アニメ様365日[小黒祐一郎]

第81回 『機動戦士ガンダム』(劇場版)

 1981年のビッグイベントのひとつが、劇場版『機動戦士ガンダム』の公開だった。第1作が公開されたのは1981年3月14日。その3週ほど前の2月22日、新宿駅前に多くのファンを集めて「アニメ新世紀宣言大会」というイベントが開催された。『ガンダム』のムーブメントを語る上で重要なイベントだが、どういうわけか、僕はこの催しに参加していない。1981年なら、休みのたびにあちこち出かけていたはずで、行っていてもおかしくないのだが。行かなかった理由が思い出せない。何か他に用事があったのだろうか。その代わりというわけではないが、劇場版第1作は初日に観に行っている。
 劇場版『機動戦士ガンダム』はTVシリーズに、新作カットを加えて再編集したもので、今回取り上げる第1作『機動戦士ガンダム』、第2作『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』、第3作『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編』の3本が製作された。この3本で、TVシリーズのストーリーの大筋はひととおり追っており、また、総集編ものにありがちなせわしなさは、ほとんどない。「『ファーストガンダム』を観返すなら、TVよりも劇場版」というファンも多いだろう。
 アニメブームの頃の劇場作品は、TVシリーズから派生したものが多かった。アニメファンの人気が集まり、それを受けて映画化されるというパターンだ。僕はそういった映画化について「自分達が好きになったから、この作品は映画になったんだ」という、ちょっとした誇らしさを感じていた。『ガンダム』の第1作については、それを強く感じていた。なぜなら『ガンダム』が本放送において、途中打ち切りになったタイトルだったからだ。「打ち切りになった作品が、映画になったのは、僕達が応援したからだ」という意識があったのだ。打ち切り作品が映画化されるのは『宇宙戦艦ヤマト』も同様であり、ある意味では、アニメブームの定番パターンだった。その誇らしさは、アニメブームならではの気分であり、それを感じたのは『ガンダム』が最後だったはずだ。その後も、打ち切り作品の映画化はあるのだが、それらの映画化にはルーティンなものを感じた。
 だから、僕は劇場版『機動戦士ガンダム』に関して、作品を鑑賞するというよりは、イベントに参加するという意識の方が強かった。イベント的なフィルムと感じたのは、内容に関して、TVシリーズから大きな変更がなく、観ていて驚くような事がなかったためでもある。第1作はTVシリーズの1話から13話までに相当する内容で、「ああ、なるほど、ここは順番を入れ替えたのか」とか、「あそこはカットされたんだなあ」と確認しながら観た。映画的な満足感に関しては、あまり期待してなかったのだが、終盤の展開を、強敵グフ登場からギレン・ザビの演説の流れで上手にまとめていて、見終わった後に「予想していたよりは映画らしかった」と思った。
 TVシリーズからの変更点で印象に残ったのは、メカの設定に関するものが多い。一番印象的なのが、ガンダムの大気圏突入の方法だ。TVシリーズではガンダムは耐熱フィルムを使っていたが、それは「本当に大気圏突入に耐えられるのか?」と思うような、頼りないものだった。劇場版では、シールドとエアーを使う方法に変更。こちらの方がビジュアル的にも格好いいし、説得力もあった。それから、TVシリーズにはガンダムハンマーという武器があった。あまりに原始的なもので、ガンダムに相応しくないと思っていたのだが、それがなくなったのは正直ホッとした。
 劇場版『機動戦士ガンダム』の新作カットは、安彦良和が第一原画を描きおこすかたちで作成されている。第1作の新作カットは量的には少なく、ところどころに挿入される程度だったが、その美麗さが嬉しかった。色指定が違うのか、影の入れ方が違うのかは分からないが、新作カットははっきりとTVシリーズのカットと見た目が違っていて、見分けがついた。新作カットが、前後のカットと比べて派手になっていたために、笑ってしまったところもあった。新作カットで一番嬉しかったのは、大気圏突入の後で、ガンダムが無事だと分かり、セイラとフラウが喜ぶカットだ。笑ってしまった新作カットはいくつかあるが、そのひとつが、地上での対シャアザク戦での予備のビームライフル射出から、それをガンダムが受け取り、上昇するまでの数カットだ。観返すと、そんなに前後の映像から浮いてはいないのだが、当時は、少しの差が気になるくらい集中して観ていたのだろう。
 セリフや演出に関して、気になった点は2ヶ所あった。ひとつは2度目のマチルダ登場時に、会話の中に「ニュータイプ」という単語が出ている事。TVシリーズでは後半になって、急にニュータイプの概念が浮上するかたちになっていたので、バランスをとるために先にこの言葉を出したのだろう。そういった作り手の意図は理解できたのだが、初見時には、歴史が改竄されたような気がした。
 もうひとつが、地上でガンダムが空中戦をやるシーンが、TVシリーズと微妙に違った事だ。TVシリーズでは、9話「翔べ!ガンダム」にある場面だ。僕がTVシリーズで、一番好きなのがここだった。前半で駄々をこねていたアムロが、今まで考えていた戦い方を披露する。それが、ガンダムのジャンプ力とロケットノズルを使った空中戦だった。アムロの活躍に、ホワイトベースの仲間達も喜び、「アムロのやつ、凄いじゃないか!」と褒め讃える。アムロのヒーロー的な活躍も嬉しかったが、それと同時に、ホワイトベースの仲間達の心がひとつになった感じも心地よかった。そのシーンはBGMも高揚感があった。9話は本放送時に録音して(録画ではなく、録音。カセットテープにTVの音声を録っていたのだ)何度も聴いていたので、セリフやBGMを記憶していた。それが劇場版ではBGMが変わり、アムロを褒め讃えるセリフも少なくなっていた。話の構成が違ったものになり、それにともなって演出意図が変われば、セリフやBGMが変更されるのは仕方がない。それも頭では分かるのだが、違和感を感じた。これは良いか悪いかの問題ではなく、単純に僕の個人的な思い入れの問題だ。

第82回へつづく

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(09.03.09)