アニメ様365日[小黒祐一郎]

第40回 劇場版『地球へ…』の独創性

 劇場版『地球へ…』は他のアニメと違ったノウハウで作られていた。観た事のないタイプのアニメーションであり、映像的に見応えがあった。原作が連載されていた「月刊マンガ少年」1980年2月号の恩地日出夫監督インタビューに次のような発言がある。「(略)で、アニメーション自体は、それ程凄いものにはならないね、カット数も『銀河鉄道999』の1/3に収まってるし、考え方として映画を作る! アニメのテクニックを使って映画を撮る気でいるからね…!!それはね漫画が動けばアニメか、動けば映画なのか!? という疑問からこの作品へ参加しはじめているからね」(原文ママ)。「アニメーション自体は、それ程凄いものにはならない」とは、古典的な意味でのアニメーションらしい表現には力を入れていないという意味だろうか。重要なのは「アニメのテクニックを使って映画を撮る」という部分だ。事実、恩地監督はそのように撮っている。
 この映画は総カット数が700程度。極端に少ない数字だ。そして、WEBアニメスタイルでのインタビュー記事でも恩地監督が語っているように、芝居が細かい。長回しを多用しており、驚くほどカットを割っていない。しかも、ずっとキャラクターが演技をしている。映画冒頭では、ベッドから落ちたジョミーが、立ち上がり、歩いて、パジャマを脱いで、靴下を履いて、ズボンを履いて、スリッパを履いて、洗面台に歩いてく様子を1カットで収めている。これが端的な例だ。「映画を撮る」とは内容や役者の芝居を含めて言っているのだろうが、テクニックの大きなポイントは、長回しとリアルな芝居だろう。
 最近の押井守監督の発言を引用するなら「カットを割る意味がない限り、そのカットは続くべきなんです」というわけだ(「ANIMESTYLE ARCHIVE スカイ・クロラ 絵コンテ」巻末インタビューより)。30年近く前に、恩地監督はそれを実現していた。『地球へ…』は112分で700カット前後、『スカイ・クロラ』が122分で800カット前後と、総カット数がほぼ同じであるところが面白い。
 『地球へ…』はキャラクターがよく歩く映画だった。他のアニメでは、数歩で手前に来てしまうようなカットでも、秒数と作画枚数を使って、何歩も歩かせていた。印象的なカットを、もうひとつ挙げよう。後半でジョナ・マツカが、キースの部屋に水を持ってくる場面だ。画面奥にあるドアが開いて、マツカが入ってきて、テーブルについているキースの脇を通り過ぎて、画面手前まで歩き、水を置き、戻りながらキースに話しかけ、ドアの手前で立ち止まってキースと会話、ドアから出ていくまでを1カットで処理。ほぼ1シーン1カットだ(部屋に入る前のカットがあるので、厳密には1シーン1カットではない。他の部分で、1シーン1カットはある)。
 そういった歩きのカットは、今観ると、進む距離に対して歩数がちょっと多すぎるのではないかとも感じるが、初見時には「リアルに歩きを作画をするというのはこういう事なのか」と思って感心した。また、歩きが多いと言っても、画面の奥から手前に歩いてくるようなカットが多く、カメラーワークも大胆。ダイナミックさもあり、決して映像的に退屈なものではなかった。
 長回しと歩きの話が長くなってしまったが、『地球へ…』のビジュアルで独創的だったのは、それだけではない。アニメーションキャラクターデザインと作画監督は、タツノコ作品で活躍していた須田正己。原作に比べると、リアルタッチでシャープなデザインであり、映画のムードをドラマチックな方に引っ張っていたと思う。作画の見どころは動きだった。この映画は、実によく動く。さっき触れた歩きだけではない。芝居にしても、アクションにしても、キッチリと丁寧に動かしている。モブシーンも多いのだが、手を抜かずに動かしている。参加したアニメーターの総仕事量は相当に多いはずだ。全体に枚数をたっぷり使っており、フルアニメ的に動いている部分も多い。しかも、日本のアニメ的なテキパキした動きなのだ。それは須田正己の持ち味なのだろう。『地球へ…』の作画は、タツノコリアル作画の理想的な進化形だったのだろうと思っている。
 メカデザインも奇抜なものだった。体制側の宇宙船は、直線的なメカだが、ミュウ達の宇宙船は、貝殻をモチーフにした生物的なラインのデザインだった。これも新鮮だった。既成のイメージを壊す事を提案したのは恩地監督であり、それを受けて、貝殻をモチーフにするアイデアを出したのが土田勇美術監督であったようだ。前々回(第38回 宇宙戦艦と「映画的」)でアニメブーム期には、船舶のかたちをした宇宙船が多かったと書いたが、わざと流行のデザインを外していたわけだ。戦闘シーンの描写も独特で、宇宙船の爆発時に、画面に輪切りにしたレモンのような模様が浮かぶという他にない処理が入っていた。あれは超能力の表現だったのだろうか。美術も、背景の1枚1枚に密度があり、見応えがあった。また、当時のアニメ雑誌の記事を読むと、勝手なイメージで背景を描き、偶然できた塗りムラなどのマチエールを利用していたとある。2〜3センチ大の部分を写真に撮り、数十倍に引き延ばしたものを宇宙空間の背景として使っていたというのだ。宇宙背景の何割をその手法で処理したのかは分からないが、面白い試みだ。
 改めて『地球へ…』を観直すと、長回しをはじめとする演出プランとは別に、画面がしっかりと設計されている事に驚く。恩地監督は絵コンテ以降の絵作りは任せているはずなので、それは現場スタッフの手柄だろう。どういったかたちで画面設計が行われたのか気になる。作画に関しても、作監の原画修正でクオリティを底上げしてるとは思えない。どのようにして作画作業を進めたのか。機会があったら調べてみたいと思っている。

第41回へつづく

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(09.01.07)