アニメ様365日[小黒祐一郎]

第440回 賑やかだった1988年

 前回の原稿で、1987年のOVAについて書き忘れていた事があった。自分の事ばかり書いてしまったけれど、この頃、多くの年長のアニメファンがOVAに追いかけていた。当時のTVアニメは薄口の作品が多く、OVAでは趣味性の強い作品が発表されていた。そんな状況だった。少なくとも、ちょっとコアなファンにとって、TVアニメよりも、OVAの方が嗜好にマッチしていた。OVA初期の期待感はなくなってはいたけれど、様々なタイプの作品が発表されており、まだ可能性が感じられた。だから、「ひょっとしたら、今後はOVAがアニメファンにとって主流になっていくんじゃないか」という気分もあったと思う。今の若いアニメファンにはピンとこない話かもしれないが、そんな時期があった。

 さて、以下が本題。1988年の話題だ。この年は賑やかな年だった印象がある。アニメ界も、自分自身の周囲も賑やかだった。まず、1988年は劇場アニメの当たり年だった。宮崎駿が『となりのトトロ』を、高畑勲が『火垂るの墓』を、富野由悠季が『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を発表する。それぞれが彼らの代表作となった傑作であり、この3作が並んだだけでも豊作だ。そして、大友克洋が話題作にして大作の『AKIRA』を手がけた。若手監督としては、山内重保が『聖闘士星矢 神々の熱き闘い』と『同 深紅の少年伝説』を監督。『神々の熱き闘い』は彼にとって、初めての監督作品であるが、これが実に素晴らしい仕上がりだった。望月智充は『めぞん一刻 完結編』と『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』の2本だ。『あの日にかえりたい』は、『オレンジ☆ロード』ファンにとってはとんでもない異色作。望月智充のカラーが最も色濃くでた作品かもしれない。大満足の1年間だった。

 TV作品に関しては、この年もアニメファン向けのタイトルが多いとはいえない状況だったが、数本の人気作はあった。『超音戦士 ボーグマン』『鎧伝 サムライトルーパー』『魔神英雄伝 ワタル』といったタイトルだ。1990年前後から、再びアニメファン向けの作品がTVで盛り上がるのだが、それまではもう少しだけ時間がかかる。今になって思えば『ボーグマン』や『ワタル』は、その後の盛り上がりを予感させるタイトルだったかもしれない。
 OVAでは、ビッグタイトル『PATLABOR MOBILE POLICE』がスタート。人気クリエイターが集結したプロジェクトチーム、ヘッドギアの作品であり、また、低価格シリーズという新しいOVAのスタイルも話題となった。『王立宇宙軍』のGAINAXは、『トップをねらえ!』を発表。これも伝説的な作品となる。海外との合作が続いていた出崎統が、『エースをねらえ!2』で国内作品に復帰したのも、ファンには嬉しい出来事だった。

 自分の事で言えば、この年も色々な仕事をやっている。アニメージュの記事も沢山こなしていたし、ビデオパッケージの解説書もやったはずだ。TVアニメの脚本を初めて書かせてもらったのも、1988年。この連載で、これまでに何度かタイトルが出ている書籍「TVアニメ25年史」と「劇場アニメ70年史」が刊行されたのも、この年だ。「25年史」と「70年史」で、僕はあらすじと解説の編集担当だった。これは僕にとって20代で、一番大きな仕事だ。無闇矢鱈と大変だったが、得たものも大きかった。
 1988年はそんな年だった。次回からこの年の劇場作品について触れる事にする。

第441回へつづく

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(10.08.30)