アニメ様365日[小黒祐一郎]

第433回 『デビルマン 誕生編』

 原作とTVシリーズの話から始めよう。永井豪のマンガ「デビルマン」が「週刊少年マガジン」に連載されたのが、1972年から1973年。同時期に東映動画(現・東映アニメーション)が制作したTVアニメ版がある。登場人物や基本設定の一部は共通しているが、内容はほとんど別物である。「デビルマン」の原作マンガとTVアニメ版は、ほぼ同時にスタートした。連載が続くうちに、原作マンガが当初の予定から外れてゆき、結果的に、TV版とはまるで違った内容になってしまったのだ。原作は非常に過激な作品であり、神話的世界なスケールの物語が魅力だ。永井豪の代表作であり、傑作である。それに対して、TVアニメ版はダーティであり、過激なところもあったが、基本的には子供向けのヒーローものだった。

 自分自身の事で言えば、TVアニメ版はリアルタイムで視聴していた。当時、僕は8歳だった。『デビルマン』はパワーのある作品だったし、子供向け番組としては刺激的な内容だった。原作は連載では読んでいない。「冒険王」という雑誌に、蛭田充が描いた「デビルマン」が掲載されていた。TVアニメ版に近い内容で、それは読んでいた。TVアニメ版が終わって、随分経ってから、永井豪の原作をまとめて読んだ。その凄まじい内容に、頭がクラクラするくらいの衝撃を受けた。
 では、それで自分の中でTVアニメ版のランクが下がったかというと、そんな事はなかった。TVアニメ版と原作は別物であり、TVアニメ版にもTVアニメ版のよさがあった。今になって思えば、原作もTVアニメ版もパワフルな作品であり、やっている事は違っているが、どこか近しいものがあった。
 だから、自分の中では、原作とTVアニメ版は別物ではあるが、それぞれ好きな作品として、記憶の引き出しの中にしまってあった。同世代のアニメファンには、似たように捉えている人も多いだろうと思う。そんな『デビルマン』が改めてアニメ化される事になった。1987年11月1日にリリースされた『デビルマン 誕生編』である。

 『デビルマン 誕生編』のアニメーション制作は、OH!プロダクション。総指揮として、永井豪自身がクレジットされており、監督はこれがデビューとなる飯田つとむ。キャラクターデザインは、TV版と同様に小松原一男が担当。美術監督は椋尾篁。作画監督は『は〜い ステップジュン』『メイプルタウン物語』等で活躍していた若手の安藤正浩。完成作品のキャラクターは、小松原一男よりも、安藤正浩のカラーが強いように思える。音楽は川井憲次。50分ほどの作品だ。
 飯田つとむは、この作品を手がける前に『天空の城ラピュタ』で演出助手を担当。その縁で『ラピュタ』に参加したスタッフが大勢参加している。原画でクレジットされているのは、安藤正浩、金田伊功、鍋島修、松原京子、森友典子、矢吹勉、川崎博嗣、東京モモンガ、二木真希子、遠藤正明、近藤勝也、河口俊夫、大塚伸治、小松原一男。色指定も、ジブリ作品でお馴染みの保田道世だ。キャストに目をやれば、主人公の不動明を演じたのが速水奨。飛鳥了役が水島裕。少し後だったら、速水奨がクールな飛鳥了にキャスティングされるところだが、この作品では、ナイーブさと乱暴さを併せ持つ不動明を演じている。彼の不動明も悪くない。
 脚本として、永井豪と飯田つとむが連名でクレジットされている。これは2人で脚本を書いたわけではない。DVD「デビルマン OVA COLLECTION」の解説書によれば、飯田監督の絵コンテが少し上がるたびに、永井豪がチェックし、アドバイスしていたのだそうだ。共にストーリーを作り上げたという意味で、両者を脚本としてクレジットしたのだろう。

 同じく解説書によれば、最初はまるで違った脚本があったのだが、飯田監督の提案で、その脚本を使わず、原作通りに作る事になったのだという。不動明は、友人の飛鳥了によってデーモンの存在を知らされ、それと戦える力を手に入れるため、デーモンと合体する事を決意。飛鳥が準備したサバトで、明はデーモンのアモンと合体し、デビルマンとなる。アレンジを加えてはいるが原作に沿った展開だ。
 アニメーションとしては、非常によくできている。きちんとカットが割ってあるし、芝居もしっかりしている。原作に沿った展開なのも嬉しかった。ではあるけど、『誕生編』に満足できたかというと、そんな事はなかった。そんな感想を抱いたのは、日本広しといえども、僕1人だけかもしれないけれど、アニメーションとして丁寧過ぎると思った。贅沢な話ではあるが、きっちりと作られているだけに、原作のギラギラした感じがないと感じたのだ。
 映像作品が必ずしも、全ての点において原作通りに作られる必要はないのだが、『デビルマン』に関しては、すでに原作とは違った内容で、なおかつ魅力的なTV版がある。改めて原作に沿ったものを作るのなら、やはり原作のイメージをそのまま映像化してほしいと思ってしまう。今になれば、そういったテイストで原作を映像化したものと捉える事ができるが、当時は首を傾げてしまった。明がデビルマンになるまでの物語であるから仕方がないと言えば仕方がないのだけれど、デビルマンが登場するのは、作品の終盤。アクションの見せ場も少ない。それも物足りないと感じた理由のひとつだ。

 『誕生編』に感じた不満を吹き飛ばしてくれたのが、1990年にリリースされた第2作『デビルマン 妖鳥死麗濡編』だ。こちらはアクション満載で、見どころも多い。それについては、この連載が1990年の話題になったところで、触れる事にしたい。

第434回へつづく

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(10.08.19)