細田守監督最新作『おおかみこどもの雨と雪』
記者懇親会レポート

▲報道陣を前にガッツポーズをする細田守監督(左)と、奥田誠治エグゼクティブプロデューサー

 12月13日、東京・東宝本社にて、細田守監督の待望の最新作『おおかみこどもの雨と雪』の製作発表記者会見ならぬ記者懇親会が行われた。大ヒット作『サマーウォーズ』に続くオリジナル長編であり、そして細田監督と齋藤優一郎プロデューサーが新たに立ち上げた制作会社「スタジオ地図」の第1回作品であり、あらゆる点で注目度の高い話題作である。
 出席者は細田監督と、奥田誠治エグゼクティブプロデューサー。懇親会というだけあって、形式的な内容発表よりも記者たちによる質疑応答をメインに、いたって和やかな雰囲気で進行した。冒頭の挨拶では、細田監督から作品についての説明があった。

細田 タイトルは『おおかみこどもの雨と雪』といいます。簡単に内容を説明しますと、「おおかみおとこ」と恋に落ちた若い女性が、彼と結婚して子供を産み、その子供を育てる。ただ、お父さんは「おおかみおとこ」ですから、半分「おおかみ」で、半分人間の子供が生まれてくるわけです。物語の主人公となるのは、花という名前の若いお母さん。彼女の目線から、子供たちと一緒に過ごす幸福な時間、苦労する時間、充実した時間を描くという内容を考えております。現在制作中ですので、まだまだやることはたくさんありますが、皆さんに楽しんでいただけるものになるといいなと思っています。特に、2人の子供たちがとっても可愛く、愛らしくいきいきとして、バイタリティに溢れた存在になっています。これまでの『時をかける少女』『サマーウォーズ』と同様に、バイタリティと生命力に溢れた、いきいきと元気な作品を作っていきたいと考えています。

 そして、質疑応答タイムがスタート。ついさっき発表されたばかりのビジュアルとストーリーラインから想像しうる内容面・制作面での質問を、各メディアが次々と投げかけた。合間には『時かけ』以来、細田監督とタッグを組むスタジオ地図の齋藤優一郎プロデューサーがコメントする場面もあった。


▲チラシを手に、新作について説明する細田守監督

── 『時かけ』では「青春」、『サマーウォーズ』では「親戚づきあい」から物語を膨らませ、今回はどうして「親子」をテーマにしようと思ったのか?
細田 僕の友人たちが、ちょうど同じぐらいのタイミングで結婚しまして、中には子供をもうけるカップルも何組かいました。その友人夫婦たちが子供を可愛がっている表情を見ていると、たまらなく素敵だなと思ったんです。以前なら結婚して子供をもつなんて普通のことだと思っていたんですが、自分が結婚した今、それは凄く素敵なことなんだという憧れを強く抱くようになった。その憧れをそのまま映画にできたらいいな、と思って今回の作品を発想しました。
── なぜ「おおかみこども」なのか?
細田 子供って本当にバイタリティがあって、何をするか分からないところがある。そのいきいきとした部分をいちばんいいかたちで伝えるため、巧く描くためにはどうしたらいいかと考えた時、ストレートに描くのではなく、何か別の表現のかたちがあるのでは? と思いました。それがもし動物の子供だったら凄く楽しいんじゃないか。さらに、それが人間の子供と一緒になれば、より(子供の)可愛さ、楽しさ、凄さみたいなものが伝わるんじゃないか。3歳ぐらいの子供のことを恐竜に喩えたりもしますよね。映画的比喩として、今の日本では絶滅種になってしまった「おおかみ」というモチーフを使うことで、面白みに繋がっていけばいいなと思ったんです。タイトルは完全な造語です(笑)。動物のようにいきいきとした子供たちを描こうとした時、狼少年でもなく、狼少女でもなく、「おおかみこども」という言葉がしっくりくると思ったんです。
── 舞台が富山県に設定されているのはなぜか?
細田 舞台をどこに設定するかというのは、作品の雰囲気を左右する部分なので、いつも頭を悩ませるところです。今回の物語は、まず東京から始まりまして、この子供たちを育てるには都会では無理だということになり、一家は富山県の田舎に引っ越します。なぜ富山なのかというと、きっとこの花という主人公は、あんまり便利で暮らしやすいところでは子供を育てないんじゃないかと(笑)。人から隠れて生きなければならないという理由もありますが、それ以上に、彼女はどちらかというと美しくも厳しい生活環境を選びそうな気がしたんです。実は、各スタッフの出身地を次々と回ってロケハンをしたんですが、富山に辿り着いた時、きっと花はここを選ぶんじゃないかと感じました。僕自身、高校の時まで富山に暮らしていまして、ちょっとした土地鑑みたいなものもあります。自然の厳しさを乗り越えた時、美しい風景や人々が見えてくる場所として、今回は富山を舞台にさせていただきました。
── 映像面での見どころは?
細田 前作『サマーウォーズ』では、デジタルと現実の世界の対比によって物語が展開しましたが、今回の作品では子供たちが人間の姿、狼の姿と、常にころころ変身するんです。それによって可愛さもさらに増すわけですね(笑)。そういう子供と一緒に暮らすのって、どういう感じなんだろう? 凄くヒヤヒヤするかもしれないけど、同時に凄く楽しいんじゃないかと思うんですよね。
── 『時かけ』『サマーウォーズ』に続いての参加となる貞本義行のキャラクターデザインについて、今回のポイントは?
細田 今回の作品では、主人公の花というお母さんを、凄く凛として背筋の伸びた素敵な女性として描きたいと、貞本さんと2人でずっと話し合っていました。というのは、今までの作品では「今時の女子高生」や「今時の親戚」ってどうなんだろう? という現実的なアプローチから入っていったんですが、今回はちょっと趣向を変えて「理想的なお母さん」をかたちにできたらいいな、と話し合ったんです。子供を育てるお母さんというのは、僕らからすると聖母のように見えるというか、凄く神々しく素敵な存在に見える。もちろんお母さんたち自身は、現実的な諸問題を抱えながら懸命に子育てをされていると思うんですが。そういった僕らの憧れ、理想的なお母さん像をかたちにするにはどうすればいいのか。貞本さんと頭を悩ませながら何度も描き直して、花というキャラクターを作っていきました。

