アニメ様365日[小黒祐一郎]

第415回 『破邪大星 彈劾凰』

 『機動戦士ガンダム』以降、ロボットアニメは、リアル系のロボットが主流となった。リアルである事が決して悪いわけではないけれど、ロボットの設定や描写がリアルであるという事は、その作品のドラマやアクションが、現実的なものだという事でもある。主役ロボットの活躍が大人しいものになってしまったシリーズもあった。1980年代後半、リアル系ロボットアニメにも飽きてきたアニメファンもいたはずだ。そんな時に『破邪大星 彈劾凰』が登場した。

 『破邪大星 彈劾凰』は、平野俊弘(現・俊貴)が、原案、監督、キャラクターデザインを務めたOVAである。脚本は会川昇(現・會川昇、第3巻のみ脚本協力)、メカニックデザインは河森正治、石津泰志、大張正己。1987年9月28日に1巻がリリースされ、1988年に第2巻が、1989年に第3巻が発売されている。
 『マジンガーZ』や『ゲッターロボ』に代表される、1970年代のスーパーロボット物をリスペクトした作品だ。主役ロボットのダンガイオーは、ターサン博士(声/青野武)が創り上げた合体ロボットだ。主人公のかけ声と共に、4体の戦闘機が合体して、ダンガイオーとなる。ダンガイオーは額からビームを放ち(ダンガイビーム)、手をミサイルのように撃ち(ブーストナックル)、巨大な剣で敵を粉砕する(ダンガイソード)。スーパーロボットの定番をきっちりと押さえていた。デザインとしては、決して1970年代スーパーロボットそのものではなかったが、そのエッセンスは感じられた。むしろ、ダンガイオーの外見に関しては、スーパーロボット的かどうかよりも、フォルムの新しさが魅力だった。
 ダンガイオーに乗り込むのは、ミア・アリス(荘真由美)、ロール・クラン(神谷明)、ランバ・ノム(岡本麻弥)、パイ・サンダ(松井菜桜子)の4人。彼らは、ターサン博士によって改造されたエスパーだ。主人公はミア・アリスだが、ダンガイオーのメインパイロットはロール・クランである。数々のスーパーロボットに乗ってきた神谷明が、本作でも技の名前を叫んでくれた。音楽は『マジンガーZ』や「宇宙刑事」シリーズでお馴染みの渡辺宙明(第3巻のみ、水谷薫と連名でクレジット)。主題歌「CROSS FIGHT!」は水木一郎、堀江美都子のデュエット曲。しかも、これが大変な名曲。さらに、第1巻では。水木一郎、堀江美都子がゲストキャラの声も担当している。

 『戦え!!イクサー1』の平野監督で、スーパーロボットものであり、神谷明で、渡辺宙明で、水木一郎で、堀江美都子だ。それだけで、スーパーロボットアニメ好きには堪らないタイトルだった。勿論、全てにおいて、『破邪大星 彈劾凰』が古典的なロボットアニメを再現していたわけではない。主人公達は男性1人、女性3人のチームであるのも、ヒロイン達が肉感的で、水着のような露出度の高いコスチュームをまとっているのも、いかにも当時のOVA的であった。『破邪大星 彈劾凰』は懐かしくて、新しい作品だった。
 本作のもうひとつの見どころが、大張正己の仕事だった。彼は作画監督とメカニックデザインを担当(いずれも他のスタッフと連名)。第1巻では、クライマックスの絵コンテと原画も描いている。メカのフォルム、ハッタリの効いたポーズ、バトルの段取り、全ての面において完璧。第1巻で彼が担当したクライマックスは、ロボットアクションの完成形ともいえる仕上がりだ。若き日の作品ではあるが、これが彼の代表作だろう。作画に関しては、山下将仁、垣野内成美が手がけたオープニングも、チェックしたいポイントだ。ややリアル寄りになった山下将仁のアクションを楽しむ事ができる。

 『破邪大星 弾劾凰』は、ストーリーや演出について、ユルいところがある。話に関しては、昔ながらの大らかさを狙ったのかもしれないが、もう少し濃いものが欲しかった。ではあるが、少なくとも第1巻に関しては、クライマックスの大張パートが、ユルさを帳消しにして余りあるだけのものだった。神谷明や渡辺宙明の存在もある。だから、第1巻は満足できる内容だった。僕は『戦え!!イクサー1』と同じく、趣味的な作品として楽しんだ。1巻のレーザーディスクも、サントラCDも購入した。考えてみたら、OVAでサントラを買った作品なんて、今までで数枚しかない。
 第1巻に比べると、第2巻、第3巻は随分と印象が薄い。第2巻はストーリー的に小粒な感じだった。第3巻は音楽が弱い。水木一郎、堀江美都子の主題歌がなくなってしまったのも痛かった。新作が発表されるたびにパワーダウンしていくのが残念だった。『破邪大星 弾劾凰』を観直すなら、やはり第1巻だ。

第416回へつづく

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(10.07.26)