web animation magazine WEBアニメスタイル

 
COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第95回 ルパン三世は年をとり続けた!?

 前回『旧ルパン』を観て、ルパンが若いと思ったと書いたが、『PARTIII』では、ルパンが年をとっていると感じた。『新ルパン』を基準に考えると『旧ルパン』の彼は若く、『PARTIII』の彼は少しフケているのではないか。『PARTIII』の全編において、フケたルパンが描かれているわけではないのだが、そうと感じさせる箇所がある。
 もっと言うと、ルパンファミリーが年をとっている。ゲストキャラクターとの関係をみると分かりやすい。ルパンがゲストの女性と絡むエピソードで印象的なものは、第12話「バルタン館のとりこ」、第18話「ショータイムは死の香り」、第30話「カクテルの名は復讐(リベンジ)」だが、いずれも、大人のルパンと若い女の子という組み合わせだ(しかも、12話も30話も、ルパンは女の子に対して保護者的なポジションだ)。第26話「ニューヨークの幽霊」では、五右ェ門が若い女の子におじさまと呼ばれ、それを受けて、不二子は自分の事をおばさまと言ってしまう(不二子は冗談のつもりで言っているのだけど、冗談に聞こえないところが哀しい)。不二子に関しては、若い男性と付き合ったり、惚れられる事が多い。第34話「マンハッタン・クライシス」では、自称芸術家の若者を恋人にしており「また若い男を手玉にとってんのか」とルパンに言われた。『旧ルパン』の頃の不二子なら「若い男を手玉に」なんて、絶対に言われないはずだ。
 トドメが、第44話「ボクたちのパパは泥棒」。これは僕が好きな話でもある。とある街でルパン、次元、五右ェ門のところに、彼らを父親と呼ぶ子どもが現れる。つまり、ルパン、次元、五右ェ門が過去に関係した女性が子どもを産み、その子が転がり込んできたわけだ。身に覚えのあるルパンは、彼らの存在を否定できない。女性に対して堅い次元や、超堅物の五右ェ門まで、指折り数えて、その子が本当に自分の子どもなのか考えるところが、無闇におかしい。劇中では描かれていないが、彼らもやる事はやっているわけだ。ルパン達の私生活の、生臭い面が垣間見えたエピソードだ。
 最初に隠し子が発覚したのはルパンで、その時の次元のハシャギっぷりが凄い。「きたー! きたきたきたきた、ついにきました。ルパンさーん!」と大喜び。俺はいつかこんな日がくると思っていたんだよ、というわけだ。長い事、独身貴族を気取って遊んできたけれど、ツケが回ったきた。彼らが長年遊んできたからこそ成立する話である。少なくとも、脚本の狙いとしては、この話の彼らは20代ではない。
 そういった個々の描写を別にして、『PARTIII』のルパンは、立ち居振る舞いも少し落ち着いている印象だ。ただし、これは単純に年齢の問題だけでなく、ややハードな方向を狙ったシリーズコンセプトのためでもあるだろう。不二子がフケた印象になっているのは、キャラデザインのためでもある。また、ルパンと五右ェ門が若い女の子と絡む事に関しては、『カリオストロの城』の影響もあるはずだ(特に第12話はそれが濃厚)。『カリ城』はルパン達の年齢を、意識的に上げた作品だった。

 『旧ルパン』以降のキャラクターの変化を振り返ってみると、五右ェ門は『新ルパン』が始まったところで若くなっているし、次元と銭形は変化が少ないので、全てのキャラクターがそうだとは言えないのだが、大づかみな印象で言えば『旧ルパン』から『新ルパン』、『新ルパン』から『PARTIII』と、キャラクターが年をとっている印象だ。変化は、やはりルパン自身が大きい。
 『旧ルパン』のルパンは、まだ若者。腕は確かだが、経験はまだ足りない。ギラギラしたところがあって、それが魅力でもある。『新ルパン』の彼はすでに修羅場を山ほど乗り越えており、自分に対して自信満々。体力も気力もたっぷりある。やたらとおどけた言動が多いのは余裕の現れか。『新ルパン』から『PARTIII』への変化は少ないが、ちょっと落ち着いてきた感じ。いつまでもおどけてばかりもいられない。
 これはあくまで僕の印象だが『旧ルパン』では20代半ば、『新ルパン』では30代、『PARTIII』では40に手が届くくらいか。ちゃんと作品の制作時期と符合している。ただ、作り手が意識して年をとらせたわけではないだろう。長年に渡って、エピソードを重ねていく中で、自然に年齢が上がっていたのだろうと思う。勿論、キャストからのフィードバックもあったはずだ。10年以上も続く作品だと、キャラクターは年をとらないのが当たり前だ。それを考えると、ルパン達が年齢を重ねているという事実は、実に面白い。キャラクターが生きたものであった証だろう。

 キャストを一新した『風魔一族の陰謀』を外して考えると、ルパン達の年齢の積み重ねは、『PARTIII』の次に作られた、TVスペシャル第1弾『バイバイ・リバティー危機一髪!』まで続いている。『バイバイ・リバティー』は冒頭のルパンのくたびれ方と、ルパン一家がコンピュータ化されていく社会の変化についていけない感じに、僕は少しがっかりしたのだけど、『PARTIII』までの流れを考えれば、それは自然な成り行きだったわけだ。1作1作を検証したわけではないが、TVスペシャル第2弾以降はその流れがリセットされているような気がする。

 

■第96回に続く

●関連記事
【情報局】マニアのためのDVDチェック(11)
昭和の山田康雄『ルパン』を全収録!



(07.06.15)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.