが、1話では唯一「ノーマル」な色指定のシーンになってます。
それ以外のシーンはシーンごとの美術ボード合わせで設計してあります。鴨川デルタの花火の一連のシーンや「五山」の橋の上のシーンなどは夜の明るさ暗さのバランスを基に決め込み、焼き肉屋のシーンは背景に使ってる色にあわせて黄緑を足してあります。「私」だけ酔っぱらってるので、首から上はピンクにしてあるのですが、できあがり的にはちょっと弱かったかな? と。なので、2話以降の同様のシーンでは、赤みをもっと強く調整することに。

「約束ですよ?」の回想シーンの夕景は、美術も含めて輪郭線(主線)をオレンジにということで(監督)、まずは主線を美術ボードの主線に合わせた色で設定して、その上で美術ボードに合わせて色をいじっていきました。最初は割とノーマルっぽい色からスタートしたんですが、「髪の毛も思い切ってオレンジにしてみませんか?」と監督。で、思い切ってやってみて、あんなオレンジになったのでした。
ただ、髪と同じく黒かった明石さんのカバンですが、法則的にあわせればやはりオレンジになるんですけれど、芝居の中でカバンにぶら下げられてる5色の「もちぐま」(1個ないので4色ですが)について説明するカットがあって、その際に観てる人に「もちぐま」がハッキリと印象づけられるように、その「もちぐま」たちの後ろのカバンをあえて黒っぽいままにしてあります。

ラストの「五山」の人混みのシーン。メインどころ以外のキャラはすべて、大胆に単色シルエット処理にしたのですが、この色あいと明るさがやはり微妙で、パソコンのモニター上ではいい感じに組み合わさっていたのですが、実際撮影されたカットをチェック用のモニターで見るとどうもバランスが悪い。ことのほか主線が塗り色に溶けてしまっていたり、背景に対して溶けてしまっていたり。なので、何回かリテイク(撮り直し)にさせていただいて、カットごとに微妙な調整をさせていただきました。

■第2話 映画サークル「みそぎ」

 絵コンテ・演出:横山彰利、作画監督:西垣庄子、色指定:秋元由紀
『キャシャーンSins』の時と同様に今回も色指定さんの人選やローテーション・コントロールを任せていただいていましたので、知り合いの色指定さんたちに声をかけて参加していただきました。今回は色指定さん基本3人のローテーション。1話と最終11話を僕が担当して、残り9話を3人で3話ずつ。

毎週納品のTVシリーズのスケジュールでは、ダビング合わせとか原板合わせとか、隔週で追い込みがあったりします。これを2人で回していくと往々にして前後2本の担当話数の追い込みが重なるという状況になりがちなのです。3人にすれば最低でも1週は追い込みのない週が発生する、と。みんな他にも他作品の仕事を抱えてたりしますので、どこかに余裕を作っておかないと、いざという時に疲れちゃってるとなかなかチカラが出せないのですよね。
そのトップ・バッターが秋元さん。ある程度完成に近づいた1話の映像をどんどん渡して、観てもらいながらフンイキを掴んでいってもらいました。以降、3話でも4話でも同様に、先行してる話数の映像をどんどん観てもらって参考にしてもらいました。

2話からの大きなポイントは「回想」と「現在」でありました。2話以降のお話は、「私」がある時点に立っていて、前半はそれに至るまでのことを「回想」し、後半はいま「私」が立っている「現在」からの顛末、という構造になっていました。「見た目に『あ〜、回想なんだなあ』って分かる感じがいいです」と監督。で、考えたのが、美術もセルも、主線の色をセピア調な茶色系にして、それに合うように色味も心持ち茶色系セピア系を意識していく、ということになりました。キャラクターの服装も現在と過去で替わります。ですので、メインの場所もノーマル色指定が2種類。普通の「ノーマル色」と「回想ノーマル色」。肌色はそのままですが、普通の「ノーマル色」でデータ的に「黒(BL)」な髪などの部分は、「回想ノーマル色」ではすべて、背景のイチバン暗い色に合わせて「グレー系の暗い茶色」に置き換えました。
そんな感じでとにかくシーンごとにほぼすべて特殊彩色。かなり煩雑でわかりにくくなりそうだったので、この話から前回にもちょっと触れました「色彩香盤表」を書くようにしました。これでだいぶ色指定の打ち合わせや説明、実際の作業がスムーズになりました。

そうそう、吉田山での回想シーン。「わたしの肌のどこが白いんですか? 肌の白い方は他にもいっぱいいますし……」という明石さんのセリフ。「イヤイヤ明石さん、あんた充分白いよ」という突っ込みを入れたくなるところなんですが、実は明石さんの肌色にはホンノリと赤みが入っていて、RGBデータ的には「私」の方が白い肌だったのですね。思わずひとりで「ニヤリ」でありました(笑)。

おまけ■オープニング

 絵コンテ・演出:湯浅政明、映像設計・撮影・編集:加藤道哉、色指定:辻田邦夫
今回このオープニングについての色彩は、すべて僕が担当させていただきました。登場するキャラクターの色だけでなく、背景の色味の変換や文字の色味、実写のムービーの色味のバランスもすべてです。ここまで全部任せていただけるというのは初めての経験で、非常に楽しく、また勉強になりました。
打ち合わせで伝えられたイメージにそってあらかじめ準備したデータを、加藤さんから送られてきた仮のムービーに合わせて、連日のコンテチェックと打ち合わせでお疲れだった監督を半ば拘束するようにして、色のみならず、色を変えるタイミングや何回変えるのかというところまで、ひとつひとつ決め込んで完成させました。
オープニングのラストでクルクル回ってるキャラたちですが、オープニング作り始めたときはまだ色味が確定していないキャラも多数あって、納品ギリギリまでかかって2度3度差し替えていただき、最終バージョンの色になったのでした。

第141回へつづく

(10.10.12)