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アニメの作画を語ろう
シナリオえーだば創作術――だれでもできる脚本家[首藤剛志]

第27回 バルディオス発進

 本文の前に、前回『バルディオス』の演出を湯山邦彦氏と書いたが、絵コンテの間違い。演出は大庭(おおば)寿太郎氏。両氏とも、僕とははじめての仕事で、ついでながら大庭氏は葦プロの次の『ゴーショーグン』に登場する児童教育用ロボットOVA(オヴァ)の名前のもとになったといわれている。お詫びして、訂正します。

 さて、『バルディオス』は、ロボットものの中で、人間のドラマを描こうという意欲のあった作品だが、シリーズ構成の酒井氏の考えた人間ドラマは、『ガンダム』などの人間成長ドラマとは違い、もっと大人びた人間の愛憎ドラマを狙ったものだったようだ。
 汚染されつくしたS―1星から、移住を決行したアルデバロンという船隊が、地球を発見し征服を企てる。しかし、アルデバロン内でごたごたが起こり、マリンという青年が地球に脱出してくる。そのごたごたのときに、マリンは誤ってアフロディアという女性司令官の弟を殺してしまう。アフロディアは弟を殺したマリンに憎悪を燃やし、かといってマリンに対する、本人すら気が付かぬ愛情のようなものもあり、そこに、アルデバロン軍の冷酷な総統ガットラーという男の、アフロディアに対する寵愛ともいえぬ微妙な感情がからむ。変にひねくれた三角関係と、地球に逃げてきたマリンと、地球を守るブルーフィクサーという防衛隊のメンバーとの確執、友情、愛情などが入り交じり、人間関係が複雑で、書いている僕さえ説明するのが難しい人間ドラマだった。おまけに、地球軍内部にも確執がおこり、ドラマが進むにつれていろいろ変化していくからややこしくなる。
 簡単にいえば、宇宙人の地球侵略ものなのだが、人間関係や状況が複雑だから、ちょっと詳しく説明しようとすれば、書いている本人さえややこしくて、苦労せざるをえないような作品だった。
 おそらく、酒井氏の頭の中には、はっきりしたイメージがあるのだろうが、こちらは????だった。
 酒井さんからすれば、「あれだけ説明したのに、まだ、分からないの?」といいたいところだろうが、少なくともロボットものをやったことのない僕には、????だった。
 おまけに設定や人間関係の説明に手間がかかり、僕が担当する第4話まで、題名になっている、バルディオスというロボットが動いて出てこなかった。
 第4話をやれといわれ、とっくにバルディオスが敵と大乱闘しているころだろうと思っていたら、まだ、発進さえしていないのである。
 主役のロボットが、番組のタイトルバックには出ているとはいえ、本編に第4話まで登場してこないのは、ロボットものとしては異色を通り過ぎている。おそらく、それまでの他のロボットものにはなかっただろう。ロボット登場まで、3話分も人間関係と設定でひきのばしているのだから、おまちかねの真打ち登場は、よっぽど派手にやらなければならない。
 さらに、地球を守るバルディオスを唯一操縦できる設定の青年マリンは、地球人にとって敵であるS―1星人である。地球人から信用されていない男が地球を守るために戦うのである。
 おまけに、S―1星人達は、宇宙からではなく、亜空間から突然攻撃を仕掛けてくる。
 亜空間などという名前は、耳にはするが、どんな空間なのか見当もつかない。現存する世界とは別の空間……4次元のようなものであるらしい。その亜空間の、バルディオス初デビューを僕が書くのである。
 ついでにいうが、アニメはスケジュールの関係で、3話か4話を同時進行で書く。だから、1話ぐらいはともかく2話、3話のシナリオは完成してなく、あらすじを聞いているだけである。
 したがって、僕の4話は、ほとんど見切り発車だった。
 僕が知っているのは、マリンが周囲から信用されていないこと。
 こういう話のおきまりだが、ジェミーという地球人の女の子が、マリンになぜか、好意を持ち出していること。
 そして、敵のS―1星人であるマリンを信用して、自分が開発したバルディオスを任せる決意をしたクールなクインシュタインという名の女性科学者がいること(女のアインシュタインだから、クインシュタイン……ちょっと、頭を抱えたくなる名付け方だが……葦プロや竜の子プロの名前はこんなのが多い)。
 とにかく、それだけの素材で、バルディオスを発進させた。
 亜空間に出撃したバルディオスは、どんな戦いをするか?
 それは、もう、どうでもよかった。戦いに勝たなければ、このアニメは4話で終わりである。1年予定の話が4話で終わっちゃ困る。
 戦闘場面は、どんなに工夫しても、他のロボットアニメの戦闘シーンと大同小異だろう。「バルディオス」独自の見せ場にはならない。
 では、どこに見せ場を作るか……僕は、バルディオスが、未知の亜空間から現実の世界に戻れるかどうかのサスペンスと、バルディオスをマリンに託した女性科学者との信頼関係にしぼった。
 バルディオスが、現実世界に戻ってきて、みんなが、勝った勝ったと、喜んで駆け寄ってきてもたいした見せ場にはならない。バルディオスの現実世界への帰還の場所を見せ場にすることにした。バルディオスが亜空間のどの場所にいるかは、現実の空間からは感知できない。バルディオスの亜空間滞空時間にはタイムリミットがある。その時間までに現実空間に戻らなければ、バルディオスは消滅してしまう。タイムリミットが迫る。5・4・3・2・1・0……いきなり、バルディオスは地球司令部のど真ん中に、周囲のものをぶちこわして戻ってくる。
 司令部はめちゃめちゃ……しかし、作戦は成功……。
 マリンと女性科学者は、司令部の通路をすれ違う。
 二人は、何もいわずにすれ違う。
 だが、そこには、確実に信頼関係が生まれている。
 この一連のシーンを絵コンテも演出も、かなりうまく描いてくれた。
 僕にとってはじめてのロボットものの出来上がりは、脚本家としての僕にとっても、かなり満足度の高いものになった。
 その時は、絵コンテが誰で、演出が誰でなどということは、考えもしないし、名前を覚えようともしなかったが、ロボットものも、やりようによっては、面白いなと思った。
 だが、複雑で、いささか面倒くさい本筋の人間ドラマには、あまり関わりたくないとも思ったので、本筋と関係のない一話で完結できそうな準レギュラーのエピソードを書かしてほしいと、酒井氏にはお願いして、快諾してもらった。それが、まさか、シリーズが終わりに近くなって、準レギュラーやいろいろな設定の始末まで、僕がしなくてはならなくなるとは思っていなかった。

