アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その39 最後の草月

 京橋フィルムセンターで「アニメーション映画の回顧」のプログラムを開催中の1971年1月。それと重なるように草月会館ホールで11月15日から22日にかけて「アニメーション・フェスティバル東京'71」というイベントが開催されました。
 主催は日本アニメーション協会。これは同年のノーマン・マクラレンの来日に刺激を受けたアニメーション作家たちが結成した組織で、現在活動中の日本アニメーション協会(JAA)とは同一のものではありません。手元に残っている当時のパンフレット(A4二つ折1枚、2色刷)には「〈アニメーション・フェスティバル東京'71〉は、アニメーション芸術の、自由な創造の条件を獲得するために、関係する作家、批評家、研究者によってつくられた日本アニメーション協会の主催によって開かれます」との添え書きがあります。
 当日のイベントはAプロ、Bプロに分かれ、それぞれが海外招待部門とふたつの会員部門から構成されています。上映はA1、B1、A2、B2のプログラムを交互に1日2回。昼は学校がありますので夜の部に4回通えば全プログラムが見られる仕組みです。
 フィルムセンターに通いつつ草月会館に足を運ぶ、終日アニメ漬けの心楽しくも収穫多い日々。この時期に東京で過ごせたことは本当にありがたいことでした。

 草月会館といえば、久里洋二、柳原良平、真鍋博さんらの「アニメーション三人の会」が1960年から自作のアニメーションの発表会を開いた場で、1964年の第4回からは広く他の作家たちに参加を呼びかける「アニメーション・フェスティバル」の形をとるようになりました。この最初のフェスティバルでは和田誠さんの『殺人 MURDER』や虫プロの『人魚』も上映されています(制作は共に1964年)。フェスティバルはその後、1965年、1966年、1967年(この年のイベントタイトルは「アニメーションへの招待」)と回を重ね、久里さんらの他に福島治次(ハル)、田名網敬一、朝倉摂、宇野亜喜良、島村達雄、月岡貞夫、大井文雄等々、現在も知られるアーティストの方々が名を連ね、虫プロ、学研、おとぎプロ等も作品を寄せています。草月のフェスティバルは日本のアニメーションを横断する形で歴史上に大きな意味と足跡を刻んでいるのです。そのフェスティバルの最後の回に、私はぎりぎりで間に合ったのでした。
 ちなみに「アニメーション三人の会」が活動を開始した1960年とは、世界的には国際アニメーション作家協会(ASIFA)が結成され、カンヌ映画祭からアニメーション部門が独立したアヌシー国際アニメーション・フェスティバルの第1回が開催された年です。日本の商業アニメーションで言えば東映動画の3本目の長編『西遊記』が封切られた年にあたり、いわゆるTVアニメはまだ放送されていません。

 改めて当時のパンフを見てみるとこの「アニメーション・フェスティバル東京'71」には海外招待部門にはジョージ・ダニングらの選び抜かれた短編がABプロ合わせて11本に、アヌシー受賞作品集としてトルンカの『手』、フレッド・ウォルフの『箱』等の8本、会員部門はABプロで51本(これはパンフの記載で実際の上映には若干の変更もあり)、全部で70本もの作品がリストアップされています。
 会員部門には久里氏らの他に、及川功一、岡本忠成、亀井武彦、川本喜八郎、木下蓮三、河野秋和、杉山卓、鈴木伸一、中島興、林静一、古川タク氏ら錚々たる顔ぶれが連なり、アニ同の日下部昭夫さんの『因果律第一楽章』、しあにむの伴野孝司さんの『ラヴリー・ウーマン』、この連載でもお馴染みの杉本五郎さんの『100年・2000万分の1』等の作品も上がっています。(これら3作共1971年作)。
 このフェスティバルは全く刺激的でした。珠玉の海外作品の数々はもちろんのこと、意欲に溢れ、技法も完成度も様々な会員作品の中には、今も強い印象を残す作品も多々ある一方、全く難解なものや独善的なものから、アニメーションと呼んでいいのか疑問なものまで、とにかくそこはアニメーションという名の映像のるつぼでした。月岡貞夫さんの『新・天地創造』(1970年)、鈴木伸一さんの『点』(1971年)、林静一さんの『鬼恋歌』(1971年)等、印象的な作品名を記していくだけで、それはそのままある種の日本のアニメーションの歴史になってしまうほどで、草月の果たした役割の大きさが分かります。
 このフェスティバルは名古屋、京都、大阪、静岡の各地でも順次開催されました。上映の合間に記した作品ごとの技法や短い印象のメモが一杯残ったパンフを開くと、現在の自分としていることが全く変わっていないのに苦笑しつつ、ひたすら貪欲にあらゆるアニメーションを吸収しようとしていた10代の自分、鑑賞後の夜道を駅まで歩きながら同好の友と交わした会話が、あの時の夜風と共に懐かしく甦ってくるのです。

その40へ続く

(08.09.19)