アニメ様365日[小黒祐一郎]

第400回 『ロボットカーニバル』の各作品(4) 北爪宏幸の「STARLIGHT ANGEL」

 梅津泰臣監督の「プレゼンス」について、もう少しだけ続ける。「メモリー オブ ロボット・カーニバル」での彼へのインタビューは大変に面白いものだった。「プレゼンス」について「今となっては恥ずかしい作品だ」と彼は語る。一所懸命にやりはしたが、表現したいものが表現できなかったと語っている。作画についても巧くいっていないという。それで、インタビュアーである僕は「ネジを投げる芝居も失敗ですか」「スープがスプーンに映り込むカットは?」「主人公の娘が手前に来るカットは?」と、ひとつひとつのカットについて聞いていく。梅津監督は「プレゼンス」の事は覚えていないと言いつつ、「あのカットは後半が堅い印象がある」等としっかりと答えてくれた。「中年男性と少女」「老人と少女」といったモチーフを好んで描いている理由についても訊いている。梅津監督の人柄や、創作に対する態度がよく分かる記事にもなっている。僕は、今まで数え切れないくらいの取材をしてきたけれど、その中でもお気に入りのインタビューだ。
 5本目の作品が、北爪宏幸監督の「STARLIGHT ANGEL」だ。主人公の少女は、友人の女の子と共に、夜の遊園地へ遊びに行く。そこはロボットをモチーフにした遊園地だ。友人は恋人ができたので、紹介してくれるという。会ってみると、その恋人というのはかつて少女にネックレスをくれた男であり、少女は彼と唇を重ねていた。裏切られた事を知った少女は、泣きながら駆けだしてしまう。1人で遊園地内を歩いていた彼女は、やがて夢の世界に入り込む。夢の世界で少女を助けてくれたのは、遊園地でロボットのキグルミを着て、働いていた青年だった。彼は少女の事が気になっていたのだ。後半では夢の世界に悪のロボットが登場し、青年がそれと戦う事になる。男性不信に陥った主人公が冒険を経て、新しい恋人を得るまでの物語だ。
 可愛らしい作品であり、メルヘンチックでさえある。主人公の少女は『Z』や『ZZ』のヒロイン達に比べると華奢であり、可憐。遊園地で開催されるロボットパレードの様子なども、ロマンティックで素敵だ。夢の世界で、夜空を飛ぶ少女がウィンクすると、それが☆マークになって飛んでいくという、見ていて照れくさくなるようなカットもある。
 その方向性ゆえに、マニアックな傾向の強い『ロボットカーニバル』の中では異色の作品だ。以下、アニメージュの「いまだから話せる!? 『ロボットカーニバル』の裏のうら」の原稿を引用する。


 「ふだんハードなメカものばかりやっているので、ふんわりした感じの作品をやってみたかったんです」と語る北爪さん。今回の主人公のような内気でナイーブな女の子のキャラは、いままで作ったことがなく、一度描いてみたかったのだそうだ。全体の構成はプロモーションビデオ風、対象は中学生くらいの女の子と考えた。いまの仕事を終えたら、またこんな作品を作ってみたいそうだ。


 普段やっている「ハードなメカもの」とは『機動戦士Zガンダム』や『機動戦士ガンダムZZ』等の事だ。「メモリー オブ ロボット・カーニバル」のインタビューでは、この作品を振り返って、技術的なところで力不足は感じるが、自分のやろうとした事は達成できているし、「描きたい」という気持ちも昇華できた。ではあるが、『ロボットカーニバル』の他の監督は非常に高いところにハードルを設定して作品を作っている。自分や大森英敏の作品は、その中ではオマケのようなものだとも述べている(つけ加えると、リリース当時の上映会で、息をのんで鑑賞するような作品が多い中、自分の作品は笑い声がおきて、和んでる雰囲気があった。自分も楽しんで作れたし、観ている人に少しかもしれないけれど楽しみを提供できたと思っている、とも語っている)。
 『ロボットカーニバル』について「なにをやっていもいい企画なのに、TVアニメでもやれるような事をやっている」と批判した人がいたが、それは「DEPRIVE」や「STARLIGHT ANGEL」に対して言っていたのだろう。自分自身としても「STARLIGHT ANGEL」について、少し物足りないと感じた。女の子は可愛らしいし、狙いも分かる。ではあるけれど、題材や作品の雰囲気が『ロボットカーニバル』という企画にそぐわないのではないかと思った。なんだか、ヌルい作品だなあと感じたのだ。
 ただ、月日を経るうちに、自分の中でこの作品への愛着が高まった。「STARLIGHT ANGEL」は、北爪宏幸の「可愛い女の子を描きたい」という気持ちが画面に溢れている。表情のつけ方も、芝居も可愛らしい。これはこれで濃い作品だ。そう感じるようになった。彼の作画史の中で、一番好きな仕事だ。リリース時にはヌルいと思った部分も、今では愛おしく思える。
 一昨年だったか、イベントの楽屋で、あるアニメ監督と世間話をしていて「STARLIGHT ANGEL」の話になった。彼も「STARLIGHT ANGEL」には北爪監督のいいところが出ていると言っていた。意気投合して「あれはいいよね」と語り合った。

第401回へつづく

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(10.07.02)