アニメ様365日[小黒祐一郎]

第127回 『幻魔大戦』前夜

 1983年3月にも多数のアニメ映画が公開された。『ドラえもん』や「東映まんがまつり」もあったが、アニメファンの注目は『幻魔大戦』『CRUSHER JOE』『宇宙戦艦ヤマト 完結篇』の3本だった。『幻魔大戦』『CRUSHER JOE』の公開が3月12日、『宇宙戦艦ヤマト 完結篇』の公開が3月19日。いずれも話題作であり、アニメ雑誌でもこの3本がセットで取り上げられる事が多かった(春のアニメ映画として、2月公開の『うる星やつら オンリー・ユー』も入れて、4本をまとめた特集もあった)。
 僕はこの3本の中では『幻魔大戦』に一番期待していた。とにかく話題の多い映画だった。まず、角川映画のアニメ進出第1弾であった事。人類が破滅するかもしれないハルマゲドン(最終戦争)をモチーフにした物語である事。劇場版『銀河鉄道999』を手がけたりん・たろう監督による大作映画である事。時代の最先端であった大友克洋がキャラクターデザインを務めている事。アニメ誌等で、金田伊功が参加しているという情報も流れていた。
 角川映画である事は重要だ。当時、僕は実写映画にはあまり興味がなかった。邦画に関して言えば、自分から積極的に観に行ったのは角川映画くらいだった。逆に言えば、そのくらい角川映画はイケていた。当時はイケてるなんて言葉はなかったが、当時の事を思い返すと、イケてるという表現がピッタリだった。大友克洋はすでに「ショート・ピース」や「気分はもう戦争」といった単行本を出しており、1982年末に「AKIRA」の連載がスタート。そんなにコアでないマンガファンも「大友克洋って凄い!」と思うようになった頃だと思う。僕は、彼の単行本を数冊は読んでいたし、雑誌「バラエティ」で連載していたイラストエッセイ「饅頭こわい」も大好きだった。「角川映画」+「りん・たろう」+「大友克洋」で、ハルマゲドンを描くのだ。期待しないわけがない。
 公開前に雑誌等で発表されたビジュアルの数々も、斬新なものだった。ワクワクしながら、アニメ雑誌や、「バラエティ」から出た増刊号のページをめくった。大友デザインでは、特にベガが素晴らしかった。それまでのロボットデザインに関するイメージを覆すくらいの新しさだった。デパートの催事場か、劇場の前だったのか忘れてしまったが、公開前に『幻魔大戦』の予告編ビデオがエンドレスで流されていた事があった。僕は、そのあまりの格好よさに痺れて、足を止めてしばらくビデオを観続けた。それは予告編ではなく、本編のダイジェストだったのかもしれない。そこで観たビデオには、火焔龍のカットがいくつかあったと記憶しているのだが、DVDに映像特典として収録されている予告編を観ると、火焔龍の映像は1カットもないのだ。
 劇場公開まで、頭の中で、そのビデオの映像を反芻し続けた。そして、期待が膨らんでいった。この映画のキャッチコピーは「ハルマゲドン接近」というものだった。ハルマゲドンというインパクトのある単語が、僕にとっては「今までにない凄いアニメ」という意味だった。
 僕がこの映画が気になっていたのは、小説版「幻魔大戦」を愛読していたからでもあった。『幻魔大戦』の原作は、1960年代に平井和正と石ノ森章太郎(当時・石森)によって、マンガ作品として発表され、その後、平井と石ノ森が、それぞれ続編や外伝を発表。1979年から、角川書店の雑誌「野性時代」で、平井の手による小説版「幻魔大戦」が連載されていた。僕は中学の頃から国内のSF小説を読んでいて、星新一に始まり、筒井康隆、小松左京と読み進み、高校3年の頃は平井和正の作品を読んでいた。小説版「幻魔大戦」は文庫で全20巻にもなる大長編だった。僕は、最初は文庫で読み、途中からは「野性時代」の連載で読み、それが文庫されると、また文庫を買った。映画化された際に、文庫1巻から3巻のカバーイラストの描き手が、生頼範義から大友克洋に変わった。僕は大友克洋のイラスト欲しさに、また1巻から3巻を買い直した。まんまと角川書店に乗せられていた。
 小説版「幻魔大戦」は途中からSFアクションものではなくなり、GENKENという組織の話になっていった。愛読していたわりには、その内容をほとんど記憶してないのだが、とにかく話がなかなか進まなかった。GENKENのメンバーが会話ばかりしていたはずだ。それについては「あれ? おかしいなあ」と思ったが、小説として面白く読めたので、読み続けていた。小説版「幻魔大戦」が完結したのは、劇場版『幻魔大戦』公開直前だったようだ。小説版は物語としては、明らかに途中で最終回を迎えており、「この後、どうなるんだ?」と思っているところで、劇場版の公開となったわけだ。

第128回へつづく

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(09.05.19)