アニメ様365日[小黒祐一郎]

第490回 「若手アニメーター育成プロジェクト PROJECT A」

 突然ではあるけれど「アニメ様365日」を再開する。仕事が落ち着いたところで再開しようかと思っていたのだけれど、いつまで経っても落ち着きそうもない。このままだと連載が自然消滅してしまうし、書かないでいると、また原稿を書くのが遅くなってしまう。
 ではあるけれど、他の仕事の合間に書くので、毎日更新というわけにはいかない。思いついたように、時々更新するようなかたちになると思う。連載は1988年の話題の途中で停まっているのだけれど、しばらく別の話題について書いてから、1988年の話題に戻りたい。

 さて、本題。

 先週、新宿バルト9で「若手アニメーター育成プロジェクト PROJECT A」を鑑賞してきた。若手アニメーターの育成を目的にとしたプロジェクトで作られた作品が、劇場で公開されたのだ。若手アニメーター育成プロジェクトについて、詳しくは公式サイトをご覧になっていただきたい。このプロジェクトで制作されたのは『キズナ 一撃』『おぢいさんのランプ』『万能野菜 ニンニンマン』『「たんすわらし。」』の4本だ。
 観るまでは、学生の卒業制作くらいのものだろうと思っていたのだけれど、それはとんでない勘違いだった。いずれも力の入った作品だった。凝ったつくりになっているし、監督や制作会社のカラーが色濃く出ていた。これが一番意外だったのだが、出演声優も非常に豪華だった。
 若手アニメーター育成に、どのような成果が上がったかについては、作品を外から観ただけではわからない。充実した作品に仕上がっているのは間違いないし、若手は勉強になっただろう。立派な作品に参加したことで、やりがいも感じただろうと思う。育成の成果についてはおいておいて、この原稿では、主に作品としての印象について記しておきたい。

 『キズナ 一撃』は監督・脚本が本郷みつる、作画監督が末吉裕一郎。アニメーション制作はアセンション。格闘一家を主人公にしたアクションギャグアニメで、本郷監督らしい安定した仕上がり。人を喰ったようなお話も楽しいし、普段は男の子みたいな格好の主人公が、学校行くときだけ女の子の姿になるという意外な萌えポイントもある。キャラクターと作画は『クレヨンしんちゃん』系列というか、シンエイ動画系列のもの。これは主要スタッフと制作プロダクションの出自を考えれば、当然の事だろう。
 おじいさんが語る法螺話を、学園もの、ロボットものなど、様々なスタイルのアニメーションで見せるパートが挿入されるのだが、ここはそれぞれ、若手アニメーターがキャラクターデザイン込みで作画を担当したのだそうだ。最大の見どころである人物アクションも、中堅アニメーターが描いていると思いきや、若手もたっぷり作画していると聞いた。作画マニア的にもチェックしたい1本だ。

 『おぢいさんのランプ』は児童文学を原作にした作品だ。監督が滝口禎一、キャラクターデザイン・作画監督が高須美野子。アニメーション制作はテレコム・アニメーションフィルム。また、演技スーパーバイズの役職で友永和秀がクレジットされていた。時代は明治だろうか。街でランプの存在を知った少年が、村々でランプを売るようになり、それで成功するが、やがて電灯の時代が訪れ……といった内容。
 とにかく芝居に力が入っている。手間のかかる日常芝居を、きちんと段取りを踏んで作画している。同時に動きに新しさもある。テレコムの芝居に対する考え方に、今風のセンスを加えた作画なのだろう。これも作画マニア的にチェックしたい作品。声優に関しては、主人公の巳之助を演じた神谷浩史が出色。彼の代表作になるのではないかと思ったくらいだ。

 『万能野菜 ニンニンマン』は、小学生の女の子を主人公にしたファンタジー。監督・キャラクターデザインが吉原正行で、作画監督が川面恒介。アニメーション制作はP.A.WORKSだ。内容については、説明不足なところもあるが、元々が若手アニメーター育成を目的とした作品なのだから、そういった粗さに対して突っ込むのはヤボというものだろう。
 マンガチックなキャラクターとリアルな画面構成の取り合わせがチグハグだと指摘できなくもないが、むしろ、凝った画面構成が見どころだと受け止めたい。そこに監督のやる気がほとばしっているように感じられて、僕はニコニコしながら観た。商業的に成功する必要のない企画なのだから、このくらい冒険しても構わないだろう。吉原正行の監督作品をもっと観たいと思った。

 一番の収穫は、4本目の『「たんすわらし。」』だった。それについては次回で。

第491回へつづく

(11.03.17)