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アニメの作画を語ろう
シナリオえーだば創作術――だれでもできる脚本家[首藤剛志]

第176回 2週間休載のお詫び

 ポケモンアニメの映画版第1作『ミュウツーの逆襲』のクライマックスについてお話ししようとした矢先に、2回もコラムの更新を休み申しわけありませんでした。
 コラムの読者のみなさんと、アニメスタイルのスタッフの方々に心からお詫びします。
 理由は、簡単にいえば僕の不摂生による体調不良で書けなかったとしか言いようがありません。
 昔からそうなのですが、僕は、考え事をしだすと寝食忘れるところがあり、特に数年前、仕事場を小田原から東京に移してから、仕事場にとじこもって資料の山に囲まれていると、昼夜、食事がめちゃくちゃで、家族とも別居状態。おまけに、仕事場のベランダはDVDを観るためプロジェクター用の100インチスクリーンでふさがれて、室内はいつも真っ暗。時間の感覚がなくなり、たとえば時計を見て3時だとすると、それが、昼の3時か真夜中の3時かマンションの外に出てみないと分からない状態。それでも仕事場のある渋谷は不夜城ですから、24時間営業のコンビニも開いているし、仕事場から歩いて10分も歩ける距離のところに密集している飲食店も終夜営業の店が多く、食事を 取るには困らないのですが、夜の飲食店は酒がつきもの。
 医者から酒を止められているので、酔客が盛り上がっている中で、1人で酒抜きの食事だけをとるのもわびしく次第に足が遠のいて、外に出るのはたまの打ち合わせや、渋谷で上映している映画を見る時ぐらいか――おそらく、単館上映の多い渋谷ゆえ、大半の映画を見ていると思います――大型書店で新刊をチェックするぐらい。おまけに、インターネットやメールや電話で最小限の情報や本が入手でき、打ち合わせも相手と会わずにできる場合が多いから、ますます外出せず、運動もしない。
 定期的に外出するのは、行きつけの病院に診察を受けに行く時ぐらいになってしまいました。
 担当の医者からくどいぐらい注意は受けているのですが、こんな生活、体にいいわけがない。
 分かっているのですが、長年培われた性格は、なかなか変わりません。
 朝起きて夜寝る人並な生活は、最悪の体調で病院に入院している時だけというていたらくで、そのうち医者から見放されるかもしれません。
 1人の力では完成しないアニメの脚本でも書いていれば、打ち合わせも多く、人と出会う時間帯に合せるために、人間並みの生活習慣になるのでしょうが、もうこの歳になると、僕でなければ書けないだろうやり残しの作品を片付けたい気持ちが強く――多くのみなさんが、首藤剛志という物書きは好き勝手なことを書いている作家だと思っているようですが、本人としては、アニメを見てくださる方や拙作の読者のことを少しは考えて、かなり手加減していたつもりでして、僕自身をむき出しにしなければ書けないような作品は、ほとんど、手つかず状態で残ってしまいました。
 今は、そんな作品の全部は無理でも、少しでも書きあげておきたい気持ちのほうが、自分の健康より優先しているようです。
 自分でも困ったものだと思います。
 長年、いつか書こうと思っていた作品ばかりですので、取材はほとんど終わっており、後は、資料を確認しながらまとめるだけだから、なおさら、1人仕事で仕事場に閉じこもりがちです。
 もともと、僕はハイになりやすい性格らしく、夢中になるとどんな野放図なものを書くか自分でも見当がつかず、関係者を翻弄しても申しわけないので、自重して、市販されている気持ちを弛緩させるダウナー系の薬物――早い話がお酒です。市販されている軽い精神安定剤や睡眠促進薬もその種の薬物と言えるでしょう――で、気持ちを抑える事が多かったのです。
 いささか、余談ですが、物書きや音楽関係や芸術系、たまに政治家には、ハイな性格や逆に鬱な性格な人が多いらしく、鬱系の人は、気分をハイにする薬を使う人もいるようです。いわゆる覚せい剤の類ですが、こちらは値段が高いし、人体への影響も大きく、犯罪に結びつきやすく法律で禁止されています。みんな、分かっていて注意しながら使っているはずですが、ドジな著名人がときどき見つかって警察に捕まり世間を騒がせているのはご存知のとおりです。
 しかし、その業界でいささか落ち目の人ばかり捕まるのは、なんだか片手落ちのような気もします。
 気分をハイにする薬が禁止なら、気持ちを抑えるための、値段は高くないが人体への影響はけっして低くはないダウナー系の薬物、酒や煙草や安定剤系も禁止すべきなのでしょうが、おおまかにいってイスラム圏以外では解禁されているのが現状です。
 酒を含め、この種の薬は、飲みすぎると依存症になる危険があります。酒に関して言えば、今のところ完治療法はなく、断酒して依存の進行を止めるしか手はないそうです。アルコール依存症の人にとって、酒を飲むことは緩慢な自殺とさえいわれており、事実、現実の自殺者の半分近くの方に酒が関係しているという統計があるそうです。特に、鬱と酒のつながりは強く、ただですらダウンしている気分の鬱に、ダウナー系の薬物、酒が加わるのですから、自殺に追い込まれる人が多いのもうなずける気がします。
