アニメ音楽丸かじり(13)
『シャングリ・ラ』『Pandora Hearts』サントラを紹介!

和田 穣

 皆さんがこの記事を読む頃にはすでに7月7日の七夕になっていることだろう。今年は『涼宮ハルヒの憂鬱[第2期]』の影響で、短冊に宇宙語のメッセージを書いてしまう人がけっこういたりするのではないか。そして七夕といえば今年は菅野よう子のライブ「超時空七夕ソニック」の開催日でもある。以前「もう何年も休みをとってない」と語っていたほど多忙な彼女だけに、準備に手間暇がかかる大規模なコンサートの機会は今後もそれほどはないだろう。当日さいたまスーパーアリーナに集う菅野ファンの人達、僕も参加するので共にこの貴重なイベントを力一杯楽しもうではないか!

 CD紹介はまず先月発売の作品から1枚をピックアップする。
 ここ最近DVD-BOXコミックス新装版とリリースが相次いでいる『あずまんが大王』から、「オリジナルサウンドトラック おまとめ盤」が6月24日に発売された。これは番組が放映された2002年に発売したオリジナル盤「OST1」と「OST2」の2枚を文字どおりひとつにまとめたもの。2枚組に全72曲を収録しており、3500円とお手頃な価格でのリニューアルとなる。
 『あずまんが』と言えばその後多くのフォロワーを生み出した、女子高生の日常を描く「ゆるい」「まったり」なコメディの先駆者であり、画面の構成や台詞のテンポなどで「間」を強く意識させる工夫が光っていた。栗コーダーポップオーケストラの作曲・演奏による劇伴の数々も、この方向性にしっかりと貢献していたように思う。
 楽器編成はトレードマークであるリコーダーの演奏を中心に、ピアニカ、木琴、ハーモニカなど誰でも一度は触れたことのあるような身近な楽器が主立ったところ。打ち込みどころかシンセもほとんど使われておらず、生楽器にこだわった素朴で暖かみのあるサウンドが特徴だ。これらの楽曲は他のTV番組でも、日常性を印象づけるシーン等でしばしば使用されており、そちらで耳にしたことのある方もいるのではないだろうか。
 OPとEDについてはTVサイズで収録されている。歌を担当した「Oranges & Lemons」とは伊藤真澄・上野洋子の2人によるユニット。伊藤は七瀬光の名義で作曲家としても活躍し、現在放映中の『Phantom —Requiem for the Phantom—』では劇伴を作曲している。作詞を担当したのはご存じ畑亜貴で、彼女の作詞家歴の中でも初期を代表する作品のひとつ。その後『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』でお馴染みとなった、主要キャラクター全員のキャラソンを一人で作詞していくスタイルも、本作が原点だ。

『あずまんが大王』OSTおまとめ盤(音楽:栗コーダーポップオーケストラ)

LACA-9151〜2/3,500円/ランティス
発売中
[Amazon]

 黒石ひとみ(hitomi)といえば『LAST EXILE』EDや『プラネテス』『ガン×ソード』挿入歌における澄んだ歌声が印象に残っている方も多いだろう。作曲家としても『LAST EXILE』ではDolce Triadeとして3人で、『コードギアス 反逆のルルーシュ』では中川幸太郎との連名で音楽を担当した。
 そして現在放映中の『シャングリ・ラ』では単独で劇伴を担当。そのサントラCDが7月8日にリリースされることとなった。内容は全25曲で59分の収録。ジャケットは村田蓮爾の手になる國子のイラストで、デジパックに半透明のプラ製ケースを被せた凝った作りとなっている。
 内容の方だが、まずMay'nが歌うOP「キミシニタモウコトナカレ」、midoriによるED「はじまりの朝に光あれ。」はいずれもフルバージョンを収録しているのが嬉しい。劇伴では1話序盤に登場した1曲目「コーリング」から多重録音による神々しいコーラスが登場し、8曲目「胡鳥夢幻」、16曲目「耳飾りの約束」と挿入歌もhitomiならではの美しさ。歌手としての彼女のファンにもおすすめだ。
 作曲者がブックレットで語っているのだが、地球温暖化をテーマにした凝った世界観と、多数の登場人物が入り乱れる物語だけに、BGMは「場面がすぐに判別できるような」分かりやすさを心がけたという。國子たち「メタル・エイジ」が暮らしているドゥオモの場面はパーカッションを多用した熱帯のイメージ。空中都市であるアトラスは5曲目「理想郷」に代表されるように荘厳なクラシック。美邦の登場シーンや「月宮殿」の場面では、篠笛や笙といった邦楽器を使って和風の雰囲気を演出している。

『シャングリ・ラ』OST(音楽:黒石ひとみ)

VTCL-60144/2,940円/flying DOG
7月8日発売予定
[Amazon]

 梶浦由記の劇伴最新作で現在放映中の『Pandora Hearts』のサントラ第1弾が7月8日にリリースされるので紹介したい。TVサイズのOP・EDを含む全26曲で60分を収録する。
 これまで『NOIR』『コゼットの肖像』『空の境界』を担当してきた作曲家だけに、本作のようにゴシックやホラーの要素を持つ世界観はお手のものだろう。クラシックを基調に要所でコーラス、ヴァイオリン、オルゴール等を使ういつもの梶浦サウンドで、妖しくも美しいムードを盛り上げてくれる。またコミカルなシーンも多い作品だが、そういうった場面では思い切ってトボけた音楽を書き、三の線を演じることができるのも梶浦由記の魅力だ。
 1曲目「Pandora hearts」を始めとして多くの曲で造語詞によるヴォーカルが入っており、担当するのは伊藤恵理、WAKANA、貝田由里子といった梶浦作品ではお馴染みの面々。教会音楽を思わせる美しいハーモニーは、FictionJunctionやKalafinaのファンにもおすすめできるだろう。
 僕のお気に入りは2曲目「Foretaste」だ。ミステリアスな響きを持ったストリングスが番組のムードを決定づけているし、曲の後半にはチュブラーベル(鐘)の音まで入ってゴシックな雰囲気たっぷり。また6曲目「Crush」は勇壮なストリングスで始まり、中間部からはエレキギターとハープのオスティナートをバックに、ソロフルートが伸びやかにドリア旋法のメロディを奏でる。この2曲は近年の梶浦由記の劇伴曲の中でも、特に独創性があって優れたものの部類に入るように思う。

『Pandora Hearts』OST1(音楽:梶浦由記)

VTCL-60120/3,045円/flying DOG
7月8日発売予定
[Amazon]

(価格はすべて税込)

(09.07.06)