アニメ様365日[小黒祐一郎]

第317回 僕がフィギュアを苦手な理由(番外編11)

 DVD BOXを買って、キャラクターやロボットのフィギュアが特典としてついてくると困ってしまう。メーカーさんは、アニメファンなら、誰でもフィギュアが好きだと思っているようだ。それから、知人がガシャポンのダブリ分をくれる事がある。「ほら、小黒さん、これあげますよ」と言ってニコニコしながら、僕に手渡す。彼らは、僕がフィギュア好きである事を疑ってもいない。だけどね、僕は苦手なんですよ、フィギュアが。というか、アニメやマンガの立体物が苦手だ。今まで、自分のためにフィギュアを買った事がない。『機動戦艦ナデシコ』の仕事をしている時に、メーカーの方に、ゲギガンガーのソフビ人形をいただいた。自分で所有しているのはそれだけだ。
 子どもの頃は、怪獣のソフビ人形を集めていたし、小学校の頃は、戦車や自動車のプラモデルを作っていたけれど、それもその年齢まで。『マジンガーZ』本放映中に、同級生がジャンボマシンダーや超合金を親に買ってもらっているのを知って、なんて子どもっぽいんだろうと思った(小学生の時に友達を「子どもっぼい」と思った僕が、いまだにアニメを観ているわけだけど、それは別の話)。高校時代にガンプラブームがあった。同級生は、昼休みにこっそり学校を抜け出して、ガンプラを買うために近所の店に走っていた(TV『うる星やつら』の立ち食いの話を観ると、その友達を思い出す)が、僕はまるで関心が持てなかった。
 同年輩のアニメ好きに、フィギュアなどの立体物の好きな人が多い事を知ったのは、20歳を過ぎてからだ。濃い人の中では、むしろ自分は少数派なのかもしれないと思うようになった。一度、フィギュア好きの友人に「そんなもの集めてどうするの?」と聞いた事がある。そうしたら「触って楽しむんだ」という返事が返ってきた。ますます分からなくなった。逆に「どうして、あなたは立体物に興味がないの?」と問い詰められた事もある。単純に趣味の問題なので、フィギュアの存在を否定はしないし、フィギュア好きな人にも文句は言わない。ただ、DVDやBlu-rayの特典にフィギュアをつけるのはやめてほしい。処分に困るし、それでDVDソフトの価格が上がってしまうのも納得できない。
 自分がフィギュアが好きになれないのは、作りが稚拙だからだろうと思っていた。極端な事を言えば、1980年代に僕が見かけた(そんなに沢山見たわけではないが)アニメキャラクターのフィギュアは、映像の中のアニメキャラと同一のものだとは思えなかった。子どもの頃のジャンボマシンダーにしても同様だ。しかし、フィギュアの出来がよくなり、アニメのキャラクターそっくりなものがリリースされるようになっても、それを所有したいと思うようにはならなかった。今では、あまりの出来のよさに感心するものもあるのだが、たとえ購入しても、僕は10分も経たずに飽きてしまうだろうと思う。
 ここまで立体物に興味がないと、どうしてそうなのか自分で気になってくる。最近になって、理由が分かった。要するに自分は、映像の中でキャラクターが動き、セリフを口にすることで、それがまるで生きているかのように感じられるところが好きなのだ。演出や作画の力で、描かれた絵でしかないキャラクターが本当にいる人間のように思える。全てが作りものである映像の中に、存在感が感じられるのに感動する。極端な事を言えば、それが好きだからアニメを観ている。
 映像の中にいるキャラクターに存在感が感じられる事に、あるいは、平面の画に立体感や質感を感じる事に悦びを見出しているのだから、映像の外にキャラクターが存在していても、嬉しくないという事だ。こんなふうに言うと、極論の人みたいだけれど、本当にそうなのだから仕方がない。

第318回へつづく

(10.03.02)