 脚本家になる教本ほど多くはありませんが、依存症についての本もかなりの数が出版されています。
 脚本家志望の方や、脚本家を名乗り始めた方は、脚本教本や、脚本家養成学校より、依存症関係の本を勧めます。
 話が脱線しているようですが、僕はもともとハイな性格ですからほとんど感じませんが、様々な意見が飛び交う脚本家という仕事にすさまじいストレスを感じる人も多いようで、時間も普通の仕事のように規則正しくはなく自由度が高いから、知らず知らずのうちに酒に依存する脚本家も少なくないようです。
 くれぐれも、脚本を書くストレスで、やけ酒が習慣にならないようにしてください。
 今の日本の映像文化はアニメを含めて、明らかに脚本のレベルが低い。
 今、あなたが書いている脚本にストレスを感じるとしたら、それは、現在、通用している脚本より優れた脚本を書ける可能性があると言えるかもしれません。
 その可能性が酒などの薬物でつぶされるのは、とても残念なことだと思います。
 今の日本は、いたるところに脚本家がいるようで、書かれているのはほとんど似たような欠陥脚本で、実際は、ここ数十年、慢性的に脚本家不足です。
 若くて、個性的で、魅力のある脚本を書ける脚本家が常に求められている事を、自分の事として受け止めて、くれぐれも自愛の気持ちを忘れないでほしいものです。
 まあ、他の脚本家の方のことはともかくとして、僕など、手に入るアルコール依存症関係の本をほとんど持っていて、それを、酒を飲みながら読んでいるというどうしようもない状態だった過去があります。
 でも、そのおかげで、危なくなると自分で可能な時は酒を止め、どうしようもない時は自発的に病院に行きました。
 そのせいか、僕は依存症につきものの禁断症状も経験なく、アルコール依存症だとしても軽症で済んでいるようです。
 重症の方を何人も見ていますが、表現しがたいほど悲惨です。
 生きる屍状態ですからそうならないように気をつけてください。
 若いころの僕は、大酒飲みでありながら、自分なりにセーブできていたつもりで、いわば力任せにものを書いていましたが、年齢とともに日ごろの不摂生が蓄積されているのを感じ、体力の衰えを自覚するようになり、酒や市販されている薬を止めて何年も経っているのですが、そうするとハイな性格が抑えられなくなり、書き残した作品をまとめる時期だというのに、新しいアイデアが浮かぶとそれを加えることに没頭し寝食を忘れてしまいます。
 栄養失調と睡眠不良に内臓疾患が加わり、要するに病名はいろいろつけられるものの、早い話が、不摂生による自業自得。弁解のしようもありません。
 去年、2度、入院しましたが、1度目は、仕事場で動けなくなったところを家族に発見されタクシーを呼び何とか自力で病院に行きました。
 しかし、2度目は、近くのコンビニに買い物に行った帰り、突然、書きかけの作品のアイデアが浮かび、それを考え続けて周り気にせず歩いていたら、わけが分からなくなり気がつけば救急車の中、救急員の方に仕事場近くの行きつけの総合病院の名前を言った記憶はあるのですが、次の記憶はその病院の病室のベッド。家族と担当の医師が僕の顔を覗き込んでいました。
 なんでも、大きな通りの工事中の柵にぶつかって倒れたそうで、それを見かけた通りがかりのどなたかが、救急車を呼んでくださったらしい。
 全身打撲と内臓疾患で、即、入院。
 意識がはっきりして、周りを見れば重病人ばかり、病室はいわゆるナースステーションのすぐそば。すぐ、看護師の方が駆けつけられる部屋です。
 病院に運び込まれた時は、重症に見えたのでしょう。
 2日後には、歩けるようになり、様々な検査の結果もあえて入院する必要があるか微妙、それでも打撲傷の経過を見ようと言うことで、2週間、生死の間をさまよっている方達の病室のベッドで寝ていることになりました。
 本人、病院の規則正しい食事と決められた就寝時間で、かつてないほど元気になり、仕事場から資料を持ってきて浮かんできたアイデアをノートに書く毎日を過ごしていました。
 ただ、まわりの重病の方を見るにつけ、救急医療の実態を少しは知っているだけに、僕程度の病人が救急車を使い、少ないベットを占領していていいのか? 他の重病の方のために使うべきではないのかと、かなり後ろめたいというか申し訳ない気持ちに襲われたことは、確かです。
 そして、ほぼ健康体で退院。
 しかし、せっかく病院で身につけたはずの朝6時起床、夜9時消灯の健全な生活習慣も、仕事場にもどれば、たちまち崩壊。
 そして、今年になり、僕にとって代表作ともいえるいくつかのアニメの制作担当プロデューサーが突然亡くなりました。その方は僕より一歳年下でした。
