色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第134回 昔々……78 1994年その12 劇場版『セーラームーンS』も〜っと色カーボンの憂鬱

またもや京都に行って参りました。僕的「『四畳半神話大系』京都ご当地後追いロケハン紀行」の最後を飾る五山です。
8月16日の夜、鴨川デルタからホンモノの大文字送り火を観ました。いやあ、感動! 感激! そして、あり得ないくらいの大混雑(笑)。聞けばこれでも例年より人出が少ないとか。なんと!
これでは最終回の「私」のように走るなんてのはまず不可能。デルタの松林も、鴨川の土手も、まったくもって送り火見物の人並みに埋め尽くされておりました。出合橋は一方通行の交通規制だし(笑)。
それでも夜空に浮かび上がった「大」の文字を一生忘れることはないでしょう。
これにて『四畳半神話大系』を巡る旅も終結です。あとはDVD&Blu-rayの発売を待つばかり。みなさん、よろしくお願いいたします。

さてさて。
予告編の塗り上がりセルを見て、重大な問題が発覚した劇場版『セーラームーンS』。すでに本編作業はスタートしてしまいました。いまさら変更は利きません。さあ、どうするか?
その時、ふと気がつきました。「あ! それじゃあ、色見本の時のように、セルの上から白カーボンの線をもう1枚かぶせればいいジャン!」
というわけで、急遽もう1枚ずつ、白カーボンでマシントレース。スノーカグヤのすべてのセルについて、白カーボン線だけ、セルをもう一枚ずつ作成。そして撮影時に重ねて撮ってもらうことになったのです。
これは大変なコトになってきました。
仕上げの作業的にはマシントレース時に2枚ずつマシン作業して、彩色用とかぶせ用を用意すればよいのですが、問題なのは撮影です。デジタル撮影であれば理論上何枚セル重ねがあっても問題なく撮れるわけですが、当時はセル+フィルム撮影。一応透明なセルですが、それでも、それが何枚も重ねられると、下にあるモノはさすがに少しずつ光量が足りなくなって暗くなってしまうのです。
例えば、1枚動画で完成しているカットだと、塗ったセル+線のみのセル、で2枚重ねで済むわけですが、これが、本体+目パチ+口パク、とかになっちゃうと、それだけでなんと6枚重ねです! さらに、カーボンの種類の違うキャラクターが入り込んでくると、そのセルの芝居分も別のセルがあるわけですから、あっという間に7枚8枚になっちゃいます。
ですので、通常なら口パクや目パチは別セルになってた方が楽なのですが、今回は可能な限り「描き込み」か「合成」にしてもらいました。そうすればそのぶん、セルの重ねは減ります。が、仕上げ作業にはかなりの負担になってしまったのでした。そして動画枚数も。
当時(ま、今もですが)、作画枚数が非常によく問題になっておりました。東映に限らず、まあ、みんなどこの会社も作画枚数の徹底は行われてるのですが、今回は(実数は忘れちゃいましたが)さすがに大幅にオーバー。ま、いろいろな事情を考えれば仕方ない事態ではあったのですが、それよりも地獄のように大オーバーしちゃった仕上げ枚数は、実はあんまり問題になってなかったり(汗)。
ともかく、そんなこんなで気がつけば大詰めな劇場版『セーラームーンS』。お話のクライマックスは、ルナが人間の姿に変身して、翔とのイメージシーンです。当時『セーラームーン』の色彩設計上、自分の中では「いいシーンはノーマルっぽく見せたい」っていうのがあって、なのでこのシーンも基本的には「ノーマル」の色指定を基本に使っていて、「地球の日の出」のいくつかのカットのみ照り返しのハイコン調に組んでいます。しかし、これはあとで完成画面見て「失敗だったかも……」と。
実はこれ、またしても「太陽色彩の絵の具問題」が影を落としてます。というのも、この辺のカットの、とりわけ寄りサイズのカットは韓国で作業をお願いしたカットで、従って絵の具も太陽色彩絵の具に換算して発注、作業してもらったのです。で、この換算、微妙にうまく行きませんでした。どうも色味がくすんでしまった。色味の「ヌケ」がよくないのです。
ノーマル色の絵の具ナンバー、影色の絵の具のナンバーをそれぞれ一番近い色の太陽色彩絵の具で換算していくわけなんですが、ノーマルが微妙に暗くくすみ、影色が微妙に明るくなって、よって、組み合わさった時のメリハリがボケてしまったのです。とりわけ肌と服にそれが発生してしまいました。本来のSTAC色だったらスッキリいってたハズのシーンが、いくぶん色あせてぼんやりした仕上がりになってしまったのです。
だったらいっそのこと、最初から特殊彩色シーンってことで、なにかもっとイメージっぽくしてしまうのもありだったのではないのか。でも、あのシーンは、ルナの気持ち的にも現実感がちょっとでも画面に乗せられたらな、って考えてたシーンですし。
さらにはあのスノーカグヤでも同じことが。肌色に使った青系の絵の具、太陽色に換算するとやはり微妙に暗く、そして微妙にくすんでしまっているのです。ああ、これも透明感が重要だったのに……。かと思えば一方、スノーダンサーズの方は、むしろ太陽色カットの方がフィルムになった時いい感じだったり。う〜む、悔しい。もうちょっと気持ちにも時間にも余裕があれば、いろいろ対処のしようもあったのではないかとは思いますが、ねえ……。
きっと他のスタッフの方たちや、観てくれた方々にはそんなにヘンに見えないシーンだとは思うのですが、色を任された当の本人的には、どうにも残念で仕方のない画面になってしまっているのです。
『ドラゴンボールZ』のような、ガッツリ硬めでごっつい作画の作品なら、まあそれほどでもないのですが、前回の『セーラームーンR』の時もそうだったのですが、作品的に透明感のある色を多用するような作品はやはり太陽色彩絵の具への換算は難しいです。いっそ、全部太陽色彩絵の具で作らせてもらえたら、太陽絵の具の色空間で設計できるわけで、むしろよかったかなあ、と。でも、それだと、きっとまったくフンイキの違った『セーラームーン』なっちゃうんだろうなあ。
そんなことを悶々と考えながら0号試写を観たのが劇場版『セーラームーンS』でありました。

第135回へつづく

(10.08.18)