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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第80回 『うる星』と『かぼちゃ』と『一休さん』

 テレビ朝日で『The・かぼちゃワイン』の放映が開始された前年、1981年にフジテレビでは『うる星やつら』が始まっていた。『かぼちゃワイン』も『うる星』も、主人公を演じているのは古川登志夫。当時、月曜夜には『かぼちゃワイン』で春助が「男一匹、青葉春助! 女なんかと一緒に帰れるか!」と強がり、水曜夜には『うる星』で諸星あたるが「ちょっと、そこのお姉さ〜ん!」と美女達を追いかけていたわけだ。しかも、春助もあたるもガクラン姿。なんとなく両者とも、もう一方のパロディみたいだ。というのは、僕の先輩ライターの名言。
 『かぼちゃワイン』のサンプルビデオを観返していて、残念だったのは、その楽しさを分かち合える人がいない事だった。「うわあ〜、面白い」とか「うわあ〜、やり過ぎだ〜」と盛り上がって、その事を誰かと語り合いたいと思っても、周囲に『かぼちゃワイン』好きが1人もいなかったのだ。ああ、悔しい。誰かと『かぼちゃワイン』の話をしたい。遂に我慢できなくなって、先日のアニメ様のイベントで、皆に『かぼちゃワイン』お色気名場面集を、無理矢理観せてしまったのである。上映許可をくださったメーカーさん、東映アニメーションさんに感謝。だけど、やっぱりお客さんも、他のゲストもあまり『かぼちゃワイン』を知らなかった。あの編集ビデオで、1人でも『かぼちゃワイン』に興味を持ってくれればいいなあ。

 『かぼちゃワイン』は本放送当時にも、アニメファンには人気がいまひとつだった。勿論、このタイトルが好きなアニメファンも大勢いたのだろうけど、いわゆる人気アニメと肩を並べるようなタイプの作品ではなかった。当時の「アニメージュ」のアニメグランプリの結果を見ても、順位は低い。本放送時の視聴率は、20%を越えた事もあるそうだから人気番組だったのだろう。視聴率が高くて、アニメファンの人気がいまひとつなのは、なぜなのか。考えられる理由のひとつは、ティーン向けではなく、ファミリー向けの番組だったという事だ。
 前述の『うる星やつら』と比べてみると分かりやすい。『うる星』はノリがよく、勢いがある。『かぼちゃワイン』はホンワカしていて、安心して観ていられる。自分自身の記憶をたどっても、毎週、この番組を楽しんでいたけれど、自分達のための作品、つまり、ティーン向けに特化した作品という印象はなかった。
 『かぼちゃワイン』がファミリー向けの作品になったのは、テレビ朝日が教育番組専門局として設立されたTV局である事や、老舗のプロダクションである東映動画のカラーも影響している。テレビ朝日の成り立ちは、僕らの予想以上に個々の作品の傾向と関係していたらしい。同じ原作をフジテレビの放送、他のプロダクションの制作でアニメ化していたら、もっと若者向けの内容になっていただろう。
 これは僕の推測だが、フジテレビが先行して、少年マンガ原作の『Dr.スランプ アラレちゃん』『うる星やつら』でヒットを飛ばし、その後も、同傾向の企画を続けていくのに対抗するかたちで、テレビ朝日が立てた企画が『かぼちゃワイン』だったのではないか。以降も、テレビ朝日と東映動画のコンビは『愛してナイト』『夢戦士ウイングマン』と、ティーン向けが半分、ファミリー向けが半分の作品を続けて発表する。原作が特撮ドラマ風アクションであった『ウイングマン』が、アニメではラブコメ色が強くなっていたのは、『かぼちゃワイン』の成功を受けたものだったと考えるのは穿ちすぎではないはずだ。

 『かぼちゃワイン』の前番組は、足かけ8年も続いた長寿番組『一休さん』だった。東映動画側のプロデューサー、チーフディレクター、総作画監督は『一休さん』から引き続きの参加だ。チーフディレクターは『長靴をはいた猫』を手がけたベテランの矢吹公郎。考えてみれば『長猫』を手がけた監督が、お色気アニメを手がけている事がびっくりだ。『かぼちゃワイン』をファミリー向けに仕上げているのはプロデュースサイドの意図でもあるのだが、矢吹さんや、脚本の雪室さんのカラーも強い。雪室さんの仕事としては、ひたすら照れくさいドラマをやっていくという点では、後に彼が手がける『あずきちゃん』、各エピソードのつかみの上手さについては『キテレツ大百科』『サザエさん』に通じるものがある。特につかみの上手さについては感心するばかりだ。『一休さん』や『キテレツ大百科』に通じる平和な世界で、お色気ドラマをやっているのが『かぼちゃワイン』の面白さだ。

 『かぼちゃワイン』は“大人目線”のラブコメであるとも言えるのではないだろうか。“エッチ”ではなく“お色気”であるというところが、すでに大人向けだ。春助とエルのラブラブぶりを楽しむというところも、どちらかと言うと若者向けではない。ティーン向けのラブコメというのは異性への憧れや、カップルになるまでのドキドキを描くものなのだろうけど、『かぼちゃワイン』はそのあたりはまるで描いていない。前々回にも書いたように、春助とエルの関係は1話からですでに出来上がっているのだ。
 情熱的で奔放。しかも、素直で献身的なエルは、理想の女性像のひとつだろう。ただ、これもどちらかと言えば、大人の男性にとっての理想であるような気がする。若い男の子だと、あそこまでベタベタしてくる女の子は、たとえ妄想の中でも、持てあますかもしれない。かくいう僕も、当時はピンとこなかった。むしろ、今の方がクるものがあるなあ。大抵の色っぽいシチュエーションは、「あは※」とか「ウフ※」(←※はハートマーク)の一言で、喜んで受け止めてしまうエルちゃんのキャラクターは、インパクト抜群。勿論、横沢啓子さんの芝居も素晴らしい。

 僕は本放送当時よりも、今の方がずっと『かぼちゃワイン』を楽しめた。今の若い人が観たら、どんな感想を持つのかも気になるのだが、DVD-BOXは高額商品なので、買って観てほしいと言えないのが辛いところだ。まだまだ話したい事もあるけれど、今回はこれくらいで。


[DVD情報]
「The・かぼちゃワイン DVD-BOX1」
XT-2330-7 /カラー/約1200分(48話収録)/8枚組/ドルビー・デジタル(モノラル)/片面2層/スタンダード
価格:37485円(税込み)
封入特典:16頁ブックレット
発売日:2006年9月27日(「DVD-BOX2」11月29日発売予定)
発売元:東映アニメーション・コロムビアミュージックエンタテインメント
販売元:コロムビアミュージックエンタテインメント
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■第81回に続く


(06.11.06)

 
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