 その方とは、『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の制作当時、個人的に新宿で酒を飲んだことがあり、彼が当時の会社から独立したら、『魔法のプリンセス ミンキーモモ』を超えるようなアニメを作ろうと、その構想を話し合ったものです。それだけに、それを果たせず他界されたことに呆然となり、そのお葬式にいたたまれず、途中で抜け出した帰り道、なんとかその作品を実現させたいものだと、構想を練りながら歩いていたら、いつの間にか夢中になり周りが見えなくなって、気がつけば、また救急車の中、救急隊員の方から、「財布の中身、確認してください」 「横断歩道で倒れなくてよかった。間違えば引かれてましたよ」と言われたことを覚えていて、その後は、どこかの大病院のCTスキャンで頭を調べられているシーン。次のシーンは、知らないお医者さんから、「脳に異常はありません」と言われ「1人で帰れますか?」と聞かれ、どうやら僕は「帰れます」と答えたらしく、女性の看護師さんがタクシーを呼んでくれ、病院の玄関口まで連れていってくれて、診察券を渡され、「何か異常を感じたらすぐ来てください」と丁寧に見送ってくれました。
 「すぐに来てくれ」と言われたって、どこの病院なのかも分からず、ふと診察券を見れば、目黒の病院……。どうやら、渋谷の路上で何かにぶつかって倒れ、前回同様、通りがかりのどなたかが、救急車を呼んでくださり、救急隊の方が受け入れてくれる病院を探して目黒まで運んでくださったようなのです。
 看護師さんに「診察の料金は?」と聞き、「それはまた後ほど」と言われましたが、いまだに請求書は来ていません。 
 仕事場に帰って鏡を見れば、顔中、絆創膏だらけ、眼鏡はひんまがり、何より異様なのは、喪服のまんまで、お葬式のお清めの塩などが入ったお葬式のお返しの袋を、しっかり手に持っていたことです。
 とぎれとぎれの記憶ですが、2度とも救急隊の方達のきびきびとして毅然とした対応、僕が運び込まれたふたつの病院の救急医療の対処、驚くほど見事でした。
 ただ、恥ずかしいのは、運ばれた僕が、救急医療を利用する価値のある患者だったかどうかです。
 考え事に夢中にならず、まっすぐ仕事場を目指していれば、無事に部屋までたどり着けたかも知れず、反省しきりです。
 過去、何回も入院経験のある僕は、医者や看護師の知り合いも多く、大病院の内情にも詳しい方だと思っていましたが、救急医療を体験したのは初めてで、以前以上に自分の体を大切にしようと思いました。
 救急車と救急医療を必要とする人は、大勢います。
 しかし、救急医療の現状は厳しい。
 僕ごときの、自業自得的な不摂生な人間が使ってはいけないのです。
 その後、行きつけの病院の医者の言いつけを守り、通院を続け、安静にして、どうやらコラムを再開できるまで回復しました。
 アニメに限らず、映像に関係する仕事は不規則であり、不摂生になりがちで、過酷で、一緒に仕事をした僕と同年代や僕より若い方が、ずいぶん他界されています。
 他の業界より寿命が短いのかもしれません。
 僕は、与えられた寿命を大切に丁寧に使い、たとえやり残したことがあってもできるだけのことはやり、悔いの残らないようにしたいと思っています。
 以上が、ここ2週間のコラム休載の理由です。
 現在も放映中のアニメ『ポケモン』の初期のことを書いている途中の休載だったので、『ポケモン』製作サイドから圧力のようなものがかかったのではないかという質問を受けたこともありましたが、まったくそのようなことはありません。
 むしろ、『ポケモン』アニメ初期のシリーズ構成が、どんなことを考えていたのか面白がっている方達が多いようです。
 前述のお葬式で、『ポケモン』アニメ製作のトップの1人、御前様とあだ名される方と偶然、お会いしました。
 最後にお会いしたのが、スタジオジブリのアニメの試写会で、10年ほど前のことです。
 「あれから10年以上、続いているんですね」と言いましたら、社交辞令かもしれませんが、僕の健康を気遣っている趣旨の言葉をいただきました。
 僕個人としても、初期にしろ関わった作品が続いているのはうれしいことです。
 僕が関わった作品に「まんがはじめて物語」シリーズがありますが、最初は半年の予定が、13年続き、今もどこかで再放送が繰り返され、新たな「はじめて物語」の企画も見え隠れしているそうです。
 『ポケモン』が、その記録を超えるような作品になれば、こんなうれしいことはありません。
 『魔法のプリンセス ミンキーモモ』、小説化した『ゴーショーグン』初期のアニメに関わった『銀河英雄伝説』などなど、自分の関わった作品が長生きしてくれるのは、自分自身が長生きするより楽しいことに思えます。
 思えば、このコラムもずいぶん長く続いています。
 アニメスタイルのスタッフの方達も、このコラムが長く続き僕が好き勝手に書くことを容認してくれているようです。
 さて、『ミュウツーの逆襲』で、ミュウツーの自己に対する「自分とは何か」の問いかけが、「生きているんだから、それでいいんじゃない」という意味のカスミの語る答えにいきつくまでには、クライマックスでポケモンバトルを否定する必要がありました。
 脚本決定稿の時点では、脚本に対するクレームはありませんでした。
 同時期に、『ポケモン』のピカピカ事件を収拾する問題がありましたから、アニメ製作上層部に脚本内容をうんぬんする余裕がなかったのかもしれません。
 バトル否定を気にしていたのは、誰より脚本を書いていた僕本人かもしれません。
 次回は、そのクライマックスの話から再開しようと思います。
 なお、このコラムの「です」「ます」調は、今回限りのつもりです。

