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アニメの作画を語ろう
シナリオえーだば創作術――だれでもできる脚本家[首藤剛志]

第81回 病院の『アイドル天使ようこそようこ』

 僕の入院は、実際にアニメを製作する会社、葦プロダクションにとっては大変だった事は充分想像される。
 何しろ、放映中の作品なのである。
 原案シリーズ構成の僕には、詳しいいきさつは知らないが、『アイドル天使ようこそようこ』の製作には、ビッグウエストという会社もからんでいる。
 そんなこんなもあって、アニメ制作上は、かなり混乱が生じただろう。
 特に、当時、葦プロダクションの文芸担当だった赤堀義浩氏は、病院から送られてくる脚本をかかえ、時には、東京から久里浜まで来るなど東奔西走し、その苦労は並たいていではなかった。
 今ごろ言っても始まらないが、感謝の言葉もない。
 さらに、監督のアミノテツロ氏には、直す暇のない脚本が届く。
 打ち合わせは、電話しかない。
 その脚本を監督してアニメ化しなければならないのだから、そうとう力任せの技量が要求される。
 しかも、その作品のほとんどが、歌の入るミュージカルもどきである。
 アミノ氏の音楽センスと、監督センスがなければ、『アイドル天使ようこそようこ』のような特殊なアニメはこなしきれなかっただろう。
 あるインタビューで、アミノ氏は、『アイドル天使ようこそようこ』は「自信作でなく、自慢作である」と語っているが、まさにそのとおりだと思う。
 ついでだが、そのインタビューの載っている本が、「この人に話を聞きたい」小黒祐一郎著、飛鳥新社刊である。
 それはともかく、アミノ氏をはじめ、絵コンテ、演出、その他『アイドル天使ようこそようこ』の制作に関わった方には、お会いした事のない人も多いが、いまさらながらこの場で感謝したい。
 感謝ついでといってはなんだが、『アイドル天使ようこそようこ』の企画時、まだ、歌手の田中陽子さんとのリンクも決まっていなかった頃、次世代のアイドルはどんな女の子なのか、相談に乗ってくれた人もいた。
 その人は、当時『アイドル天使ようこそようこ』とは、全く関係ない別の企画でつきあっていただいていた。僕の葦プロ前作の「ミンキーモモ」の演出をしていた故石田昌平氏である。
 石田氏と僕が、次世代のアイドルとして選んだのが、初期の森高千里さん(知っていますか……?)だった。
 石田氏は、森高千里さんのCDやビデオを、手に入るだけ集めてくれた。
 だから、アイドルとして歌う「ようこ」は、田中陽子さんというよりは、ほんのわずか、若干にすぎないのだが、森高千里ムードがあるかもしれない。
 石田氏は、『アイドル天使ようこそようこ』には、まったく関わっていず、遠くから『ようこ』を見ていてくれていた。
 他にも、当時、執筆中だった海をモチーフにした「永遠のフィレーナ」や、次回作に予定していたルネッサンスを舞台にした「戦国魔神ゴーショーグン」の小説の資料を、わざわざ小田原の仕事場まで探しに行って病院に送ってくれたアニメージュの小説担当の吉田氏や、入院中にお世話になった方は、数知れない。
 今、思っても、感謝の言葉もない。
 さて僕はと言えば、入院して数週間は、原稿を書きながら、ぼろぼろに近かった内臓の治療を受けたものの、それが終わると、ほとんど行動は自由になった。
 病院は陸の孤島のようなところにあったが、敷地は広大で、その中は朝食、昼食、夕食以外の、外が明るい時間内なら、許可さえとれば、どこにいてもよかった。
 今思えば、かなりユニークな病院だったといえる。
 敷地内に広いグラウンドと、いくつもの丘と林があり、プライバシーを守れる電話ボックスと、郵便ポスト、喫茶店まであった。
 海を見下ろす丘の上には、ベンチと灰皿までおいてあった。
 アルコール依存症者は、余程の重症者でない限り、禁断症状と壊した体が元に戻れば、普通の人である。
 ただ断酒を続け、飲酒生活中に乱れた生活習慣を規則正しい生活に戻す訓練をすればいい。
 つまり、酒を飲まずに社会復帰できそうになれば、いいのである。
 もっとも、一般社会に出て、どこでも手に入る酒を止める事ができるかどうかが、非常に難しいのだが、久里浜の病院は、病院というより、社会復帰の訓練施設といってよかった。
 社会復帰のためのスポーツや遠足などのイベントが行われ、木工や陶芸や読書の施設が用意されている。
 食事も肉と魚を選べるようになっていた。
 居心地がいい、と患者に居続けられては困るので、入院期間は一応、3ヶ月と決められているような病院だった。
 僕は、規則正しい時間帯の中で、毎週のように送られてくる『アイドル天使ようこそようこ』の原稿の直しをした。
 当時はワープロが普及しておらず、原稿用紙に書かれた脚本が多かったので、自然と原稿用紙の紙クズがいっぱい出た。
 おまけに、『ようこ』のBGMの入ったカセットを聞き続けている。
 変な患者だと、みんなが思っていただろう。
 当時は、各ベットにTVなどなく、TV室があったが、男性病棟では、放映中の『アイドル天使ようこそようこ』を見る事ができないので――当たり前である。チャンネル争いで少女向けアニメが勝てるわけがない――医者に頼み、女性病棟のTV室で、毎週『アイドル天使ようこそようこ』を見ていた。
 女性病棟で、少女アニメを見るおじさん……はたから見ると相当おかしい。
 しかし、見ているアニメのタイトルに、僕の名前が出ている事を、患者に気がつかれてから、もっと不思議な目で見られるようになった。
 病棟で原稿を書いている男のアニメが、リアルタイムで放映されているのである。
 それ以来、声をかけてくる患者が、多くなった。
 彼らのほとんどが、入院にいたるまでに、悲惨な生活や体験をしている。
 病院を退院しても、現役として元に戻れるかどうか、不安な人達が多いのだ。
 そんな中に、入院しながら、現役のようにTVで放映している番組を書いている、僕がいる。
 アルコールの依存症者は、不思議な事に、酒を飲んでいる時はどんなに暴れようと、酒が抜けると、生真面目で、どちらかといえば神経質でストレスに弱いタイプが多い。
 ただ、その酒が抜けた事がないから、奇妙な行動をとったり暴れたりして、病院入りになる。
 そして、そんな自分がたまらないから、退院してから、また酒を飲む。
 その繰り返しになってしまう。
 そんな絶望感が静かにまん延している中で、現役の仕事をしている僕がいる。
 彼らは、僕をやさしく励ましてくれるのである。
 仕事がしやすいように、気を遣ってくれる人もいた。
 もしかしたら、僕は、彼らの希望のようなものだったのかもしれない。
 その頃、知りあった友人達は、もう誰も生きていない。
 みんな、退院後に再飲酒して体調を崩して倒れている。最後まで断酒に熱心だった友人は、自らの再飲酒に絶望して自殺した。
 アルコール依存症は、進行を止める事はできるが、不治の病であるという証拠でもある。
 さて、この病院では、体調のよくなった患者で家庭のある人は、毎週土日に外泊する事を義務づけていた。
 酒のあふれている現実の社会で、飲まずにいられるかを訓練するのが目的だった。
 都合のいい事に、土曜日は『アイドル天使ようこそようこ』のアフレコの日だった。
 したがって、入院後2ヶ月ほどで、アフレコには病院から通えるようになった。
 予告を、アフレコ現場で書けるのがうれしかった。それに、映画をテーマにしたエピソードで、ワンカットだけ、アミノテツロ氏が監督役で声の出演をしているのに笑った。
 『アイドル天使ようこそようこ』は、玩具も売れず、田中陽子さんもブレイクせず、打ち切りも予想できたから、52話が43話で終わると聞いても、最終2話の用意はできていた。
 その原稿は、昼食後の休みに病院を抜け出し、かなり離れた駅の近くから、ファクスで送った。
 締切にはぎりぎりだったが、それでも余裕があって、41話は、アミノテツロ氏自身が書いた、大人になったようこを描いた脚本が、番外編のようにはさまっている。
 本来は別の脚本が入る予定だったが、今は、それでよかったと僕は思っている。
 病院での『アイドル天使ようこそようこ』は終わったが、『ようこ』には、作品終了後にも、まだまだ、いろいろな事が起こった。

