アニメ様365日[小黒祐一郎]

第242回 『機動戦士Zガンダム』続き

 放映が進むにつれて、僕の気持ちは『機動戦士Zガンダム』から離れていった。設定的には『機動戦士ガンダム』第1作のその後の物語だったが、作品としては別物だった。ドラマのタッチも、描かれている人間像も、映像のニュアンスも、演出も、全てが違っていた。つまり、同じ『機動戦士ガンダム』シリーズの作品ではあるが、スタッフが描こうとしたもの、伝えようとしたものはまるで違ったものだった。放映開始前後には友人と『Zガンダム』の話をする事があったが、しばらくすると、それもなくなった。
 期待していたアムロの再登場も、大きな高揚感を生む事はなく、最終回ですでに死んでるキャラクター達の亡霊(設定としては亡霊ではないのだろうけれど、亡霊にしか見えない)が大勢現れて、カミーユを応援するにいたっては、そのあまりの甘ったるさに苦笑した。「これじゃ『ヤマト』と一緒だな」と思った。同じように感じたファンは多かっただろうが、本放映時に楽しめたのは、カミーユと強化人間フォウ・ムラサメとのドラマくらいだった。全話録画はしたが、毎週放映日に観るような意欲は維持できず、当時見逃したエピソードも多かったはずだ。
 僕が『Zガンダム』で一番苦手だったのは、描かれている人間関係がギスギスしており、潤いが少ない事だった。リアルだとか、ミリタリーだとか言っても、第1作には、アムロのマチルダに対する淡い想いに代表される潤いがあった。『Zガンダム』の息苦しくなるような雰囲気も心地よくはなかった。個々の戦闘や作戦もカタルシスが弱かった。観ていてスカっとする場面は数えるほどしかなかった。当時の僕は21歳で、もうアニメのキャラクターに憧れるような年齢ではなかったが、格好いいと思ったり、気持ちを重ねたりできるキャラクターが少ないのも辛かった。シャアですら、格好よくはなかった。彼がカミーユに殴られて「これが若さか……」と想う場面がある。あのシャアが黙って殴られるのもその言葉も、実に格好悪かった。第1作でも彼は自嘲的な言動が多いのだが、それとは意味が違った。若者の勢いに圧倒されているのだ。TVの前で「なんだそりゃあ」と思った。
 『Zガンダム』を観て、自分が『機動戦士ガンダム』第1作の何が好きだったかに気づいた事もある(ただし、気づいたのは放映が終わって随分経ってからだ)。第1作は大人が戦闘をしているところに、子供達(=ホワイトベースのクルー)が参加する物語だった。大人の戦争に子供が参加して、大人を越える活躍をするという分かりやすい娯楽の構造がそこにあった。そして、大人のキャラクターの多くに、第二次世界大戦頃の兵士の雰囲気があった(ランバ・ラルや黒い三連星にその色が濃い)。それも、彼らの戦争が、大人の戦いである事を強調していた。戦争が戦争である事に説得力を持たせていた。少なくとも僕は『ガンダム』のそういったところが好きだった。
 それに対して『Zガンダム』は敵も味方も、若い人間が中心に戦っていた。敵のボスが、ハマーンやシロッコのような若者であるのは、ファンの方には申しわけないけれど、非常にチャチく感じられた(実際に第1作に比べれば、描かれている戦いの規模は小さいのだが)。これもよく言われる事だが、連邦軍、エゥーゴ、ティターンズ、それと、後に登場するアクシズの関係が分かりづらいのも、物語に手応えが感じられず辛かった(自分は、放映時にそのあたりの関係をきちんと把握できていなかったはずだ)。
 ここまで読んで「それが『Zガンダム』のいいところじゃないか」と思われた方もいるはずだ。人間関係がドライである事を格好いいと思ったファンもいただろうし、組織が乱立する複雑な物語に見応えを感じた人もいるのだろう。確かに、僕は——そして、おそらくは同年輩の『ガンダム』第1作ファンの多くが、第1作と比較し、第1作と違っていたために、一層評価が低くなっていた。だが、たとえ第1作とまるで違っていても、それを越える魅力が感じられれば、もっと楽しんでいたはずだ。少なくとも僕には、それが感じられなかった。
 そんなふうに思っていながらも、前回(第241回 『機動戦士Zガンダム』)書いたように、「こんなのは『ガンダム』じゃないよ!」と頭ごなしに否定する事もできなかった。それについては、次回で。

第243回へつづく

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(09.11.04)