アニメ様365日[小黒祐一郎]

第207回 作画マニアの『北斗の拳』

 『世紀末救世主伝説 北斗の拳』は作画マニアにとっても注目の作品だった。ローテーションで参加しているレギャラー作画スタッフの仕事もそれぞれ個性的だったし、人気アニメーターがゲスト的に参加するというサプライズもあった。原作の原哲夫の画が描きづらかったのか、絵柄に関してはシリーズを通して、見事なくらい統一されていない。キャラクターデザイナーである須田正己にしても、絵柄が変わり続けており、1話のケンシロウと終盤のケンシロウではまるで別人だ。超ハイクオリティ作画もあれば、野暮ったい作画もあった。その凸凹の凄まじさも楽しかった。
 レギュラーの作画メンバーで、見応えがあったのは、やはり須田正己。彼の作監回は、描き慣れたシリーズ後半の方がずっといい。特に終盤のギトギトした感じが好きだ。シリーズ初期は硬いところがあった。無理に原作の絵柄に合わせようとしていたのではないかと思う(須田正己はリアルな作品を得意としていたが、彼が得意とするリアルと、『北斗の拳』のリアルは違ったのだろう)。『北斗の拳』と言えば、羽山淳一の名前が浮かぶが、彼はこのシリーズではまだ新人であり、原画になりたてだった。参加した話数は少なく、参加しても名前が出ていない場合がある。このシリーズでも作画を担当したパートは相当に濃いのだが、彼の仕事を堪能できるのは『北斗の拳2』の方だ。
 各話の作画チームで、シリーズを通じて目立っていたのが、斉藤浩信、高鉾誠、金子寛俊のトリオだった。彼らは荒木プロダクションに所属していた若手であり(ただし、『北斗の拳』の途中で3人ともフリーになっている)、画風が非常に独特だった。細かくタッチを入れ、緻密に描いていくタイプで、キャラクターはどちらかと言えば端正。アニメ『北斗の拳』らしかったかどうかは別にして、彼らの作画は非常にリアルだった。その他大勢の、名もなきキャラクターを、異様に写実的に描いていたのも印象的だ(極めて余談だが、当時、僕の友達に筋肉マニアがいて、彼は『北斗の拳』のファンでもあった。彼によれば、原哲夫は腕の筋肉の描き方が独特で、アニメ版で唯一それを再現しているのが荒木プロチームだったそうだ)。
 カナメプロダクションの担当回が数回あり、それが作画マニアの間で話題になった。シャープなキャラクターと、ド派手なエフェクト、外連味たっぷりのアクションで、まるでロボットアニメのようだった。ノンクレジットである場合が多いが、いのまたむつみ、梅津泰臣、森本晃司、菊池通隆、佐野浩敏、田村英樹といった人気アニメーター、アクションアニメーターが参加しているのも、カナメプロ回の見どころだった。アクションシーンの見せ場は格好よく、しかも、よく動いていた。
 『北斗の拳』全編で、作画に関して一番話題になったのが、49話「史上最強の戦い ラオウVSケン! 死ぬのは貴様だ!!」だろう。演出・作画監督が板野一郎で、原画としてクレジットされているのが結城信輝、本谷利明。トキに動きを封じられていたケンシロウが、自らの意志の力で封印を解き、ラオウと戦うエピソードだ。中盤の作画を結城信輝が担当しているのだが、これが素晴らしい。描き込みも大変なものだし、リアルだし、筋肉の描き方も凄まじいのだが、それだけでなく、作画の力で担当シーンをより劇的なものにしているのがいい。彼が作画したパートは、今観返しても興奮してしまう。要するに描き手の「思いが込められた画」であり、それがドラマとマッチしたのだろう。僕にとって、『北斗の拳』最高の名場面だ。
 56話「美しき拳士レイVSユダ! 男の花道に涙はいらぬ!!」は、南斗水鳥拳のレイと南斗紅鶴拳のユダが戦うエピソード。演出は東映動画を代表するベテランである勝間田具治、作画監督が桜井美知代、原画にはスタジオジャイアンツが参加した豪華なチーム編成。原画にクレジットされている摩田竜之は、摩砂雪、志田正博、音無竜之介の合体ペンネームだ。この回の桜井美知代は、絵柄が凄まじく濃い。原作の濃さとも、須田正己の濃さとも、結城信輝の濃さとも違う。耽美系の濃さだ。レイは人気の高い美形キャラであり、ユダは南斗随一のナルシスト。2人の決着が着くエピソードに相応しい作画だった。Aパートではケンシロウと、ユダの部下であるコマクの対決を摩砂雪が描いており、彼らしいトリッキーかつシャープなアクションが炸裂。これも見どころだった。
 アニメ版ではレイ登場から、彼の死までが第2部と呼ばれている。第2部はカナメの参加回も多く、49話、56話も、第2部のエピソードだ。結城信輝も、桜井美知代も、スタジオジャイアンツも、それぞれその1話のみの参加。55話「死に行くのかレイ! 今・男はここまで美しい!!」では『森は生きている』、劇場版『1000年女王』で知られる山口泰弘が作画監督を務めているが、彼の参加もその55話のみだった。そういったゲスト的な参加が多かった事もあり、第2部にはお祭り感があった。ドラマ的にも、ここで一度ピークを迎えた印象がある。これほどのメンバーが集まったのは、当時の彼らにとって『北斗の拳』が「一度は参加してみたい作品」だったためでもあるのだろう。
 第3部に入るとスタジオNo.1の越智一裕が、演出や作画監督として参加。ハッチャケた感じはなかったものの、彼らしい味が出ており、これもファンにとって嬉しいサプライズだった。

第208回へつづく

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(09.09.09)