   つづく


●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)

 脚本の書き方については、サンプルで載せた数本の脚本を読んでいただければ、分かると思う。
 それで足りなければ、大きな本屋に行けば、シナリオを掲載した雑誌や本は沢山見つかるだろう。
 いろいろな脚本を読めば分かるだろうが、脚本で何より大事なのは、ストーリーや構成や設定などでなく、まずキャラクターだと思う。
 それも、本や映画で見たキャラクターではなく、自分のよく知っているキャラクターに動いてもらう事だ。
 自分の知人や友人、恋人に、ストーリーや設定にあわせて動いてもらうのだ。
 あなたのよく知っている人が、そのストーリーや設定の中に置いたら、どういう考え方や動きをするか、想像してみよう。
 おのずから答えが出てくるはずである。
 キャラクター達が、勝手に動き出したのを感じたら、そこで、あなたのオリジナリティのあるキャラクターが生き始めた事になる。
 原作のあるものでも、とりあえず、登場人物をあなたの持っているキャラクターに置き換えて動かしてみよう。
 あらら、原作と違うストーリーになってしまった……という事もあるかもしれない。
 それは、原作が間違っているか、あなたのキャラクター把握が間違っているかのどっちかである。
 とりあえず、原作に迎合せず、自分を信じて、あなたのキャラクターの動きたいようにいくところまでいってみよう。
 原作と違うという苦情が山ほど出てきたら、そこで考えればいい。
 ともかく、自分の持っているキャラクターで、強気で行く事……原作があろうと、オリジナルであろうと、自分のキャラクターに動いてもらう事が、先々の脚本技術的な勉強にもなると思う。

   つづく
 


■第82回へ続く

(06.12.27)

 
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