アニメ様365日[小黒祐一郎]

第49回 まんが画廊

 東京の江古田に、まんが画廊という喫茶店があった。マンガ好きやアニメ好きの若者、あるいは業界の人達が集っていた伝説の店だ。前にも書いたが、僕はこの店にもよく行っていた。だが、常連面してその店の事を語る事はできない。その理由については後述する。
 まんが画廊に初めて行った時の事は、よく覚えている。アニメージュの情報コーナーで紹介されていたのだ。その紹介記事が掲載されたのは、1978年の11月号。隣駅の桜台にあったキャスフ・アニメショップと一緒に紹介されており、学校が早い時間に終わった日に、キャスフとまんが画廊に行ってみた。ちなみにキャスフでは、和光プロダクションが制作していたアニメのセル画等を販売しており、ゲキメーション「妖怪伝 猫目小僧」の撮影素材(要するに、切り絵に棒を張りつけたもの)も売っていたはずだ。それを見て「へえ、こういうモノを撮影していたのか」と思ったけれど、買いはしなかった。買って保存しておけば、自慢できたのになあ、と思う。
 アニメージュの情報コーナーを見て、間を置かずに行ったはずなので、1978年の10月か11月に、まんが画廊とキャスフに行っているはずだ。僕は中学2年生だ。当時の僕にとって、まんが画廊はとてつもなく濃い空間だった。まだ珍しかったビデオデッキがあり、TVアニメの傑作エピソードが流されており、セル画が飾られていた。店のメニューには、オリジナルのミックスジュースがあり、それには「ラナ、草原に祈る」とか「ペリーヌ、朝日に……」とか、メチャメチャな名前がつけられていたと記憶している(ここは記憶で書いている。間違っていたらゴメンなさい)。何度か通ううちに、ラナもペリーヌも飲んだ。同年輩の友達もできた。まんが画廊ではセル画も販売しており、正月に遊びに行ったら「お年玉だよ」と言って、マスターが『機動戦士ガンダム』のセル画をくれた。
 まんが画廊は、何よりも来ているお客さん達が濃かった。さっきも書いたように、マンガやアニメのファンばかりだった。新人のアニメーターさんもいた。そのアニメーターさんがきっかけで、僕は宮崎駿のレイアウトに興味を持つ事になるのだが、それについては数回後で書く予定だ。店内でゆうきまさみを目撃した事もある。誰かに「あれが、ゆうきまさみだよ」と教えてもらったのだ。僕は、ゆうきさんが同人誌で発表したロボットアニメのパロディマンガで、彼のファンになっており、本人を見る事ができて嬉しかった。いまだに、取材などでゆうきさんに会うと、ちょっと緊張してしまう。ロリコンブームのシンボル的存在だった蛭児神建さんとは、何度も話をした。蛭児神さんは気さくな方で、中学生の僕達ともよく話をしてくれた。何かのきっかけで「君もロリコンなんだね」と言われたのを覚えている。僕はその時に中学3年生だったので「僕はそんな年じゃないですよ」と言い返した。まあ、当時のロリコンとは、二次元コンプレックスと同義だったのだが。他にも大勢濃い人達がいて、随分刺激を受けた。後にアニメ雑誌で仕事を始めてから、再会した人もいる。
 さっき、常連ぶって語る事はできないと書いたが、僕が顔を出していたのは、中学2年から高校1年の頃だった。僕や僕の友達が、店に足を運んでいた中では一番若かったのだろうと思う。多分、場の空気を読んでいない子供だったはずだ。それから、僕は販売されるセル画を目当てに通いだしたところがあった。セル画だけが目当ての客は、他のお客さんの迷惑になっていたようだった。つまり、あまりいいお客ではなかった。そういったわけで「僕は、あの伝説のまんが画廊に通っていたんだよ」と胸を張っては言えないのだ。
 それからもうひとつ。前回取り上げた『無敵ロボ トライダーG7』のセル画は、まんが画廊ではなぜかカット袋ごと売られていた。1カット分のセルとタイムシートが入っていて(背景とレイアウトは入っていなかった)300円だったと記憶している。買って開けてみるまで、どんなカットかは分からない。ヒロインの郁絵やかおるのセルが入っていたら大喜び、敵ロボットだったらガッカリだ(出渕さん、ゴメンナサイ)。僕と友人は、駄菓子屋のクジ感覚で何度もトライして、その結果として敵ロボットのセル画を沢山ゲットしてしまった。その後、一緒に買った友達の家に遊びに行ったら、部屋の隅に敵ロボットのセル画が積んであった。僕が『トライダーG7』で真っ先に思い出すのは、その300円のカット袋の事だ。

第50回へつづく

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(09.01.21)