   つづく


●昨日の私(近況報告)

 しつこいようだが、先週は、どのくらい映画を見ましたか。
 昔の名画といわれる作品には、それぞれ特有のリズムがある。
 映画はいうまでもなく商売である。
 だが、いくら商売といっても、今の映画のように、マルチメディアとして、いろいろな企業が参入してはいなかった。
 もうけるための意見や注文が、ごちゃごちゃまぎれこんで映画作品のリズムまでこわしはしなかった。
 映画は、音楽に似てリズムでできているところがある。
 リズムは、書いて覚えるものではない。体で覚えるものである。
 リズムは、様々なものがある。
 できるだけ様々な映画のリズムを覚えるには、1本のシナリオを読み書きするより100本の名画を見た方が早い。
 物語(ドラマ)には起承転結とか序破急とかいうものがあるという。
 これも、大きな意味でのリズムである。
 起承転結とは何か、などという解説書を読んだり、それを参考にして、脚本を書いたりするより、名画をたくさん見れば、自然に体に身についてくる。
 そうなってくると、映画や物語や小説だけでなく、自分の言動、行動、たとえば恋愛、結婚すら起承転結、序破急がないと、落ち着けなくなってくる。人生だって起承転結のリズムで収めたくなる。
 なにも、人生までリズムをつけることはないと思うが、いろいろな人の人生を見ていると、結構、起承転結になっていたり、序破急だったりして見えるから不思議である。
 まあ、少なくとも、映画のリズムぐらいは体で覚えよう。
 勿論、全て、起承転結、序破急がいいといっているのではない。
 それを破って成立しているものもある。
 だが、それを破るのもリズムで破るのである。
 不協和音や壊れたリズムでは、ぶちこわすだけである。
 ともかく、名作名画を腹一杯見ることだ。

  この項、つづく
 

■第28回へ続く

(05.11.30)

 
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