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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第9回 悲劇のブラックオックス(『新・鉄人』あれこれ[3])

 前回の更新の後で『新・鉄人』関係者の方からメールをいただいた。それによれば、シリーズ後半のエンディングで鉄人が空に向かって上昇していくカットは、亀垣さんの原画だそうだ。それと、いつもメカ修正は本橋秀之、亀垣一と2人がクレジットされていたが、奇数話が亀垣さんで、偶数話が本橋さんの担当だったのだそうだ。情報感謝です!

 さて、今回はブラックオックスについて。それと最終回について少し触れる。
 『新・鉄人』のオックスは、傑作キャラクターだ。まず、ルックスが素晴らしい。原作に比べれば、ずっとディテールが細かくなっているが、なめらかな曲線がポイントに使われた、まるで彫刻のような外見である。直線を中心にデザインされている鉄人と対照的で、その見た目は優雅ですらある。しかも力強い。36話等で使われているガッツポーズのカットなんて、惚れ惚れするくらいだ。鉄人と対照的なのは外見だけではない。鉄人は心を持っておらず、Vコンが敵の手に渡れば、悪の手先となってしまう。それに対して、オックスは人間と同じ心をもっているのだ。それゆえにオックスはドラマを背負う事になった。

 オックスが初登場するのは34話「最大の敵!ブラックオックス」だが、そのひとつ前の33話「破壊された鉄人!」から始めよう。これはちょっとした問題作である。またもや、鉄人が敵の手に落ちてしまう。今回の敵組織は紅トカゲ団。鉄人は彼等に操られて世界各地で暴れ回り、そのため国連で鉄人を破壊処分する事が決定する。驚いた事に、紅トカゲ団は鉄人の破壊が決まった途端に、鉄人を正太郎に返してきた。正太郎達の手で鉄人を破壊させようというのだ。
 全身に爆薬をつけられ、破壊される鉄人。泣き叫ぶ正太郎。そして、目障りな鉄人がいなくなったと思った紅トカゲ団は、自前のロボットを暴れさせるのだった。敷島と大塚警部は悲しみにくれる正太郎に対して、今こそ鉄人を出動させて敵ロボットを倒せと言う。破壊されたのは、敵を欺くために敷島が作った偽物の鉄人だったのだ。正太郎にそれを言わなかったのは「敵を騙すには、まず味方から」という例のアレである。
 まあ、ここまではよくある話。問題はその後だ。正太郎は鉄人を発進させる事を拒む。その場の都合で鉄人を壊そうとしたり、救ってくれと言ったりする人間はあまりにも身勝手だ。鉄人が可哀想です。それに対して敷島博士は、とんでもない事を言う。

