アニメ様365日[小黒祐一郎]

第431回 『妖獣都市』とOVAの「正解」

 『妖獣都市』は特別な作品だった。僕にとっては、スタイリッシュなアクションものである事が最大の魅力だ。麻紀絵が敵を攻撃する際に、赤い光がスッと走る。何度観てもうっとりする表現だ。滝が自動車を走らせているシークエンスで、背後に道路照明灯が流れていく。当たり前の光景だが、映像が非常にシャープであり、これも痺れる。こんなアニメは観た事がなかった。『妖獣都市』について、もうひとつ大事なのが、大人のための娯楽作であった事だ。今日の本題はこちらの方だ。

 『妖獣都市』は「大人が楽しめるアニメ」だった。「大人も楽しめる作品」ではなくて「大人が楽しめる作品」だ。エロティックなシーンも、グロテスクなモンスターやバトルの過激さもそうだし、登場人物や雰囲気にしても、疑いようもなく大人向きだった。僕としては、アニメでこういった作品が作れるということ自体に、驚きがあった。

 そして『妖獣都市』は80分強の長編で、全編が見どころだらけだ。エンターテインメントに徹している。その意味でも満足度は高かった。記憶モードで書いてしまうが、当時、川尻監督が雑誌のインタビューで、レンタルショップで借りるお客さんにとって、洋画のアクションものも、アニメビデオも1本のビデオである事に変わりはない。だから、実写のアクション映画に負けないような作品を作っていきたいと語っていた。その発言に共感した。
 僕はOVAが嫌いではなかったし、沢山観てはいたけれど、エンターテインメント性については弱いと感じていた。元々OVAは、作家性あるいは企画レベルでのマニアックさが先行していたので、今となって思えば、娯楽性が弱いのは意外な事ではない。ではあるが、それを物足りなく感じていたのも事実だった。

 大人が楽しめる作品であるという事と、娯楽性の高さの2点において『妖獣都市』は新しかったし、OVAの中で傑出した存在だった。『妖獣都市』で、OVAの「正解」のひとつが提示されたような気がした。こういった大人向けで見応えのある娯楽作がOVAの理想的な形のひとつだと思った。
 そして、『妖獣都市』のスタイリッシュな作り、独特の映像美は明らかに作家のものだった。娯楽作としてよくできていて、作家性が強い。さらに、その作家性が作品の魅力につながっている。完璧な作品だった。これを完璧と言わなかったら、何を完璧と呼べばいいのか。

 作家性は抜きにしても、もしも、こういった大人向けで見応えのある娯楽作が沢山出てくるのなら、OVAの未来は明るいと思ったものだ。実際には『妖獣都市』の後、OVAで同じくらいパワーのある娯楽作や、「大人が楽しめるアニメ」が次々に作られる事はなかったのだが、この作品がOVAの可能性を示した事と、OVAだからこそ成立した傑作である事は間違いない。

第432回へつづく

妖獣都市 [DVD]

カラー/80分/片面1層/スタンダード
価格/4935円(税込)
発売・販売元/ジャパンホームビデオ
[Amazon]

PLUS MADHOUSE 2 川尻善昭

構成・編集/スタジオ雄
価格/2310円(税込)
体裁/A5判
頁数/192頁
発行/キネマ旬報社
[Amazon]

(10.08.17)