アニメ様365日[小黒祐一郎]

第352回 『ダーティペア(劇場版)』と『バツ&テリー』

 1987年3月14日には『ダーティペア』と『バツ&テリー』の2本立てが公開されている。どちらも80分ほどの作品で、制作は日本サンライズ(現・サンライズ)。そして、どちらも肩の凝らない娯楽作だった。
 『ダーティペア』は、同タイトルTVシリーズの延長線上にある企画で、監督は真下耕一。原作は高千穂遙で、ユリ&ケイの美女コンビの活躍を描くSFアクションだ。劇場版は、音楽を押し出したミュージックビデオ的な作りになっており、ちょっとした異色作だった。近年でも『NOIR』などで、音響を重視した作品づくりが魅力となっている真下監督らしいフィルム。彼の演出スタイルが固まり始めた頃の作品だ。キャラクターデザインと作画監督は、TVシリーズと同じく土器手司が担当。TV版よりも、ユリとケイがグラマーになっていた。森本晃司が担当したオープニングも話題のひとつだ。
 劇場版では、ワッツマンというマッドサイエンティストが敵であり、ケイが、カースンという男と恋仲になる。劇場版らしいスケールの大きさがあるわけでもなく、『ダーティペア』映像化の決定版になっているわけでもない。ストーリーとしては、シンプルすぎるくらいだったが、それだけに、ミュージックビデオ的な作りが生きていた。僕は、アニメの全『ダーティペア』の中で、この劇場版が一番楽しめた。
 『バツ&テリー』は、大島やすいちの人気マンガを映像化した作品で、主人公は、エネルギッシュでノリのいいバツ(抜刀軍)とテリー(一文字輝)の2人。彼らの野球と女の子とケンカの日々を描いた青春ものだ。アミノテツロー(現・アミノテツロ)の初監督作品であり、アニメーションディレクターを芦田豊雄が、キャラクターデザインを山内則康といんどり小屋が務めている。
 この作品は、日本サンライズが、初めて手がけたマンガ原作作品だった。当時のアニメ誌でも、そのように紹介されていた。ただ、安彦良和の同名マンガを原作にした『アリオン』もあるので、厳密にいえば、日本サンライズ初のマンガ原作作品ではない。ではあるが、当時、日本サンライズの自社作品は、9割以上がオリジナルのロボットアニメであり、僕らにとっては、ロボットアニメ専門のプロダクションだった。だから、人気のマンガ原作を、しかも、野球や学生のケンカをメインにした作品を手がけるのが意外だった。
 だから「サンライズがマンガ原作? どんな仕上がりなんだ?」といった興味を持って、僕は劇場に足を運んだ。そして、作品を観た印象は「意外と普通」だった。細かい事を言うと、登場人物の日常芝居がシャープ過ぎて、なんだかロボットアニメみたいな動きだと思うところはあった。それ以外は、ちゃんとヤング向けのアニメとして仕上がっていた。サンライズ作品だからと言って、いきなりロボットが出てきたりはしなかった。
 この2本立てが公開された時には、すでに春の新番組で『CITY HUNTER』の放映が始まる事が告知されていた。これも日本サンライズの作品であり、『バツ&テリー』と同じく、人気マンガを原作にしたものだった。同年秋には、これもマンガ原作であり、しかもグルメアニメの『ミスター味っ子』がスタート。日本サンライズとしては、新しい作品の可能性を模索していた時期だったのだろう。
 自分自身の事で言えば、なんらかの理由があって、日本サンライズがマンガ原作に乗りだしたのだろうとは思ったが、中学の頃からずっと、同社のロボットアニメを観てきただけに、ロボットアニメの専門スタジオでなくなっていくのを、寂しく感じた。

第353回へつづく

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