アニメ様365日[小黒祐一郎]

第331回 『バリバリ伝説』

 オリジナルビデオアニメという言葉の「オリジナル」には、ビデオ用に作られた作品という意味だけではなく、マンガや小説などの原作が存在しない「オリジナルアニメ」の意味もあったと思う。事実、OVA初期を代表するタイトルは、ほとんどが「オリジナルアニメ」だった。だから、この頃、雑誌で連載されている人気マンガがOVAになるのは、ちょっと違和感があった。『バリバリ伝説』もそんな違和感を感じたタイトルのひとつだ。そんな原作ものだったら、TVでやればいいじゃないか、と思ったわけだ。ところが実際に観たら、よくできていたし、面白かった。それから、OVAならではの作品だとも思った。
 『バリバリ伝説』は、しげの秀一の同名原作を映像化した作品だ。原作は「週刊少年マガジン」で連載されていた人気マンガだ。主人公は高校生の巨摩郡(グン)で、ジャンルとしてはオートバイものだ。OVAは全2巻で、1986年5月10日に『バリバリ伝説 PARTI 筑波篇』が、12月16日に『同 PARTII 鈴鹿篇』がリリースされた。2作とも50分ほどの作品だ。監督は『PARTI 筑波篇』が上村修、『PARTII 鈴鹿篇』が池上誉優。作画監督は古瀬登。脚本は『PARTI 筑波篇』は渡邊由自が、『PARTII 鈴鹿篇』は渡邊由自、渡辺麻実の2人がクレジットされている。アニメーション制作はスタジオぴえろ(現・ぴえろ)。
 『PARTI 筑波篇』ではグン、ヒロインの伊藤歩惟(アイ)、グンのライバルである聖秀吉(ヒデヨシ)の出逢いが描かれ、『PARTII 鈴鹿篇』ではグン達が鈴鹿4時間耐久レースに参戦する。物語に関しては、原作途中までの内容を圧縮したかたちだったはずだ。『PARTI 筑波篇』も悪くはないのだけれど、『PARTII 鈴鹿篇』はずば抜けて面白かったし、見応えがあった。
 『PARTII 鈴鹿篇』は、ヒデヨシが死ぬまでの物語だ。彼はグンとコンビを組んで、4時間耐久レースに出場する事になった。そのレースで、2人は最初、ライバル意識をぶつけあっていたが、ヒデヨシはグンを信じて走り、グンはそのヒデヨシの想いを受け止める。闘志に火がついたグンは、猛烈な追い上げで、勝利の栄冠を手にする。レース後、ヒデヨシには大きなレーシングチームから専属ライダーにならないかという誘いがくる。ヒデヨシとグンは、よく峠で走っていた。街道レーサーを卒業する事にしたヒデヨシは、峠でグンと最後の勝負をするが、その途中で事故に遭い、命を落とす。物語を時系列順に並べると、以上のようになる。
 ただし、本作は、4時間耐久レース後、大手のレーシングチームから専属ライダーにならないかという誘いがきたところから始まり、次がグンとの街道レースのシークエンスになる。そのシークエンスで、ヒデヨシが死ぬ寸前に回想に入る。4時間耐久レースへの出場が決まるところから、優勝までを回想として描き、ヒデヨシが死ぬシーンに戻るというトリッキーな構成。つまり、物語の大半を、死ぬ前に幻視した走馬燈として扱ったわけだ。回想の中で、ヒデヨシが、プロのレーサーを目指すきっかけになった両親の死を回想として描くという「回想中回想」まであった。
 グンとヒデヨシのキャラクターが魅力的だし、ドラマも面白い。それがギュッと圧縮されている感じもよかった。それが、死ぬ寸前の走馬燈というかたちになっているために、より一層ドラマチックな仕上がりになっていた。また、ヒデヨシの死に至るまでに、死を連想させる描写を何度か挿れているのも効果的だった。
 本作は演出も作画も、全体に丁寧であり、特にバイクの描写が素晴らしい。バイクが走るシーンは、スピード感も、臨場感も見事なものだった。背景動画を多用して表現しており、背景動画カットの多さも凄いのだが、しかも、それがきれいによく動いている。惚れ惚れするほどのかっこよさだった。中でも、インパクトが強烈だったのは、回想に入る直前。転倒したライダーを、ヒデヨシが避けるカットだ。猛スピードとはこういう事だと言わんばかりのスピード表現と、緊迫感が素晴らしい。今観直しても、この部分は息を飲む。
 この頃のOVAでメカアクションの作画がいいものは、ほとんどが個々の原画マンが自分の持ち味で勝負しているかたちであり、作画に凸凹がある場合が多かった。しかし、『PARTII 鈴鹿篇』のバイクシーンは、全編を同じテイストで動かしており、それなのに過剰に動いていた。そういった作りも新鮮だった。
 『PARTII 鈴鹿篇』は、物語もビジュアルも充実していた。OVAらしい作品だと思ったのは、凝ったストーリー構成と、バイク描写の秀逸さゆえだった。観返すと、OVA『バリバリ伝説』は、どう考えても、長い物語の途中までを映像化したものなのであり、未完のまま終わっている。だが、当時は『PARTII 鈴鹿篇』があまりにも充実した仕上がりだったので、満足してしまい、続きを観たいとも思わなかった。

第332回へつづく

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(10.03.23)