色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第107回 昔々……(64) 怒濤の人口密度! 劇場版『セーラームーンR』のスタッフルーム

「海賊映画」の制作も終わりまして、やっと平穏な日々到来……と思いきや、スケジュールが大きくずれ込んじゃったのおかげで、関わってるほかの作品の僕の作業が押しまくり。先週はなんと3日も徹夜作業という事態に。あ〜、これじゃ海賊に捕まってたときの方が楽かも(苦笑)。

そこへ追い打ちをかけるように、自宅のパソコンのHDDが1台お亡くなりになりまして、仕事関係のデータが飛んじゃいました(号泣)。ほとんどのデータはバックアップしてあったので大丈夫だったんだけど、打ち合わせに向けて作業していたとある新作の作業データがキレイに消滅! 打ち合わせ当日の早朝の出来事であります。もうね、あまりのことに声も出ませんでした。当然その日の打ち合わせは延期。ホントご迷惑おかけしました!>関係各位

みなさんもデータのバックアップは早め早めに!(泣)

そんな悲劇の色見本データもなんとか最初から作り直しまして、先日仕切り直しの打ち合わせ。おおむね、監督のOKをいただけました。放送は来年スタートのこの作品、まだまだ詳しくは書けませんが、こちらも乞うご期待であります。

さてさて。

制作会社、スタジオによって様々なのかもしれませんが、東映動画(現・東映アニメーション)では、新しく作品がスタートする時、まずは「スタッフルーム」が設置されます。

「スタッフルーム」というのは、文字どおりスタッフの部屋。監督を中心に、作画監督、演出助手、制作進行などのメインのスタッフがひとつの部屋に集められ、その部屋を中心に作品が動いていくのであります。TVシリーズでも劇場用作品でも、規模はさまざまですが、とにかくまずはスタッフルーム。

ちなみに東映では、特殊な事例を除いて、僕ら色彩設計や色指定はスタッフルーム内に席を置きません。そもそもが社内に籍を置いてる人員があたることが基本なので、社内の自分らの部署の席そのままで作品に参加します。美術さんは美術さんで、やはり社内、あるいは外注プロダクションでの作業が基本。このシステムは今も同じ。

本来ならば、メインのスタッフはみんな同じ部屋にそろった方がいいんですが、デジタル化された現在ならそれも割と簡単なことなのですが、セル絵の具だった当時は絵の具とかまで持っていくわけにもいかず、半ば慣習的に別々になっちゃってます。

で、劇場版『美少女戦士セーラームーンR』のスタッフルームですが、大泉スタジオの通称「新館」の2階に築かれました。

実はこのスタッフルーム、ほかの作品のスタッフルームとはちょっとフンイキが違っておりました。

この部屋には監督の幾原氏、助監督の五十嵐卓哉氏と制作進行が常時詰めていたのですが(作画監督は自分の所属スタジオで作業されておりました)、さらにもう1人。製作担当・樋口氏であります。

「製作担当」というのは東映的な独特のクレジットで、いわゆる制作プロデューサーと制作デスクを合わせたような立場の役職であります。当時の東映動画でおそらく一番のやり手の製作担当であった樋口氏が、この大変なことになるであろう作品の制作の「舵取り」を担当していたのでありました。

とにかくスケジュールがなかったこの作品、確実に原画を終わらせるために樋口氏はある作戦を取りました。それは、スタッフルームに原画マンを集めちゃう、という戦法です。

こう書くと「それって普通だよね?」と突っ込まれそうですね。まあ通常制作が取る作画追い込みの手立てなんでありますが、実は今回、スタッフルームに使ってた部屋がちょっと、というか非常に狭い部屋だったのです。

鉄筋コンクリートの建物の、それほど高くないもない天井、ドアもひとつだけの、広さおよそ十数畳ほどの密閉空間。普通なら監督、助監督に、制作の机二つも入れればそれでいっぱいになっちゃうそんな部屋に、どんどん入れられるだけの作画机を運び込んだのです。

樋口氏は、スタッフルームのすべてを一同に見渡せるよう、部屋のど真ん中に事務机をひとつ置き、その周りに次々と作画机を配していきました。壁に沿って、とかいうレベルではなく、隙間という隙間、隙間がなくなれば机を斜めにして隙間を作って、入れられるだけの作画机を入れていったのです。作画机のサイズも当然一番小さな動画机です。

そして、次々に集められる原画マンたち。

いったん席に着いちゃったら、おいそれとは席を立てないくらいの密着度。最大瞬間人口は監督含めて10人くらいいたんじゃないかと。おそらく、今に至るまでの大泉スタジオ内人口密度歴代ダントツ1番ですね。

で、とにかく手持ちが終わるまでその席に詰めさせる。部屋の真ん中には樋口氏が睨みを効かせている(笑)、とそんなちょっとした緊張感の漂う部屋なのでありました。そしていつもピタッと閉じられたドア(笑)。

監督に質問や相談があるたびにスタッフルームに顔を出すんですが、あまりの人の密度になんかちょっと話し辛いくらい(笑)。今も昔もとかく夜型になりやすい作画です。こんな感じでまさに不夜城。制作期間中、この部屋の照明の消える日はありませんでした。

で、1人、また1人と、自分の担当分が終わった人からスタッフルームを後にしていきます。「おつかれさまでした!」と疲れた身体を引きずってさわやかに去っていく原画マンたちが印象的でありました(笑)。

そんなテンションで描き進められていった作画でありました。そしてその原画は、次に僕のところへと廻ってくるのであります。

■第108回へ続く

(09.12.01)