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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第20回 『ギャートルズ』四方山話(3)
監督もいなければ、キャラクター設定もない

 先日、『ギャートルズ』DVD-BOXが発売された。すでに手に入れた方もいるだろう。このDVD-BOXの解説書では、主題歌のムッシュかまやつ、ゴン役の丸山裕子、とうちゃん役の肝付兼太、演出の岡部英二、福富博、作画監督・キャラクターデザインの香西隆男、美術監督の小林七郎、そして、園山俊二の奥様といった方々への取材記事を掲載している。記事にはしなかったが、他の演出の方や文芸担当の方にも、事実確認の取材をさせていただいた。
 取材を始める前にちょっと悩んだのが、この作品の監督は誰か? という事だった。OPにもEDにも監督やCDのクレジットはない(そもそも『ギャートルズ』のOPは異様にクレジットが少ない。原作、連載、制作しか表示されないのだ)。
 東京ムービーには、他にも監督やCDがクレジットされない作品があるが、その多くは、演出の役職で同じスタッフが毎週クレジットされており、その人物が作品をまとめている。『ルパン三世[旧]』『ど根性ガエル』『侍ジャイアンツ』などがそうだ。
 『ギャートルズ』の後に作られた『元祖天才バカボン』も監督やCDはいないが、『元祖』は比較的原作に忠実だったし、おそらくはオープニングの演出を担当した出崎統が、イメージリーダーだったのだろうと推測できる。それに比べると『ギャートルズ』は、原作マンガからの飛躍が大きい。映像化に関して、誰かがリーダーシップをとっていたのではないかと思っていた。

 『ギャートルズ』のOPとEDの演出も、実は出崎さんが担当している。別件で出崎さんに会った時に、『ギャートルズ』の監督が誰だったのか聞いてみたのだが、記憶にないとおっしゃっていた。仕方がない、さしあたって取材を始めてしまおう。取材を進めるうちに監督が誰なのか分かるだろう。その結果は至ってシンプルなものだった。『ギャートルズ』に監督はいなかった。それは取材したスタッフ全員の証言が一致していた。東京ムービーの社員演出家だった岡部英二が、作品を成立させるために動く事はあったようだが、彼もCDとして作品をまとめたわけではない。
 取材したスタッフの方は、皆が口を揃えて「自由にやれた作品だった」と言っていた。TV局も、プロデューサーも、現場に任せていて、作品の内容についてとやかく言う事はなかったそうだ。福富さんに至っては「プロデューサーにコンテチェックをされた記憶がない」とまでおっしゃっていた。ひゃあ、それはすごい。監督がいないのなら、プロデューサー主導で作られたのだろうと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。

 解説書の編集を進めていった中で、もうひとつ驚いた事がある。キャラクター設定についてである。トムス・エンタテインメントに当時の作画資料がいくつか残っていた。「ギャートルズ 作画上の注意」というタイトルの資料には、開口一番、大変な事が書かれていた。「この作品は従来のやり方とはちがって、特にテレビ用のキャラクターは作りません。基本的に原作のキャラクターをそのまま使用します」である。その後にも大胆な文章が続き、原作を模写したキャラクターが何頁にも渡って掲載されている。これは制作初期に香西隆男によって描かれたものだった。ひょっとしたら、企画段階に描かれたものかもしれない。
 実際には作画するために、アニメ版のキャラクター設定が必要になったのだろう。制作中に、三面図などのキャラクター設定は作られた。とはいえ、途中で作られた設定の数は決して多くはない。取材で香西さんにうかがったところ、やはり原作の味を活かした自由奔放なアニメにしたいと考えて、そういったスタンスをとったのだそうだ。詳しくは、解説書をお読みになっていただきたい。一部だが、その「ギャートルズ 作画上の注意」も解説書に掲載した。
 奥様にうかがったアニメ化の企画成立の逸話や、ムッシュかまやつが語った主題歌誕生の秘話も、大らかなものだった。大らかでダイナミックなアニメは、その作られ方も、大らかでダイナミックだったのだ。なるほど、監督なしで作られたのも『ギャートルズ』らしいかもしれない。腕に覚えあるスタッフが、それぞれ自分の判断で「えいや!」と仕事をしたら、こんな作品ができました。それはそれで気持ちいい話じゃないか。そう思いながら編集作業を進めた。ここで終わると、このコラムもきれいにまとまる。だけど、世の中はそんなに甘くない。

 解説書の編集作業の終盤にさしかかった頃、改めて、前々回にも触れた山崎敬之さんの「テレビアニメ魂」(講談社現代新書)を読み返してみた。『ギャートルズ』の企画について書かれた箇所だ。アニメ化についての相談をするため、山崎さんが園山俊二の仕事場を訪れた時に、演出をやる長浜監督も一緒だったと書かれている。え! そうなの!? そこは前に目を通した時に、読み落としていた。長浜監督とは、勿論、『巨人の星』や『ど根性ガエル』の故・長浜忠夫である。長浜さんは『ギャートルズ』の実際の制作には関わってはいない。企画段階では長浜さんが監督をやる予定だったのか?
 さらに解説すると、『ギャートルズ』の放映開始直前に、長浜さんが監督を務めていた(前述のようにクレジット上では「演出」)『ど根性ガエル』と『侍ジャイアンツ』が終了。それを期に彼は東京ムービーから離れている。そして、1年後に『勇者ライディーン』シリーズ後半で監督を務めるまで、映像制作会社を設立してCMを作っていた。『ギャートルズ』は長浜さんがアニメ界から離れていた時期の作品なのだ。
 もしも、長浜さんがアニメ界に留まっていれば、『ギャートルズ』の監督をやっていたかもしれない。『ど根性ガエル』の後番組だったのだから、彼が監督をやるのは自然な流れだろう。今回の取材では長浜さんの名前は出なかったが、実は、アニメ化にあたってどのように原作をアレンジするか、というプランは企画段階で長浜さんが立てたのかもしれない。その後、彼が東京ムービーから離れてしまったために、監督不在で作品を作る事になったのかもしれない。ああ、またひとつ謎が生まれてしまった。
 
(2005/08/29)

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■第21回へ続く

(05.07.28)

 
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