アニメ音楽丸かじり(87)
『図書館戦争』は女性をウットリさせる旋律!

和田 穣

 今期のアニメ主題歌の中で僕が最も愛聴しているのが、『アクセル・ワールド』のエンディング主題歌「→unfinished→」だ。5月16日にシングルが初回限定盤・通常盤の2種発売されている。初回盤にはアーティストPVが収録されたDVDを付属させる、最近ではすっかりお馴染みのパッケージだ。
 この「→unfinished→」は、2009年よりI've外にも活動の幅を拡げているKOTOKOが、fripSideやALTIMAでの活動で知られる八木沼悟志と組んだ初めてのシングル。KOTOKOは代表曲「Re-sublimity」でトランスサウンドとの抜群の相性をみせたが、その後はそれほどこの路線に拘泥せず、近年ではややロック寄り、バンド志向にシフトしていたように思う。「→unfinished→」を聴いてみて思うのは、やはり彼女の声にはハイスピードなデジタルサウンドがよく似合うということ。八木沼悟志との組み合わせは理想的と言えるかもしれない。このコンビであと何枚かシングルをリリースしてほしいところだ。
 出だしのオチサビの「加速してく」のロングトーンはハイFという高音。アニソン界を代表するハイノートヒッターの面目躍如だ。そして技巧的で複雑なメロディながら、4月にアニマックスの「STUDIO MUSIX」に出演した時にはすでに完璧に歌いこなしていた。ライブでこの曲が披露されるのが、今から楽しみである。

『アクセル・ワールド』ED主題歌「→unfinished→」

初回限定盤:WHV-1000300210/1,890円/ワーナー・ホーム・ビデオ
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通常盤:WHV-1000300207/1,260円/ワーナー・ホーム・ビデオ
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 6月16日から全国で公開されている劇場版『図書館戦争』のサントラが、6月13日にリリースされた。全36曲52分の内容で、Base Ball Bearによる主題歌「初恋」も収録している。2008年に放映されたTVシリーズから4年を経過しての映画化だが、音楽担当の菅野祐悟は引き続いての登板。TVシリーズが終わって以降、菅野によるアニメの劇伴は『鉄腕バーディー DECODE』2シーズン分のみだが、実写ではTVドラマ37本、映画14本を担当するなどすっかり売れっ子となった。
 TVシリーズ放映当時、ノイタミナ枠でこれだけミリタリー描写の目立つ作品は珍しかったが、ストーリー上は恋愛要素もフィーチャーされており、女性人気の高い作品だった(原作者も女性である)。今回の劇場作も「“好き”から逃げない。」がキャッチコピーだけあって、笠原郁と堂上篤の恋の行方を主軸に据えたストーリーとなっている。各地の劇場でも、女性客の姿が目立っているようだ。30スクリーンという限られた条件での公開ながら、6月18日発表の国内映画ランキングでは10位に食い込む健闘を見せている。
 さて本盤の楽曲だが、ブックレットで菅野本人が語っているように、TVシリーズに使用されたテーマやメロディをあえて使わず、全てが書き下ろしの新曲によって構成されている。3曲目「OPENING TITLE」は文字どおり映画の幕開けを飾るロックチューン。どちらかと言えばピアノやストリングスによる叙情的な作風を得意とする菅野だが、こういった楽曲も書けるのだ。14曲目「思い出の王子様」は、過去に笠原郁が出会った憧れの図書隊員(実は堂上篤なわけだが)との初対面を描いた重要な楽曲。チェロの旋律が堂上を、フルートが郁の気持ちを表現するという、かなり具体的な音楽描写がなされている。
 本盤で目立って素晴らしいのは、ピアノを中心とした小品の数々。物悲しくノスタルジックな15曲目「あの日の記憶」、16曲目「また素敵な本、書いてくださいね」、希望に満ち溢れた音色の31曲目「決意の二人」、34曲目「清花の想い」、そして本作のキャッチコピーと同じ曲名の35曲目「“好き”から逃げない」など、いずれも1分強の短い時間に、素朴で衒いのない美旋律が散りばめられている。小手先の技術に逃げないメロディの強さは、本作の登場人物たちのように一本気だ。このシンプルな美しさは、劇場を訪れた多くの女性客の気持ちを捉えたに違いない。

劇場『図書館戦争』オリジナル・サウンドトラック(音楽:菅野祐悟)

TOCT-29007/3,000円/EMIミュージック・ジャパン
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(価格はすべて税込)

(12.07.03)