アニメ音楽丸かじり(31)
『おまもりひまり』『ヴァンパイアバンド』OSTを紹介

和田 穣

 発売以来ずっと品薄状態が続いている「torne」を運良く入手することができた。ご存じのとおり、地上デジタル放送のTV番組をPS3に録画できるチューナー機器である。番組表の表示がとても速くてほとんど待たされないし、表示も綺麗で見やすいのが嬉しい。
 PS3ならではのネットワーク機能を活かしたのが「トルミル情報」で、ある番組を現時点でどれくらいのユーザーが録画予約しているのか、地域ごとに集計された数値をチェックできるというもの。どの番組に人気が集まっているのかを実数で把握できるのだから興味深い。
 今期放映されているアニメの中でダントツの人気なのが『けいおん!!』だ。僕の住んでいる地域では録画数が3500を超えており(4月11日時点)、これは全てのTV番組の中でもトップの数字。2番手につけているのが新房昭之監督の新作『荒川アンダーザブリッジ』で録画数約2800、以下『WORKING!!』『Angel Beats!』『閃光のナイトレイド』と続く。
 この「トルミル情報」がファンのニーズの実態、つまりDVDを始めとした関連商品の売り上げとどのくらい対応しているのかも気になるところだ。今後はこのあたりについても調べてみたい。

 さて、このように新番組も続々とスタートしているわけだが、現時点ではまだまだリリースされたCDもほとんどない状況だ。そこで今回は3月に終了した番組のサントラから、注目のCDを2枚取り上げてみたい。
 まずは3月17日にリリースされた『おまもりひまり』のサントラ「ニャンともカンとも劇伴アルバム」だ。CD1枚ながら収録曲は41曲、トータルで77分とボリュームたっぷり。OPとEDのTVサイズも収録している。
 音楽を担当するのは橋本由香利。『さよなら絶望先生』シリーズや『ストライクウィッチーズ』などで主題歌、キャラクターソングを担当しており、声優への楽曲提供も数多い。どちらかというと歌ものの印象が強い作曲家だが、近年では『とらドラ!』『かなめも』『よくわかる現代魔法』などで劇伴にも進出している。
 このサントラを取り上げようと思ったのは、深夜アニメでは珍しく映像が先に完成し、後から音楽をつけているため。公式サイトではこれを「あやかしサウンドシステム」と呼んでいる。制作手順の細かいところは分からないが、放映半年前には映像が完成していたというから、恐らくはフィルムスコアリングに近いやり方で音作りが行われたのではないだろうか。
 楽曲の方向性そのものは基本に忠実だ。まったりしたシーンで使われる4曲目「ゆったり時間」ではトロンボーンを、本作のウリとも言えるお色気シーンでは5曲目「お色気ムンムン」のようにサックスを、哀愁漂うシーンの10曲目「優しさと哀しさ」ではアコースティックギターを用いている。それぞれ定番中の定番といえる用法だろう。
 また、童謡調のヴォーカルを導入した1曲目「鬼切り役」や、そのバリエーションである33曲目「人を喰らい、妖を喰らい…」で作品の中にある和風テイストを表現しているのも聴きどころとなっている。

『おまもりひまり』OST「ニャンともカンとも劇伴アルバム」(音楽:橋本由香利)

COCX-36105/2,500円/コロムビアミュージックエンタテインメント
発売中
[Amazon]

 3月3日に発売された『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』のサントラは、ご存じ元レベッカの土橋安騎夫が音楽を担当していることで注目の1枚だ。こちらも45曲と収録曲が多く、76分という長さ。もちろんOPとEDのTVサイズも収録している。レベッカの代表曲のカバーであるOP「フレンズ」については、この連載の第26回にて取り上げているので、そちらも参考にしていただきたい。
 キャリアの大半をバンドマンとして過ごしてきた彼がアニメの劇伴を担当するのはこれが3作目。やはりその内容には一般的な劇伴作家の音作りとは違った個性が垣間見える。
 本作のような吸血鬼ものと言えば、これまではバロックやゴシック調の音楽をモチーフにした作品が多かったように思う。もちろん相性がいいから多用されるわけだが、土橋安騎夫はこういったアプローチとはかなり異なる発想を持っていたようだ。テクノ、トランスを基軸に、激しいロックギターのサウンドを取り入れた、いわばビッグビートやインダストリアル系に近い音像を持ち込んできた。つまり、吸血鬼の持つ古色蒼然とした耽美的なイメージよりも、魔物然としたダークで強大な存在感を前面に押し出し、それを激しいビートや歪んだギターによって表現している。特に戦闘シーンにはそのあたりの特徴が顕著で、番組をご覧になった方は印象に残っているのではないだろうか。
 本人のブログによれば、サントラの曲順も自ら考え抜いた自信作であるとのこと。実際に上記のような個性的な戦闘曲を序盤に並べており、一気にその音楽世界へと引き込まれる構成となっている。

『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』OST「Sound In The Vampire Bund」(音楽:土橋安騎夫)

VTCL-60189/3,045円/フライングドッグ
発売中
[Amazon]

(価格はすべて税込)

(10.04.13)