▲細田監督について語る奥田誠治エグゼクティブプロデューサー

── 作品規模が大きくなっていくことについて、プレッシャーは?
細田 皆さんに次の映画を作らせてもらえるというのは、映画監督としては本当に幸運なことです。だからこそ頑張って楽しんでもらえるものを作らなきゃいけないと思うんですが、少しずつ規模が広がっていくことに対しては、とてもドキドキしますね。やっぱり興行責任というのがありますから(笑)。ただ、制作する態度としては「みんなが楽しめるものを作りたい」という部分では、そんなに変わらないんですけどね。奥田さんから見て、どうですか?(笑)
奥田 僕から見ると、監督自身は全く変わっていません。丁寧で真摯な態度はそのままです。周りのスタッフも、プロデューサー陣も基本的には同じメンバーでやっていますので、いいものを作るという体制も以前と変わりません。今や世界中の人たちに細田監督の作品が知られてきて、いろんな仕事が広くできるようになっていくと思いますが、そこで監督に今までと変わらずにやってもらうのが、周りの務めではないかと思っています。
── スタジオ地図というのは、どんな会社なのか?
細田 今回この作品を作るにあたって設立した、アニメーションの制作スタジオです。とっても小さなスタジオですが、この『おおかみこどもの雨と雪』をいちばんいいかたちで作るために最適の環境を求めた結果、小さくても自分たちのスタジオを立ち上げた方がいいのではないか、という結論に達したわけであります。
齋藤プロデューサー 細田監督の作品をいちばんいいかたちで世界に届けていく、その苗床としてのささやかなスタジオを、細田監督と一緒に作らせていただきました。皆様に楽しんでいただけるものを1本1本、背筋を正して丁寧に作っていけるよう頑張っていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

▲新会社「スタジオ地図」についてコメントした齋藤優一郎プロデューサー

── 東日本大震災が今回の作品に与えた影響は?
細田 ちょうど絵コンテを描いている時、具体的には新しいスタジオで初めて打ち合わせをした時、震災の時を迎えました。その瞬間、日本という国、世界や人の気持ちといったものまでが一変してしまうぐらいの大きな出来事だったと思います。それほど大きな出来事が作品制作に影響しないわけはなく、やはりしばらくは仕事が全く手に着かない状態にもなりました。あの震災を機に、僕らがこれからどうやって生きていくか、自分や周りの人だけでなく、みんなが日本人としてどうやって生きていくかということも含めて、考えざるを得なかったと思います。それは今この時にも、皆さんがそれぞれの立場で考えていることでしょう。
 震災を通して強く感じたのは「人は1人では生きていけない」ということです。そういった状況の中で作品を作っていく時、物語としては「お母さんが子供2人をどうやって育てていくか」という内容なんですが、その実感が作品に大きく反映されていると思います。ポスターにはお母さんと子供たちだけが映っていますが、実際の作品内にはたくさんの登場人物がいまして、その人たちがこの主人公と関わりながら生きていく。決して楽ではない状況の中で、どうやって僕らがこのポスターの中のお母さんのように、すっくと大地に立って生きていけばいいのか。そして、子供たちという未来を、どうやって僕らが支え、次の世界に結びつけるように大きく育てればいいのか。あの3月の出来事から大きく変わった日本の中で思い知ったこと、改めて気付かされた大事なことが、この映画の中にも隅々まで入り込んでいるんじゃないかという気がします。
── キャスティングについては?
細田 今まさにキャストについて考えている最中でして、この懇親会が終わってからもオーディションがあります。前2作とも、オーディションで配役を決めていったという経緯があり、今回も同じ方法をとりながら、役にぴったりな人を見つけられたらと思っています。今回、主要登場人物に子供たちがいますので、先日も50人ぐらいの子供たちをオーディションさせていただきました。本当にビックリするほど才能のある子たちがたくさんいて、本当に選ぶのが難しくて(笑)。まだオーディションの途中なので具体的な配役はまだ見えないのですが、今後また順次決まり次第、皆さんにお知らせできればと思っています。(有名無名は関係なく? という問いに)そうですね、そこは全く関係ありません。オーディションでは「わっ!」と驚くような有名な方もいれば、名前は存じ上げないけれども凄く才能のある方もいますし、本当に様々です。あらゆる分野からオーディションに来てくださって、本当にありがたいなと思っています。

▲懇親会後の写真撮影タイム、ポスター前でのツーショット

 奥田プロデューサーによれば、細田監督の前2作の海外での好評を受けて、世界展開も考えているとのこと。日本公開は来年7月とまだまだ先だが、アニメスタイルでは今後も『おおかみこどもの雨と雪』を応援し、新情報をフォローしていく予定。きっと期待以上の作品を見せてくれるに違いない。

 

『おおかみこどもの雨と雪』

2012年7月、全国東宝系にて公開

おおかみこどもの雨と雪

監督・脚本・原作/細田守
脚本/奥寺佐渡子
キャラクターデザイン/貞本義行
作画監督/山下高明
美術監督/大野広司

●公式サイト
http://ookamikodomo.jp/

(11.12.14)