アニメ様365日[小黒祐一郎]

第397回 『ロボットカーニバル』の各作品(1) 大友克洋監督のOPENING

 2000年に『ロボットカーニバル』DVDがリリースされ、その初回限定版には「メモリー オブ ロボット・カーニバル」という小冊子がつけられた。この小冊子は、僕が構成を担当させてもらっており、改めて8人の監督に取材をした。僕は作品完成直後と完成から10数年後で2回、全監督に取材したわけだ。
 10数年も経つと、当時とは違った話が出てくる。自分としては「メモリー オブ ロボット・カーニバル」を作った事で、自分の中で『ロボットカーニバル』が完結したような気がする。以下は、アニメージュの「いまだから話せる!? 『ロボットカーニバル』の裏のうら」と「メモリー オブ ロボット・カーニバル」を下敷きにして書く(ちなみに小冊子のタイトルは「ロボット」と「カーニバル」の間に「・」が入っている。これは単純な編集段階でのミスだ。校了時に気づいたけれど、表紙回りだけでなく、本文中の表記でも全て「・」入れてしまい、多すぎて直せなかったのだ。スイマセン)。
 『ロボットカーニバル』のOPENINGとENDINGは、大友克洋の作品だ。OPENING、ENDINGと言っても、きちんと1本の作品になっている。OPENINGはこのような内容だ。砂漠にある小さな集落で、少年がチラシを手にする。それは「ロボットカーニバル」の到来を告げるものであった。少年の話を聞いて、集落の人々はそれぞれが自分の家に逃げ込む。そして、砂漠の向こうから“ロボットカーニバル”がやってくる。ロボットカーニバルは巨大なメカであり、キャタピラの上に「ROBOT CARNIVAL」のタイトルロゴが載っている。
 ロボットカーニバルは花火を打ち、紙吹雪を散らす。人形のようなロボット達が、ロボットカーニバルの内部から現れる。楽隊ロボットが演奏をし、フランス人形のような少女ロボットが宙を舞う。軽快な曲に乗りながら、ロボットカーニバルは集落を蹂躙する。キャピラで住居を踏みつぶし、進行方向から外れた住居は遠距離攻撃で片っ端から爆破。逃げ出した住人に対しては、少女ロボットが目の前まで迫り、自爆する。おそらく、その集落の人々は貧しいのだろう。悪い事もしていない。だが、ロボットカーニバルは容赦なく、集落を叩きつぶす。そして、どこかへ走り去っていく。
 このフィルムの内容を言葉にすれば「作品のタイトルロゴが、街を破壊しながら突き進む」だ。シュールであり、暴力的であり、ブラック。非常に痛快なフィルムだ。ロボットカーニバルの大暴れは、ダイナミックなものであるのだが、熱くはない。どこか醒めている。その醒めた感じもいい。大友作品ならではの味わいだ。
 大友監督に『ロボットカーニバル』に参加の依頼があった時、すでに彼は『AKIRA』のアニメ化の準備作業に入っていた。最初から「絵コンテだけでいいからやってほしい」というオーダーであったらしく、事実、彼が担当したのは絵コンテまでだ。以降の作業は、キャラクターデザイン・作画の福島敦子や美術の山本二三にお任せだったらしい。福島敦子の仕事が、また素晴らしい。作画に関しては、大友作品らしいリアルさと、動きの遊びが同居。パワフルに動かしまくっているし、小技も効いている。理想的な大友アニメであり、マニア好みの作画だ(僕は指揮者ロボットが、カメラの手前にスライドしてくるカットの、カット尻の部分が最高に好きだ)。福島敦子が巧いとは聞いていたし、それまでも断片的に彼女の仕事を観てきた。だが、これほどまとまったかたちで、彼女の原画を観たのは初めてだった。こんなに巧いんだ! と舌を巻いた。
 アニメージュの取材でも「メモリー オブ ロボット・カーニバル」の取材でも、タイトルロゴが走るという発想の元について大友監督に訊いたが、作品テーマについては訊かなかった。訊くまでもないと思ったのだろう。雄弁なフィルムだ。これを監督に説明させるのは、あまりにも野暮だ。
 巨大メカ“ロボットカーニバル”が疾走する姿は、オムニバス作品『ロボットカーニバル』とイコールなのだろう。『ロボットカーニバル』はゴージャスでパワフルだ。そ『ロボットカーニバル』は周りを蹴散らして突き進んでいく。あまりもパワーがあるので、第三者からすると、『ロボットカーニバル』はちょっと迷惑な存在なのかもしれない。蹴散らされるのは、他のアニメ作品なのか、制作会社なのか。ひょっとしたら、作品に圧倒される観客であるのかもしれない。そんなパワーのある作品だという事が表現されている。作り手が自分達が作っているフィルムに胸を張っている感じだ。実際に、『ロボットカーニバル』が周りを蹴散らしたかどうかは意見が分かれるところだが、ゴージャスでパワフルな作品に仕上がったのは間違いない。

第398回へつづく

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(10.06.29)