アニメ様365日[小黒祐一郎]

第386回 『ミスター味っ子』を振り返る・その6

 『ミスター味っ子』は、最終的に全99話と1本のスペシャルが作られた。大まかに言えば、1ブロック25話で、全4ブロックの構成となっているわけだ。当初は半年で終了する予定でスタートして、半年ずつ延長された。延長するたびに最終回が作られた。99話だけでなく、50話も、75話も、最終回として作られたエピソードだった。
 『ミスター味っ子』のシリーズを25話単位で考えれば、26話、27話、28話の「どんぶり兄弟編」は、第2部の最初のエピソードという事になる。新シリーズ突入にあたって、ドカンと派手な話をやったというかたちだった。ただ、「味皇杯料理人グランプリ」で不完全燃焼だった陽一と一馬のドラマを、ここで描ききっているわけであり、話の流れとして考えると「どんぶり兄弟編」が第1部の最終回になる。
 第2部を振り返ってみよう。31話と32話の回転寿司勝負では、小西が再々登場し、陽一とコンビを組む。苦労をした小西が人間が丸くなっていたのが、僕的には残念だった。33話と34話の弁当ウォーズでは、味将軍グループの阿部一郎と及川がコンビを組んで、陽一の前に立ちふさがった。新しいライバルは、29話と30話で登場したミスター鍋っ子こと中江兵太(声/佐々木望)、35話のウィーン少年料理団、37話と38話の男装の少女料理人の章田吉子(島津冴子)、といった面々。42話から「味仙人トーナメント編」に突入し、霊幻料理のリャン・ガ・コーテー(筈見純)、幻の遠洋漁業料理人の味船敏八(玄田哲章)と戦い、中江兵太、一馬とも再戦した。
 ライバルの料理人達のコンセプトに関しては、第1部よりも派手になった。話の作りに関しては、悪く言えばややユルくなった。よく言えば余裕が出てきた。第2部以降の方が遊びも多くなっているはずだ。第1部は30分の中に話をギュッと詰め込んでいたけれど、そうではなくなった。雰囲気に関しても、第1部はハードであり、第2部からは柔らかくなっていった。陽一がグランプリで優勝したところで、彼の成長が一段落してしまい、その事が物語に影響を与えているというのもあるだろう。
 ドラマ、演出の両面に関して「どんぶり兄弟編」が頂点であり、その後、一度リセットがかかり、別路線に入っていった印象だ。「どんぶり兄弟編」の直後が、中江兵太登場編だった。彼は野菜を愛しており、人柄もいい。いい人過ぎるくらいいい人だ。第1部にはいなかったタイプのライバルだ。「どんぶり兄弟編」の後で路線変更したと考えれば、変更後の1本目に相応しいキャラクターだった。僕は第2部以降も、楽しんで観ていたけれど、好みで言ったら第1部の方が好きだ。第2部以降が好きなファンがいる事は分かっている。女性ファンの人気が盛り上がっていったのも、第2部以降だったかもしれない。
 第2部で僕が好きなエピソードは、40話と44話の2本だ。40話「うな丼勝負! 黄金のうなぎを求めて」(脚本/渡辺善則、絵コンテ/森川滋、演出/中村憲由、作画監督/貴志夫美子)は、陽一が、アイデアうな丼で鰻料理の老舗・鰻浜のオヤジ(峰恵研)を凹ませる話だ。料理勝負では、陽一のうな丼を客に食べさせる事になり、たまたま店にやってきた母子がうな丼を食べる。お母さんはあまりの旨さに「キ〜、キッキッキッ、キクキクキクわ〜」と叫び、顔が激しく変形。変形作画のテンションの高さが素晴らしい。我に返った後で可愛らしく決めポーズをとって「お母さん、泣いちゃった」と言ってしまう母親のノリのよさと、息子との甘々な関係が印象的で、際立った出来映えのトリップシーンとなった。
 トリップしている母親を、息子が「お母さん、大丈夫?」と心配したり、同じくトリップした鰻浜のオヤジに、息子さんが「生きてる? 父さん」と訊いたりするあたりも可笑しくていい。陽一が、オーソドックスうな丼を鰻浜のオヤジに食べさせる前に、「食べてみて。身体が旨さで、どうにかなっちゃうよ」と言う。このふてぶてしさもいい。しかも、その後で本当にどうにかなってしまう。
 44話「荒磯勝負・ 陽一式焼き魚の秘密」(脚本/月村了衛、絵コンテ/うえだひでひと、演出/西村明樹彦、作画監督/土器手司)は、味船敏八との対決を描いた前後編の後編だ。ちなみに、味船敏八はまな板を使って波乗りをするような男である。対決は、焼き魚荒磯勝負だった。陽一の料理を食べた味皇は、あまりの旨さに海上を走り出し、途中からはフンドシ一丁の姿で、料理についてのウンチクを語りながら、海中と海上を駆け回る。このトリップシーンは、金田伊功が作画を担当。彼の自由奔放な作画と、味皇のハチャメチャさは相性がよく、これも名トリップシーンとなった。作画マニアとして言わせてもらえば、この前後の金田伊功は、スタジオジブリの作品に参加する事が多かった。それ自体について悪く言うつもりはないが、僕達は、彼のパワフルな作画に飢えていた。それだけに、44話の彼の参加は嬉しかった。僕は、このトリップシーンもアニワルで取り上げた。取り上げないわけにはいかなかった。
 第2部は、予想もしないようなかたちで最終回を迎える事になった。それについては次回で。

第387回へつづく

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(10.06.14)