アニメ様365日[小黒祐一郎]

第73回 『六神合体ゴッドマーズ』

 『六神合体ゴッドマーズ』の原作は、横山光輝の「マーズ」である。アニメ化される前に、その「マーズ」に目を通した事があった。原作はアンハッピーエンドのラストシーンが衝撃的で、アニメ化を知った時に、あんな話をアニメでやるのか? と思った。いざ始まってみると『ゴッドマーズ』は、「マーズ」の設定やネーミングの一部を使っているが、ほぼアニメオリジナルの内容だった。原作には後述するクラッシャー隊も、マーグも登場しない。主人公が操るロボットであるガイヤー(原作ではガイアー)が、宇宙人によって、地球を破壊するために作られたのは同じだが、原作では主人公とガイアーが、六神体と呼ばれるロボットと戦う。それに対して『ゴッドマーズ』ではガイヤーを含む六神ロボが合体して、ゴッドマーズとなってしまう。ラストに関しても正反対で、原作では地球人が自分自身の愚かさのために滅んでしまうのに対して、『ゴッドマーズ』は全世界の人々の想いがひとつになって、その力で悪を倒すのだ。シリーズ序盤で、これは原作とは全く違うものだと納得していたので、本放送時にはその最終回にも驚かなかった。改めて考えてみると、これは大変な改変だ。なお、この改変に関して横山光輝は快諾しており、ただ、アニメスタッフに「娯楽の心は失うな」と注文を出したのだそうだ。
 『鉄人28号(新・鉄人)』の後番組として、1981年10月2日から1982年12月24日まで放映された作品である。『ムーの白鯨』『新・鉄人』に続いて、チーフ・ディレクターは今沢哲男。シリーズ構成は藤川桂介。『ゴッドマーズ』のドラマには、彼のカラーが色濃く反映している。キャラクターデザインと全話の作画監督を務めたのは、当時弱冠23歳の本橋秀之。彼が描いた美麗なキャラクターは、多くのファンを魅了。本作になくてはならないものだった。
 ギシン星のズール大帝は、地球を破壊するために、マーズという名の赤ん坊を送り込んできた。その赤ん坊は、明神夫妻によってタケルと名づけられ、地球人として育てられた。成長し、地球を護るクラッシャー隊の一員となったタケルは、六神ロボと共にギシン星の刺客と戦う事になる。ガイヤーには、反陽子爆弾が組み込まれており、タケルが死ぬとその爆弾が起動してしまう。タケルの死は、地球の破壊を意味していたのだ。また、マーズにはマーグという名の双子の兄がおり、マーズとマーグとのドラマが第1部「ギシン星編」の核となっていた。「ギシン星編」は25話で終了し、その後、第2部「マルメロ星編」、第3部「地球編」と続いた。
 マーグは王子様的なところのあるキャラクターであり、女性ファンに絶大な人気を得た。マーズとの関係性や悲劇的なところもよかったのだろう。マーグが死んだ時には、日本テレビで葬式が行われ、後に彼を主人公にしたOVAが作られた。ロボットアニメではあるが、当時は、どちらというと女性の人気が集まった作品として認知されていたはずだ。男性である僕は、マーグのキャラクターにはあまり魅力を感じなかったし、マーズとの関係はくすぐったいと思っていた。この頃から、アニメファンの中で、男性と女性の嗜好の差がはっきりとし始めたのだと思う。
 それでは、『ゴッドマーズ』には男性ファンがいなかったかというと、そんな事はない。女性ファンの盛り上がりが目立っていただけで、男性ファンもいた。LD BOX解説書のお手伝いをした時だったか、DVD BOX解説書を構成した時だったか、忘れてしまったが(僕が解説書を構成したDVD-BOXは、現在発売中の全2巻のバージョンではなく、その前にバンダイビジュアルから出た全3巻のバージョン)、そのBOXの予約をしているのは、実は男性の方が多いのだと聞いたおぼえがある。
 僕は『ゴッドマーズ』をロボットアニメとして好きだった。ロボットアニメとして、非常に完成された作品だったと思う。物語も表現も力強く、洗練されていた。すでに『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』が発表された後の作品であり、勧善懲悪の内容や合体ロボットの設定は、当時としてもアナクロなものだったのだが、むしろ、そういった古典的なロボットアニメを、きっちりと作っているのが気持ちよかった。まず、ゴッドマーズの合体シーンが素晴らしかった。見せ方も、作画も、撮影も凝っていた。画面分割でカットが変わっていく感じも、手が出てくるカットで背景が止まるタイミングもいい。コクピットに座ったタケルは、グルっと頭を回す仕草をするのだが、なぜか彼がエクスタシーを感じているように思えて非常に印象的だった。合体シーンの演出を担当したのは広川和之。ロボットアニメ史の中で、最も見応えのある合体シーンではないかと思う。
 ゴッドマーズに関して「合体した後にほとんど動かない」とよく言われている。事実、大半のエピソードで、合体した直後に、必殺技ファイナル・ゴッドマーズで敵を粉砕してしまう。言語道断なまでの強さだ。ゴッドマーズのデザインが非常に線が多いものだったため、作画をするのが困難であり、登場場面を減らすために、活躍する場面を減らしたという事らしい。これはクオリティを重視した考え方だったと思う。線が多いデザインを無理に動かして、ボロボロのカットを作るよりはずっといい。当時は、そういう無理をやっている作品もあった。『ゴッドマーズ』の戦闘シーンは、ガイヤーを中心とした六神ロボが敵とやりあってから、合体してトドメをさすというのが基本フォーマットだった。ゴッドマーズはほとんど動かないのだが、その代わりにガイヤーはビュンビュンと飛び回り、よく動いていた。動のガイヤー、静のゴッドマーズのコントラストがよかった。詳しくは次回触れるが、『ゴッドマーズ』にはスタジオZ5やスタジオNo.1のメンバーが、作画の主力として参加していた。ガイヤーの軽快なアクションは、作画の見せ場のひとつだった。
 物語に関しては、非常に古典的な作りだった。シンプルではあるが、しっかりと物語が構成されていた。だから、安心して観ていられた。ただ、第2部「マルメロ星編」、第3部「地球編」はやや失速している。マーズとマーグの関係に思い入れはなかったが、やはり、第1部「ギシン星編」が一番楽しめた。基本的には徹底した勧善懲悪だった。ズール大帝は悪の権化であり、抽象的な「悪そのもの」に近い存在だった。主人公達は正義を貫いていた。「愛」とか「奇跡」といった言葉が、物語のキーになっていた。他の作品だったら、白々しくなるような理想的な考えが、セリフになっていた。『宇宙戦艦ヤマト』と同じ「愛の物語」だったのだ。実は、これほどストレートに正義や愛を謳い上げたアニメは、珍しいのではないか。それは『ヤマト』にも参加した藤川桂介の、持ち味だったのだろう。随分と生真面目だなとは思ったが、それをクサいとも、胡散臭いとも思わなかった。おそらくは作品の中で主張が一貫していたからだろう。演出や作画のトーンが、物語と合っていたのもよかった。

第74回へつづく

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(09.02.25)