アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その25 続・アニ同群像

 田舎の女子校を出て間もない18歳の私には、コボタンに集うアニ同のメンバーは皆とても大人に見えました。その大人たちが真剣にアニメーション業界や作品や自主制作について話をしている光景はとても眩しく素晴らしいものに映ったのです。

 前回あげた他に、目上の方では、私が最初にとんでもない勘違いをするところだった日下部昭夫さん、いつもひょうひょうとした謎の人(?)藤田さん、素朴なお人柄の早川啓二さん、現役の東映動画のアニメーターで、私をこの業界に導き入れてくれた田代和男さんたちがいます。
 日下部さんからは、私が機関誌に書いた若さゆえの傍若無人な文章を注意されながら人生をも教わりましたし、藤田さんの江古田のお宅へは再々おじゃまして、皆でワイワイとガリ版刷で機関誌を作ったものです。あの時食べた江古田の牛丼屋さんより美味しい牛丼に私はまだ出会ったことがありません。早川さんは後に宮崎駿さんの『未来少年コナン』等で助手を務め、その風貌と朴訥な性格から、松本零士さんのマンガ「男おいどん」由来の「おいどん」と呼ばれて可愛がられていたと聞きます。
 田代さんは『ムーミン』のスノークそっくりなロングパーマをしていて、細身の身体に白系のズボンを合わせ、肩にカーディガンを羽織るという、実にお洒落な方でした。東映動画という環境を生かして、当時出回ってはいない『ホルス』の設定書のコピーを持ってきて見せてくれたりして皆を驚かせました。圧巻は、ヒルダがホルスと剣を交えるカットの動画一式を持ってきて見せてくれた時で、悲しみを秘めて剣を振るうヒルダの演技に、原画はもちろん、間の絵を描く動画の上手さ、重要さを皆で熱く語り合ったものです。お酒の強い方で、上映会の後で連れて行ってくれる呑み屋さんでは、初めて口にするお酒を口に含んでから飲み下す私に、お酒はノドでクッとやるという呑み方を教えてくれましたが、これは情けないことに今でも全然身についていません。
 行きつけの呑み屋さんで出てくるのは木の香りのする枡酒でした。その香りを懐かしく思い出します。皆、今はどうしているのでしょう。
 呑み屋さんに行くと、そこにはいつも、当時Aプロだった福富博さん、本多敏行さん、後に『アニメージュ』誌のレイアウト担当でお名前を見ることになる真野薫さんたちがいました。
 福富さん、本多さんは現在は見事な白髪を伸ばし、仙人然とした風貌になっていて驚きますが、お2人とも性格もお酒の呑みっぷりもとても豪快な方。演出、原画、作画監督等の役職でアニメ史に残る作品を沢山手がけています。真野さんは美貌の男性で流れるようなロングヘア、皆に「かおるちゃん」と呼び親しまれていました。

 プロのアニメスタッフが中心だった当時のアニ同では、私を含め学生は少数派で、武蔵野美大の石之(いしの)博和さん、東京デザイナー学院の北島信幸さん、小湊昇さんたちとは同じ学生ということですぐに親しくなりました。皆、後にプロのアニメーターになり、活躍していますが、小湊さんだけは近年消息(連絡先)不明ということで残念に思います。
 浦和在住の並木孝さんとは帰りの高崎線が一緒でした。お金にルーズなのは昔かららしく、学費滞納で高校を除籍になったそうで、にも関わらずずっと白い学生シャツに黒の学生ズボン、さすがに現在のトレードマークの下駄はまだ履いていませんでしたが、高校生の格好のままで奇妙に思ったものです。杉本さんがご自宅の焼け跡での並木さんとの出会いを思い返して、当時高校生だったとしているのは、この格好のせいでしょう。

 石之さんは私と同じく手塚治虫ファンで手塚ファンクラブの会員でもあり、私よりも長い東京生活から様々な場所や人を知っており、その紹介で私は、同じ手塚ファンクラブの会員で現在は手塚プロで活躍している森晴路さんや、後のアニドウにとっての因縁の人となる広瀬和好くん、全日本マンガファン連合というマンガマニアの集合体「まんがのむし」の岡田鉱治さん、青木治道さん等、アニ同以外でも様々な人と出会いました。
 彼らは熱心なマンガコレクターで古書展の常連であり、貸本屋さんを回って珍しい貸本マンガを譲渡してもらったり、どこそこの店が閉店するという情報を耳にするとめぼしい本をいち早く入手に走ったりと、とにかく活発に活動していました。
 この人たちが独自に作った都下の古書店リストという小冊子があり、私も1冊もらって貸本・古本屋さんを回ったものです。その関連で高円寺に映画専門の古書店があることを知り、しばしば通って「キネマ旬報」や「映画評論」のバックナンバーを漁りました。この時に、以前に書いた大学図書館で自作したアニメ評論掲載号のリストが大いに役立ったのです。「映画評論」では森卓也さんがほぼレギュラーで執筆されていましたので、新刊をチェックしておき、後日安くなってからバックナンバーとして買うというやり方で、「アニメーション入門」の元になった「動画映画の系譜」をはじめ、必要なものはほぼ買い揃えることができました。

その26へ続く

(08.03.07)