アニメ様365日[小黒祐一郎]

第293回 『天空の城 ラピュタ』続き

 『天空の城 ラピュタ』には「人間と自然の関係」についての問題意識が込められている。結果として単純明快な冒険活劇にならなかったのは、そういった重たいテーマを扱ったためとも言われている。僕も公開時に、そうなのだろうと思った(今はそういったテーマを扱いつつ、もっと活劇の部分を押せたのではないかと思っている)。また、問題意識があったからこそ、単なる冒険活劇で終わらず、厚みのある作品になったという評もある。
 アニメージュが編集した「劇場アニメ70年史」の本作解説を引用しよう。『ラピュタ』について詳しいアニメージュのスタッフが書いたものだ(念のため記しておくと、鈴木敏夫編集長の原稿ではない)。


[解説]「ナウシカ」に続く宮崎駿原作・脚本・監督作品。企画当初は単純な冒険物語だったが、脚本・絵コンテと積み上げていくうちに、やはり現代性を色濃く反映して「人は大地と離れて生きられない」とのシータの叫びで、冒険物語に強烈なテーマ性をつけ加えるに至った。落下、追っかけ、戦闘、崩壊と、ありとあらゆるアクション、スペクタクルシーンに満ちた超豪華大作との評価も高い。'86年度「大藤賞」「文化庁優秀映画」「ぴあテン第1位」他受賞多数。


 後半の「……超豪華大作との評価も高い」は、さすがに内輪誉めすぎると思うが、「……とのシータの叫びで」の部分が素晴らしい。実際に宮崎監督が、劇中のシータの想いに引っ張られたのかどうかは知らないが、彼が初期の作品コンセプトとテーマ性の間で葛藤した事を、巧みに表現した文章だ。僕は「劇場アニメ70年史」で、あらすじと解説の原稿をまとめる仕事をしていたのだが、編集作業中にこの原稿を読んで、腑に落ちるものがあった。
 アニメージュの1988年2月号(vol.116)に「保存版 宮崎駿完全作品リスト」という特集がある。制作中だった『となりのトトロ』関連の記事で、アニメーター時代から最新作まで、宮崎駿が参加した全作品について解説するというものだ。編集と執筆を、僕が担当した。個々の原稿は短いものだ。『ラピュタ』については、以下のように書いた。


 映画以前にはいかなる形でも原作が存在しなかった、宮崎監督としては初の完全オリジナル劇場作品である。飛行石や天空の城といったロマンティックな道具だての冒険活劇だが、リアルな手ざわりの作品で決して夢物語ではなかった。主人公パズーもヒーローではなく、ふつうの少年だった。


 うわっ、署名原稿でもないのに、自分の意見を出しまくりだ! 「決して夢物語ではなかった」という個所に、この作品に対する不満が現れている。同じページの他のブロックで、この時期の宮崎作品について「それ以前の作品に比べると明らかにテーマ性が強くなり」「キャラクターのとらえ方や、世界観、演出などいろいろな点でリアル指向にむかっている」「映画作家・宮崎駿として作品の幅が広くなってきたのだ」などと書いており、それを受けるかたちの原稿ではある。
 また、同特集のまとめとして、署名原稿でコラムを書いている。そちらでは『風の谷のナウシカ』と『ラピュタ』について「モチーフや舞台などのイメージはさらに強烈なものとなり、テーマがはっきりとおしだされたそれは“一歩前進した宮崎作品”」として、その上で「俗っぽいのをもう1度見たいとも思っています」と締めている。もっとエネルギッシュで、猥雑なフィルムを作ってほしいと思っていたのだ。23歳の僕は、率直すぎるくらいに率直だ。
 「保存版 宮崎駿完全作品リスト」の編集部側の担当は、鈴木敏夫編集長だった。敏夫さんは、ちょっと当惑しながらも「こういう考えの人間がいるのは分かっている」と言って、その原稿にOKを出した。怒られるかもしれないと思って書いた原稿だったので、チェックを通ったのが嬉しかった。若造が生意気にも「あの原稿にOKを出すなんて、敏夫さんは大物だ」と思った。

第294回へつづく

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(10.01.26)