第196回
『パンスト』と
今石作品への道(5)

 (前回からの続き)な感じで『砂ぼうず』の副監督でゴンゾに席を移してしばらくしてから今石さんより電話をもらってコンテ・演出を受ける事になったのが『天元突破グレンラガン』第6話・第7話。このへんの経緯はだーいぶ以前(第17・18回)書いたので割愛しますが、今なら、なんとなく「時効」的な空気なんで、例の6話についての話を少々。とにかく正式に制作サイドからオファーがあった時(『BLACK CAT』の作業の終わりが見えてきた頃だったか?)は本当に嬉しかったんです。それは『BLACK CAT』のコンテや原画を手伝ってくれた代わりに今度はこちらから恩返し……って見えるかもしれませんが、たとえ今石さんが『BLACK CAT』やってくれなかったとしても俺の方は『グレンラガン』やらせてもらったと思います。なにせ、あの今石監督が初めて作るTVシリーズに誘っていただけるなんで光栄な話ですから。しかも話を聞いたら別にオモチャに乗ったいい大人たちが少年少女たちを悲しい戦争に巻き込む話ではなく、俺が振られたのは温泉の話で、今石さんからは

『この醜(くも美しい世界)』の7話みたいになるといいなあ

とのご要望でした。ま、コメディを楽しく作るにはそこそこ自信があったので、そのへんは全然大丈夫なんですが、『グレン』#6のシナリオ段階で気になったのがモザイクです。今石さん曰く中島かずき様のアイデアらしいです……。「モザイクを外してほしければ、そこ(ロボ)から降りてこい!」ってのは。このネタがどれほど素晴らしいかは完成した解放版の方を観ていただければ分かるでしょう。面白いです! 自分もシナリオ読んで笑いましたから。ただ自分は言ったんです。

モザイクって大丈夫ですか?

——と。つまり、以前とある作品で原画をやった時、モザイクが話題になった事があり、その時言われたのが、TVアニメで本物のモザイクはNG! って話だったんです。例えばバラエティなんかのVTRなどで「偶然映り込んでしまった」放映できないモノに対しての応急処置がモザイクなのであって「すべて故意で作られるアニメ」でモザイクって事は、「放映できないモノをわざと作った」って事に他ならず、「ケシカラン!」って話らしいんです(ちなみにこの話題をした作品では、モザイクをわざと手描きで描いてそのショボさ自体をギャグとして扱いました)。そんな話を今石さんにしたのが「モザイクって大丈夫?」の意味でした。以下、今石さんとの会話。

今石(敬称略)「大丈夫じゃねーかなあ〜」
板垣「ホントにぃ?」
今石「少なくともシナリオ段階ではケチついてないし」
板垣「じゃ、どーせやるんなら、ガンメンから映し出されたスクリーンにのせるモザイクじゃなく、この作品……番組自体に本物のモザイクを被せたいですね! 指差すグレンの上にもモザイクがこぼれる感じで!」
今石「ははははっ(笑)! いいんじゃない〜」
板垣「(笑)思ったよりシナリオがマジメに仕上がってるけど、最終的に面白きゃなんでもいいんですよね?」
今石「(笑)まあ、任せるよ〜」

 こう言われりゃ、もう——

でした。で、ここからの板垣の大はしゃぎっぷりはこれまた解放版を観ていただければ分かるでしょう。


 上がったコンテを見た作監の柴田(由香)さんからは、

とか言われましたが、彼女の画の可愛いさのおかげで下品になり過ぎずにすんだのは事実で感謝感謝です。今石さんもどっかのインタビューで言ってましたが、柴田さんとはお互い元テレコム同士。演出・作監としてコンビが組めたのは楽しかったです。で、やっぱりこう告げられました。

 でもその時言われたのは「モザイクが直接の原因ではない」との事でした。題材的なモノらしいですが……ま、あとは想像にお任せします。ただ一言言いたいのは

あのコンテをフィルム完成まで作らせてくれるのは今石監督とガイナックスしかない! ありがとうございました!

です。たぶん他の会社(スタジオ)ではコンテ段階でストップがかかるでしょう。この時の感謝の念もあるから、ガイナックスから振られた仕事はできるだけやりたいんです。

:今回話題にした放映できるできないの基準は、本当に局、プロデューサーさん、作品内容、そして時代によってまちまちです。板垣がモザイクの話を聞いたのはもう10年近く前の話。今現在の基準ではないかもしれないという事をご了承ください。そして、会社とスタッフの名誉のために言っておきたいのは、放映前にはちゃんと(解放版のかたちで)完成していた! って事

 それにしても鶴巻(和哉)さんコンテの『パンスト』は素晴らしかったですね〜。

(10.12.09)