 「冷たい言い方かもしれんが、鉄人はなんとも思わんよ。そう思うのは正太郎君、君自身だ。君の心が傷つけられたから、そう思うんだ。違うかね」

 冷たい言い方どころの騒ぎではない。アニメ史上空前の、身も蓋もない台詞だ。いくら理性的な博士だからって、涙を流してる子供に、そんな事を言わなくてもいいだろう。テーマ的にはラストにおける正太郎のセリフの方が大事なのだが、インパクトとしてはこちらの方がずっと上だ。その後、敷島夫人やマッキーのフォローもあり、正太郎は鉄人を発進させる。そして、紅トカゲ団のロボットを撃破。戦いが終わった後、大塚警部が国連で演説をぶつ。鉄人には心がない。だからこそ、それを扱う人間は注意が必要なのだ。その様子を正太郎達はTV中継で観ていた。これで納得したかと敷島博士に聞かれて、正太郎は答える。「ええ、鉄人もきっと喜んでくれると思います。……感情があれば」。その言葉を口にする正太郎の表情は硬い。誰もいない格納庫に立つ鉄人の姿で、このエピソードは幕を下ろす。
 「破壊された鉄人!」は鉄人の本質に関わる話であり、シリーズ全体に疑問を投げかけるものである。ウルトラシリーズで言えば、ノンマルトやムルチにあたる話だ、というのは言いすぎか。以下に書くように、僕はこの話で提示された事が最終回までの裏テーマになっていると思う。33話の「感情があれば」のセリフを受けて、続く、34話「最大の敵!ブラックオックス」で心を持ったブラックオックスが登場する。なんとも格好いいシリーズ構成だ。
 「最大の敵!ブラックオックス」は、まだら岩の上空でジャンボ輸送機が行方不明になる事件から始まる。世界征服を企むX団のヘンケルは、かねてより心を持ったロボットの研究をしていた不乱拳博士に最強のロボットを作らせた。それがブラックオックスだ。輸送機の行方不明は、オックスに搭載する電磁光線の実験のために起きた事だったのだ。その事件を捜査するために現地に駆けつけた正太郎と鉄人は、オックスと戦う事となる。だが、まだオックスは未完成であった。不乱拳博士からの頭脳コピーが途中であったため、3歳児程度の頭脳しか持っていないのだ。不乱拳は2体の戦闘を止めさせ、もうヘンケンには協力しないと言い、そのため、ヘンケルの銃弾に倒れる。鉄人とオックスは、ヘンケンが乗ったロボットを撃破するが、不乱拳は「ブラックオックスを頼む」と敷島に言い残し、帰らぬ人となってしまう。生みの親の死を目の当たりにして、ブラックオックスは泣く。降り出した雨が、ブラックオックスの顔にあたり、まるで涙を流しているようだ。
 心を持たぬ鉄人は、怒る事も悲しむ事もない。だが、オックスは心を持ったために、悲しみを知ってしまった。心を持つゆえの悲劇。それがオックスのドラマだ。

 オックスが登場するエピソードは、以下の6話のみ。鉄人あるいは、オックスが敵に回る話が多い。

34話 最大の敵!ブラックオックス
35話 鉄人をとりもどせ!
36話 宿命の対決!鉄人対オックス
47話 鉄人売ります!
48話 地球最大のピンチ!
49話 さらば!ブラックオックス

 35話から、オックスはロボット博物館に引き取られる事になった。本物の巨大ロボットがいるロボット博物館のイメージは、劇場作品『UFOロボ グレンダイザー対グレートマジンガー』からの流用だろう。ロボットアニメファンならニヤリとするところだ。『グレン対グレート』では、正義のために戦う任務から外れたマジンガーZやグレートマジンガーが、ロボット博物館に展示されていたのだ。この映画も35話も、脚本は藤川桂介だ。
 その35話「鉄人をとりもどせ!」では、鉄人が宇宙魔王の手下のスパーク将軍の手に落ちる。それを救い出すためにオックスが出撃。前回も紹介した36話「宿命の対決!鉄人対オックス」では、オックスがX団のガンガルに騙されて敵に回ってしまい、鉄人と戦う事になる。ガンガルは不乱拳に化けて、オックスに指令を出していたのだ。正太郎達は一計を案じ、不乱拳が偽物である事を暴く。やはり不乱拳が死んでいた事を知ったオックスは、再び天を仰いで泣くのだった。だが、今のオックスはもう独りではない。鉄人とのコンビでX団の海底基地を破壊。そして、ロボット博物館に戻ったオックスを、子供達が喜んで迎えてくれた。「さみしくなったら、あたしが来てあげるからね」というマッキーの言葉も嬉しい。34話から36話で「オックス編」第1部は完結。この3話はまとめて観ても面白い。

