アニメ様365日[小黒祐一郎]

第335回 『湘南爆走族 —残された走り屋たち—』

 初期のOVAは、アニメファンに向けた作品が中心だった。だが、それとは全く別のベクトルの作品群が生まれた。一般の青年層(コアなアニメファンではないという意味だ)をターゲットにし、人気劇画やアクションマンガを映像化したタイトルだ。それらはセルではなく、レンタル中心で展開。ビデオレンタルショップの普及に結びついて、ヒット作も生まれた。その代表的なタイトルが『湘南爆走族』シリーズだった。
 『湘南爆走族』シリーズの原作は、吉田聡の同名マンガだ。主人公の江口洋助は手芸部部長であり、暴走族・湘南爆走族の2代目リーダー。湘南爆走族は、彼と石川晃、丸川角児、桜井信ニ、原沢良美の5人で構成されている。『湘南爆走族』は多面的な作品で、暴走族同士の抗争をハードに描いたエピソードもあれば、ラブコメもあり、ギャグもある。全体としては青春ドラマとなっていた。OVA第1作『湘南爆走族 —残された走り屋たち—』が1986年にリリースされ、大ヒットを記録。そこから、なんと14年かけて、計12本が作られた。以下がそのタイトルだ。


  • 『湘南爆走族 —残された走り屋たち—』
    (1986年9月10日)
  •  
  • 『湘南爆走族II 1/5 LONELY NIGHT』
    (1987年4月10日)
  •  
  • 『湘南爆走族III —10オンスの絆—』
    (1987年11月3日)
  •  
  • 『湘南爆走族4 —ハリケーン・ライダーズ—』
    (1988年7月22日)
  •  
  • 『湘南爆走族5 青ざめた暁』
    (1989年5月26日)
  •  
  • 『湘南爆走族6 GT380ヒストリー』
    (1990年5月25日)
  •  
  • 『PURPLE HIGHWAY OF ANGELS 湘南爆走族7 スポ根マッドスペシャル』
    (1991年4月26日)
  •  
  • 『PURPLE HIGHWAY OF ANGELS 湘南爆走族8 赤い星の伝説』
    (1992年9月25日)
  •  
  • 『PURPLE HIGHWAY OF ANGELS 湘南爆走族9 俺とお前のGOOD LUCK!』
    (1993年8月25日)
  •  
  • 『湘南爆走族10 FROM SAMANTHA』
    (1995年1月21日)
  •  
  • 『PURPLE HIGHWAY OF ANGELS 湘南爆走族11 喧嘩の花咲く修学旅行』
    (1996年7月12日)
  •  
  • 『PURPLE HIGHWAY OF ANGELS 湘南爆走族12 桜吹雪の卒業式』
    (1999年3月12日)

 僕の記憶が正しければ『湘南爆走族 —残された走り屋たち—』のヒットが、東映Vアニメレーベルの成立に結びついた。東映Vアニメは、1980年代後半から1990年代前半にかけて『Crying フリーマン』『ヤンキー烈風隊』『BE-BOP-HIGHSCHOOL』と、不良もの、ハードアクションものを連発した(東映Vアニメの作品群については、以前、ブログでタイトルをまとめた事がある。編集長メモの「【雑談】東映Vアニメ年表(暫定版)」だ)。
 『湘南爆走族 —残された走り屋たち—』の監督は西沢信孝、作画監督は西城隆詞。アニメーション制作は、東映動画(現・東映アニメーション。制作協力でクレジットされている)。西沢信孝は『湘南爆走族11』では総監督、『湘南爆走族12』では監修と、役職が変わってはいるが、シリーズ完結まで参加。西城隆詞も同様だ。第1作だけでなく、以降の作品も同様だったはずだが、原作の数話分の内容を50〜60分の作品にまとめている。映像的には凝ったところもあるが、基本的にはTV作品よりも少しグレードが高いくらいだった。
 ではあるが、理想的な映像化だった。原作のよさを活かして、ハードな展開は徹底的にハードに、クサいドラマはきっちりクサく、ギャグはちゃんとギャグに。立派なエンターテインメントだった。実に東映動画らしい作品だったし、西沢信孝らしい仕事だった。「この人に話を聞きたい」で、西沢信孝は「ほとんど制約なく、自分の意のままにやらせてもらえた」「非常に満足してますよ、この作品に関しては」と語っている(「この人に話を聞きたい」で、彼が登場したのは第28回。単行本「この人に話を聞きたい 1998−2001」に収録されている。……ちょっと宣伝デシタ)。
 自分自身の事で言えば、リリース時には、このタイトルにまるで興味がなかった。暴走族物には興味がなかったし、自分達に向けて作られた作品でないと思っていたからだ。それが何かのきっかけで、たまたま観たら、これが面白かった。暴走族の部分には、今ひとつ馴染めなかったけれど、青春ものの部分に惹かれた。そのあたりの事については、次回で。

第336回へつづく

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(10.03.29)