アニメ様365日[小黒祐一郎]

第410回 『超神伝説 うろつき童子』続き

 第1作『超神伝説うろつき童子 —超神誕生編—』がリリースされた段階で、僕はアニメージュで働いていた。編集部でライター同士で、『うろつき童子』について話をしたの覚えている。「『うろつき童子』観た?」「観た、観た! 凄かった!」。観てない人が「凄いと言っても、アダルトアニメだろ」なんて言っていると、他のライターが「いやあ、そんなもんじゃないんだよ。観てごらん。驚くから!」と切り返したり。思えば18禁作品で、あんなに熱く語り合ったのは、後にも先にもない体験だ。
 キャラクターデザインや作画監督は、各エピソードで、数名ずつ立っている。前回も触れたように、その多くがペンネームでの参加だった。たとえば『1』の作画監督は金剛寺弾、笠見四郎、東野英太郎の3人。キャラクターデザインは笠見四郎、東野英太郎、モンスターデザインは水田麻里だ。原画には、木郷猛、二文字隼人、夢枕猿といったふざけた名前が並んでいる(なぜか『仮面ライダー』のもじりが多い)。『2』以降はペンネームのスタッフに加えて、キャラクターデザインや作画監督などの役職で、当時の若手アニメーターが実名で参加しているが、ここではそれが誰なのかは書かない事にする。
 とにかく、いかにもペンネームっぽい名前が並んでいたわけだ。しかし、作品を観れば、どんなスタッフが参加しているのかは検討がついた。『うろつき童子』のキャラクターデザインは、有り体に言ってしまえば『機動戦士Zガンダム』や『機動戦士ガンダムZZ』のキャラクターに似ていた。特に『1』において、その傾向が強い。作画やスタッフに詳しくないアニメファンが観たとしても「これって『Zガンダム』のアニメーターが描いてるんじゃないの?」と思ったはずだ。
 南雲の外見はジュドー・アーシタのようだったし、天邪鬼の妹である恵は、髪型・髪の色はフォウ・ムラサメ的で、顔つきはエル・ビアンノ風だった。恵の髪については、わざと似せているのではないかと思ったくらいだ。モブキャラも『Zガンダム』世界からやってきたような人物が大勢いた。デザインだけでなく、作画も同作品に近いテイストだった。同チームによる『重戦機エルガイム』であったたような、デフォルメが効いたコミカルな芝居もある。彼らの仕事としても、大変に充実したものであり、むしろ、アニメーターとして誇れる作品だ。
 TVのロボットアニメでお馴染みのラインのキャラクターで、エロティックなドラマをやっていた。そのために『うろつき童子』には背徳にも似た感覚があり、それも話題になった。また、原作のような劇画的なキャラクターで同じ内容をやっていたら、おそらくは多くのアニメファンが引いてしまっただろう。アニメ『うろつき童子』のキャラクターは、バイオレンス&エロスのドラマを成立させる事が可能であり、同時にアニメファンにアピールするキャラクターでもあった。
 キャストについても触れよう。『うろつき童子』には、当時すでに有名だった声優が大勢出演していたし、売り出し中だった若手もいる。中でもインパクトがあったのが、ヒロインの伊藤明美を、シュガーボイスで知られる人気女性声優が演じた事だ。あのキャラクターのあの声で濡れ場を演じたのは、ちょっとした事件だった。『2』で登場した仁木を演じたのは、その後、大ブレイクする若手声優。後の活躍を予感させる熱演だった。同じく『2』から登場する魔界の水角獣は、強面を得意とする男性声優。いかにも彼らしいキャラクターで、見せ場もたっぷり。
 天邪鬼を演じていたのは西村智博(現・西村朋紘)。初期3部作では彼もノンクレジットだったが、シリーズ途中から、キャストの中で西村智博のみがクレジットされるようになる。アダルト作品であるが、決して恥じるべき仕事ではないという判断で、名前を出すようになったのかもしれないし、看板となっているキャラクターなので制作側の要望で名前を出すようになったのかもしれない。西村智博は、ふてぶてしいようで、どこかナイーブな天邪鬼を見事に演じていた。殺伐としたこの作品で、彼の芝居にほっとする事も多かった。

第411回へつづく

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(10.07.16)