 宇宙魔王との決戦を前にしたシリーズ終盤に、再びオックスは登場する。47話「鉄人売ります!」では、ドロンボ党総裁のドロンボ(いくらなんでも愉快すぎるネーミングだ)によって正太郎と鉄人が操られ、彼らを助け出すためにオックスが発進。48話「地球最大のピンチ!」では強敵スペースロボとグーラ王子に、鉄人&オックスの地球最強タッグが戦いを挑む。
 そして、運命の49話「さらば!ブラックオックス」。オックスは催眠装置をつけられて、宇宙魔王の息子であるグーラ王子の言いなりになってしまう。オックスとスペースロボを相手に苦戦した鉄人は、背中のロケットの片方と片腕を失う。正太郎は戦いの中、オックスにつけられた催眠装置を壊し、彼を正常に戻す。鉄人を傷つけた自責の念にかられたオックスは、単身、グーラの要塞都市に突入し、それを破壊する。だが、グーラは要塞を自爆させ、オックスはそれに巻き込まれる。光の中へと消えていくオックス。
 その後に、オックスの仮面、つまり顔面のパーツが空より落下し、地面に突き刺さる。このカットが衝撃だった。遠くに黒い破片が飛んで来るのが見えて、あれは何だろうと思うと、巨大な顔面がドシンと地面に突き刺さるのだ。カメラワークも凝っている。当時のアニメ誌の記事によれば、メカ修正の亀垣一が何度も念入りに修正したカットだそうだ。
 映像的なインパクトもさる事ながら、オックスのドラマを象徴しているカットでもある。このカットについては、いくつか解釈ができる。たとえば、顔をというオックスのボディの中でも、最も人間的な部分。それがロボットの1パーツとして単体で提示する事で、人間の心を持っていても、やはり機械に過ぎなかったという悲しみが表現されているのかもしれない。いずれにしろ、あまりにも印象的なカットであり、この1カットで、オックスが名キャラクターになったと言ってもよいくらいだ。鉄人を傷つけた事を後悔しなければ、オックスは死なずにすんだのかもしれない。彼の最後もまた、心を持ったゆえの悲劇だった。

 オックスと別に『新・鉄人』には、宇宙魔王の手下にロビーというロボットがいる。人間サイズのロボットで、戦闘力はほとんどないと思われるが、知能は人間と同等、あるいはそれ以上だ。彼は自分の星を宇宙魔王に滅ぼされており、その仇をとるために、宇宙魔王に服従するふりをしていたのだ。最終回、宇宙魔王が倒れた後、ロビーはただ独り宇宙の彼方へと消えていく。
 心を持ったオックスもロビーも、悲劇的な最後を遂げた。ならば、心を持たぬ鉄人にはどんなラストが待っていたのか。50話「グーラ王子死す!」から舞台は宇宙に移り、最終回「銀河の王者!鉄人28号」が宇宙魔王との最終決戦だ。設定的な説明は省くが、そのラストで正太郎は地球を救うため、鉄人のエネルギーを全開させて、ブラックホールの核である暗黒太陽に突っ込ませる。勿論、断腸の思いで。地球は救われ、そして、粉々に砕けたかと思われた鉄人は奇跡の生還を遂げる。鉄人が復活した理由は、劇中では語られていない。テーマ的に言えば、正太郎が鉄人を自分にとって大事な存在だと思っていたから奇跡が起きた、という事になる。鉄人復活直前の大塚警部とのやりとりで、正太郎が、鉄人を単なる機械とは思っていない事が描写されている。
 心を持つロボットと持たぬロボット、それが『新・鉄人』のテーマであったとしよう。僕は、本放送の時にはそこまでは考えなかったが、数年後にビデオで観返した時は、そのつもりで観た。鉄人は心を持たない。だが、正太郎との関係によって、ただの機械ではなくなっている。だからこそ奇跡が起きた。分かりやすいとは言えないが、子供向けのロボットアニメとしては十分な結論だ。あえて鉄人の復活を台詞で説明しなかったのも、悪くはない。
 ただ、作品としての満足度となると話が別だ。これは子供番組としての価値がどうかという話ではなく、アニメファンである僕にとっての問題だ。最終回も作画は充実しているし、盛り上がりもする。だけど、何かが足りない。「さらば!ブラックオックス」のラストはあまりに鮮烈であり、最終回で提示されたものはそれに及ばなかった。そのために最終回を物足りなく感じてしまう。テーマ&ドラマでもう一押しあれば。今でも最終回を観ると「惜しい!」と思う。
 

■第10回へ続く

(05.03.30)

 
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