   つづく


●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)

 2週も休載して、こんなお知らせをするのはどうかと思いますが、3月16日から、1ヶ月、小田原の文学館で、小田原ゆかりの文学者の生原稿を展示するイベントが開かれます。
 小田原は、昔から著名な小説家や詩人などの文学者に好かれる土地で、北原白秋や尾崎一雄、その他キラ星のように文学史に残る人々が住んでいました。
 そんな小田原ゆかりの方達の自筆原稿の展示会というわけですが、なぜかその片隅に、僕の自筆生原稿が展示されることになりました。
 僕の脚本のほとんどが小田原市立図書館に保管されていることと、比較的新しい文化であるアニメの書き手であること、他の方達が明治、大正の人ですでに他界されている事――僕は戦後生まれで、かろうじて生きています――、なにより、現代は原稿がパソコンワープロで書かれ、自筆原稿が少ないにもかかわらず、なぜか僕の原稿は原稿用紙に万年筆で書かれていたことなど、それなりの理由があるのでしょうが、ともかく原稿が展示されることになってしまいました。
 作品は「都立高校独立国」(徳間書店)という小説で、アニメつながりで言えば「アイドル天使ようこそようこ」と同時期に書かれ、同じ渋谷を舞台にした姉妹編のような作品で、渋谷にある高校の生徒が中心になって、渋谷区が日本から独立するというストーリーです。
 話は荒唐無稽ですが、かなり現実を取材して、もしかしたら渋谷区が日本から独立した国になれるかもしれないように書いたつもりです。
 後に、NHKのFMでラジオドラマ化されました。ちなみにNHKは渋谷にあります。
 ま、僕の原稿などどうでもいいようなものですが、文学に興味のある方にはおすすめです。それ以外の方には――。
 小田原は、関東でも有数な桜の名所でもあります。小田原城の桜も見ものですが、文学館のある通りは、市内でも桜並木が見事です。桜目当てに、小田原を訪ねても、決して損はしないでしょう。
 東京から新幹線で30分、新宿から小田急ロマンスカーでほぼ1時間。日帰りできますし、魚も美味い。
 海あり山あり、何でもありです。
 日本で一番、海に近いJRの駅、早川は隣の駅です。小田原漁港があります。お時間があれば、行ってみてください。
 桜の盛り、4月の4、5日の土日は、文学館は入館無料だそうです。
 面識はありますが、作品的には関わりのない『ガンダム』の富野由悠季氏は小田原の出身で、ついでにいえば、『エヴァンゲリオン』の舞台になったのも、小田原から箱根にかけてのあたりだそうです。
 小田原の図書館に僕の作品を寄贈したといえば、聞こえはいいけれど、図書館は小田原市民の税金で成り立っています。
 図書館に保管していただいているという事は、小田原市民にお世話いただいているというわけで、これは、小田原のPRも兼ねています。
 ぜひ小田原に行ってみてください。
 お土産には、干物、梅干し、かまぼこ、元祖のういろう、いろいろあります。
 くどいようですが、小田原をよろしくお願いします。  では。

   つづく
 


■第177回へ続く

(09.03.11)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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